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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第246話

ペンギンって可愛いですよね。

───open



そう書かれていた『万屋』に僕は緊張しながら足を踏み入れたわけだが。



「あぁ、あぁ、一体どうしたらいいのですか!? せっかくパン屋のアルバイトを辞めてまでこちらに越してきたというのに総客数ゼロ! 皆さんに今一番売れ筋の土地を聞いてわざわざ、わざわざですよ! わざわざ、残り少ない貯金を減らし、すこーしだけ借金までして、そして越してきた結果これ! 売れないどころか客すら来ないってどういうことですかっ!」



僕は、ホコリ取りを手に持って掃除しながら、延々とそんな愚痴を一人呟いているソレ(・・)を見て、目を見張った。



(な、な、なんだ......あれ?)




身長は160cm程だろうか?

白いずんぐりとしたお腹。

そして足元から背中、頭部にかけて、滑らかな丸みを帯びた黒い背中。

ぱちくりとした黒い瞳に、人とは思えないほどに長く、発達した唇。

そして───まるで鳥類のような両腕。



───まぁ、いわゆる『ペンギン』というヤツである。



何故ペンギン? と思うかもしれないが、そんなのは僕の知ったことではない。

客寄せのぬいぐるみなのか、それとも獣人族の超絶特異種なのか、それともただの変人なのか。


まぁ、いずれにしてもこれは想像以上に厄介な案件なようで、もう毒盛ったとかどうでもいいから恭香に確認をとって出直して来たい。うん、コイツをソロで攻略するのはちと骨が折れそうだ。



僕はそこまで考えると未だにこちらへと気がついていないペンギンに気づかれないよう、そうっと、なるべく音を立てないようにして後ずさり───




瞬間、ギギィッ、と床が鳴った。




「「あっ」」




そして僕は思わず床から顔を上げる、こちらをガン見しているそのペンギンとバッチリ目が合った。


もうそれはそれは、数年ぶりにあった恋人同士のごとく、時間も忘れて視線を交わらせた。



───そして、



「お、お邪魔しまし───」


「い、いらっしゃいませっ!!」



ギンは逃げた!

ペンギンに回り込まれた!

ペンギンのこうげき!『いらっしゃいませ!』


クソッ! このペンギンどんなステータスしてるんだ! 今結構ガチで逃げたけどもう回り込まれたぞ!?


僕は舌打ち混じりにペンギンの背後の扉へと視線を移すが、そのペンギンは僕を帰すつもりがないのか、ジリジリとこちらへとにじり寄ってきた。


───その瞳に映るのは、執念の炎。


僕はそのあまりにも大きな執念に思わずゴクリと喉を鳴らし、




「お、お願いしますっ! 明日ご飯を食べるお金もないので、な、なんでもいいから買って行ってください!」


「.........はい?」




あまりにも悲しい告白に、僕は思わずそう声を漏らした。




☆☆☆




「いやぁ、もう助かりましたよー、名も知らぬお方ー。商売仲間......って訳じゃないですが、知り合いに店を出したいと提案したところこの場所を教えてもらったのですが、なんとまぁ客が来ないもので。たまに店の外に洗濯物とか干しに行ってるんですが、皆さん私を見た途端に逃げ出すんですよぉ? 酷いと思いませんかぁ?」


「ん......あぁ、そう...かもしれないな」



僕はそのペンギンからのマシンガントークならぬ、マシンガン愚痴を聞き流しながら店内を見て回っていた。

店の大きさは大して広くなく、店内には万屋と言うだけはあって色々なものが販売してあった。


魔導具や武器、防具はもちろん、『何これ』と思わず聞きたくなるような食べ物(?)にお酒や、先ほど言っていたパン屋でアルバイトの影響か、何故か焼きたてのパンまで置いてある───なんだこの混沌とした店は。もしや混沌(カオス)の差金か?


そんなことを考えながら歩き回っていると、そう言えば未だにこのペンギンの名前を聞いていなかったことに気がついた。



「そう言えばまだ自己紹介をしてなかったな。僕はギン、SSランク冒険者だ。アンタの名前はなんて言うんだ?」



何故だろう、このペンギンに敬語を使う気になれなかった。



「あっ、そう言えば聞いