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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第247話

恭香回です! メインヒロインなのに影薄かったですからねぇ......。

そんなこんなで日々は過ぎ去り、夏休み最終日。


結局クラン自体もまだ安定しているとは言いづらく、たまに悪意を持って近寄ってくるものも現れる。

というわけで『夏といえば海! 水着回だ!』というのも先送りとなり、結局はぐだぐだと何もせずに夏休みを過ごした。


まぁ、学園の宿題がないということでニートみたいな暮らしをお送りしてしまったわけだが、流石にここまで休日という名の泥沼に片足どころか両足突っ込むと、もう金あるんだし働かなくていいんじゃないかな、学校やめてもいいんじゃないかな、という気がしてくる。


まぁ、それは最強へと至る道に自らダイナマイトを仕掛けて爆発させるようなものではあるが、正直最強まで至って何すんだ、って話である。


最強まで至ることが出来れば、僕らは楽に暮らせるだろう。


きっと今みたいに時の歯車の面々にビクつく事もなく、悪に走ったとしても誰も止められず、やろうと思えば世界征服何かもできるんじゃないかと思う。悪魔軍じゃないけど。



だからこそ───楽に暮らしたいからこそ、僕は最強まで至りたいのか?



僕は自室のソファーから立ち上がり、カーテンを開ける。


そこに広がるのはキラキラと光り輝く一面の星空に、眼下に広がりつつある街並み。



それを見て僕は思ってしまう───壊したくない、と。



壊したくない。


それは停滞を望むということでもあるが、きっと僕の望むそれは違う。


停滞ではなく───安心。



そこまで考えたところでため息をつくと、「なにシリアスになってんだ僕」とこめかみをグリグリと拳て押し込む。



「とりあえず進んでいるものの、一体僕は、どこを目指してるんだかな」



そう一人つぶやくと思考を一度停止させ、僕はソファーに再び腰を下ろす。



───コンコンと、扉がノックされたのはその時だった。




☆☆☆




空間支配を使い、扉のロックを解除する。


ガチャン、とドアが開く音がして数秒後、恐る恐るといった感じで扉が開かれ───そこから覗いていたのは恭香の顔だった。



「なんだ、妙に恐る恐るだったからネイルあたりかと思ったけど恭香だったか。で、何? 夜這い?」


「夜這っ───!? そ、そそ、そんなわけないじゃん! そもそも前提として、自力でギンの部屋に忍び込めるのなんて白夜だけだからねっ!」



いきなり顔を真っ赤にして叫び出す幼女。

これ幼女の叫び声&防音っていうセットでなければ近所迷惑もいいところだよな。



「くっ、このロリコンめ」



なんだか辛辣なことを言われた気もするが、ほんと僕、ロリコンじゃありませんからね? ロリコンだったら僕の興味は恭香とオリビア、辛うじて白夜あたりに集中してしまう。彼女の中に輝夜とアイギスがいるということが何よりの証拠ではなかろうか? ちなみに藍月と伽月に関しては恋愛対象外です。



「逆に五分の三が幼女な時点でロリコンの証明になるんじゃないかな? キス経験もアイギスを抜かせば全員幼女だし」



......それは、あれだ。たまたまだ、たまたま。


僕は情勢が悪くなってきたことを鋭敏に察すると、数回わざとらしく咳をしてから話を逸らした。



「で、結局何しに来たんだ? 何か用事があったんじゃないのか?」



僕がそう問いかけると、一瞬言葉を詰まらせた恭香はぷくぅっと頬をふくらませると、頬を朱に染めながらそっぽを向いた。



「な、何か用なきゃ来ちゃいけないのっ?」



───なにこれツンデレ?


そう言いたくなるような仕草ではあったが、けれどもその可愛らしい仕草に思わずドキッとしてしまう。

まぁ、自分の半分も生きていない幼女にドキドキさせられている時点でロリコンの素質は十分な気もするが、



「ダメなわけないだろ。ま、とにかくこっち来いよ」



僕はとりあえず、恭香を自室へと入れることにした。




☆☆☆




「あの......恭香さん?」


「......恥ずかしいから何も言わないで」



僕は自室の二階───つまりはプライベートルームへと恭香を案内し、ソファーへと座ったのだが、今現在。


───何故か、恭香が僕の膝の上に座り込んできたのだった。


あれっ、これって普通隣じゃないの? 向こうでは彼女いたことないからあまり分からないけど。

そしてとりあえずなにか聞こうとした所で件の答えが帰ってきて、僕はとりあえずこれが『普通じゃない』ということは察した。


そして、恭香が何かしら考えを持ってこうしてる事も。



先程から僕の心を読んでいるのかぷるぷると赤くなって震えている恭香ではあるが───僕は、恭香を後ろから抱きしめてみることにした。



「なっ!?」



一瞬ピクッと恭香の体が跳ね上がり、すこし腕の中で動いていた恭香ではあったが、少しすると諦めたのか僕へと体を預けてきた。


ぎゅっと力を込めると潰れそうなほど小さくて、柔らかくて、温かい。


いつか、ずぅっと昔。それこそ父さん(ウラノス)母さん(リーシャ)に出会うより前に感じたような、どこか懐かしい温かさを感じで目頭が少し熱くなったが、幼女に抱きついて泣く姿を考えたら涙が引っ込んだ。



「むぅ......、なんか馬鹿にされてるのか信頼されてるのか分かんないんだけど?」


「えっと、あれだ、あと数年もすればきっと僕は恭香メロメロになっちゃうな、ってことだ」


「そ、そう......? な、ならいいんだけど、さ」



恭香はそう言うと尚一層顔を赤くして俯きだし、僕が本心で言っているのも察したのか後ろから見える耳まで真っ赤っかである。


まぁ、たまに毒盛られたりもするけど、恭香のこういう純粋なところが好きなのかもしれないな。


すると恭香はいきなりビクンと反応し出し、赤い顔をしたまま振り向いた。



「ど、毒盛ったのは悪かったよ......。言い訳になっちゃうけど、なんだか最近構ってくれなかったから、お姉ちゃんにそそのかされて、まぁ、いいかな、って......」



申し訳なさそうな声から始まり、次第に恭香の声が小さくなってゆく。


正直毒盛ったことに関しては僕がその程度じゃ死なない、って確証を持っていたからこそ行った蛮行だったはずだし、実際に今僕はここに生きている。

ならば反省さえしてくれればわざわざ掘り返して傷口に塩を塗り込む必要性もなく───



「ハッハッハー、ただの冗談だから安心したまえー」



その後、頬を膨らませた恭香に叩かれたのは言うまでもないことだろう。



───あと、これが他人だったら、絶対『リア充爆発しろ』とでも思っていたんだろうなぁ、とも思った。




☆☆☆




その後もしばらく、僕と恭香は二人で話し合い、笑い合い、気づけば既に時計の針は頂点を回っていた。


流石に付き合っているとはいえ二人で寝るわけにもいかず、恭香は自室へと帰り、僕は明日───それも早朝にはここを出て、始業式へと向かわねばならないため、恐らく、二人だけで過ごすのは今日を境にしばらくはないだろう。


だからこそ恭香もそのことには触れないし、僕だって出来ることならばこのままで居たい。



───けれどまぁ、そんな子供みたいな事を言っていても仕方が無い。大人は分別よく、きちんとしなければいけない。



僕は恭香の身体を持ち上げてソファーの横に座らせると、立ち上がってぐぐぐっと背伸びをした。


吸血鬼という特性上、生きる=血が必要という訳では無いため、長時間恭香を膝の上に座らせていたにも関わらず足の痺れはなく、僕は何の不自由も無く立ち上がることが出来たのだが───



「んっ」



そんな声とともにポスンと僕の胸へと恭香が飛び込んできて、僕の服を両手でしっかりと掴み、ぎゅっと胸板に顔を押し当てた。


いきなりの事に少し戸惑いを覚えた僕ではあったが、その戸惑いは一瞬にして霧散した。



「ギンは大人かもしれないけど、私は子供だよ。だったら分別なんて必要ないし......ギンとはもう、離れたくないよ」



そう、ぐぐもった恭香の声が聞こえ、僕は恭香の年齢を思い出す。

恭香は半年ほど前に誕生日を迎え、今現在は九歳だったはずだ。


そう───九歳だ。


恭香自身が『理の教本』だということからも分かるが、彼女は歳に比べて分不相応な程の知識を持っている。

そのため頭もキレるし知能も高く、感情のコントロールも大人と変わりなく出来ているのだ。



───と、そう思い込んでいた。



僕は恭香の背中へと手を回すと。ポン、ポンと軽く叩きながら声をかける。



「なんだよ恭香、珍しく子供っぽく甘えるじゃないか」


「......ぐすっ、私、子供だもん」



そう、彼女はまだ子供なのだ。


それなのにも関わらず僕は彼女を頼り、任せ、放り出して、そしてそれに対して、それこそ分不相応な対応をした。

しかも彼女の性格上、僕に任されれば自分が子供だったとしても、何一つ文句を言わずに成し遂げるだろう。



───自分の気持ちを、押し殺して。



それを考えれば恭香が今、こんなに甘え出すのも頷けるし、僕も甘やかしたい気持ちになってくる。



「恭香」



僕は彼女の名前を呼ぶ。


彼女はそれに反応して顔を上げる。


目は赤く腫れ、頬には涙のあとがついている。


泣いている彼女には悪いが、今の彼女はとても美しく、可愛らしく、やっぱり僕は、彼女のことが好きなんだなぁと実感してしまう。


僕は少し頬を緩めると、彼女の瞳をじっと見つめてこう言った。




「恭香、僕はお前のことが大好きだし、何よりも大切だ。もしも誰かに誘拐でもされれば僕はその犯人を絶滅させるし、恭香が世界を敵に回すなら、僕もお前のためだけに世界を敵に回して戦ってやる。それくらいお前のことが大切で、大好きだ」



恭香は僕の瞳を見て、頬を染めて目を見開いた。



「だからさ。辛いなら僕に言ってくれ。助けが欲しいなら僕に言ってくれ。甘えたいなら、僕に言ってくれ。僕はお前のためなら何だってやるし、お前の望みなら、何だって叶えてやるさ」



そう言って僕はニッコリと微笑み───




「恭香、いつもありがとう」




本心からそう感謝の言葉を伝えて、抱きしめた。


恭香は少ししてから僕の服をぎゅっと握り返し、




「うんっ」と、喜色に溢れる声で、返事をした。




☆☆☆




その後、恭香たっての希望(わがまま)である『今日は一緒に寝たい』を叶えるべく、僕は自らの鋼鉄の精神を鼓舞して布団へと恭香を連れていった。


僕はまだ寝る気にはなれないし、寝ようと思っても正直恭香が寝てるすぐ側で寝るのは心臓に悪い。


そのため僕は恭香の手を握りながら彼女が寝るまで傍に居てやることにしたのだが、彼女もよほど疲れが溜まっていたのか、布団に入って僕の手を握り、しばらくたった頃にはスヤスヤと寝息を立てていた。



「恭香も、やっぱり子供なんだよなぁ」



僕はそう呟いて恭香のサラサラとした黒髪の頭を撫でると、どんな夢を見ているのか、少しニヤニヤとして寝返りを打った。


その際に恭香は僕の手を離して背中を向いてしまったため、僕もとうとうやることがなくなり、毛布をきちんと恭香へと掛けてソファーへと向かうことにした。



ふと、恭香が来る前に考えていたことが頭を過ぎる。




僕はこの世界を壊したくない。


確かにその気待ちはあるが、今、恭香と話してその言葉が『正しくない』と気がついた。


この世界は美しい。それこそ地球と比べても圧倒的に、だ。

料理は美味しいし、山、川、海といった自然も豊かで、何よりもこの夜空が、美しい。


確かにそれらを壊したくない気持ちはあるが、けれど一番じゃない。



そう───僕は恭香を、仲間達を傷つけたくないのだ。



そう考え至れば至極単純なことで、かつて僕が『一人で戦う』と考えて止まなかったあの思考は、『仲間を傷つけたくない』という感情の裏返しであり───それが全ての原点で、答えだったんだ。



「仲間を傷つけたくない。みんなで楽しく暮らしたい」



そして僕は、きっと───



僕はベットの方へと一度視線をやり、恭香の可愛らしい寝顔をみて、こう思う。




「案外、考えてみれば簡単なことだったのかもしれないな」




そうして僕は、ごろんとソファーに横になった。



イチャコラしやがってこのリア充が(怒)。

でもさすがギンくん、あそこまで行っておきながら手を出さないとは何たる鋼の精神。見上げた鶏根性です。

次回! 夏休み明け、学園編再開です!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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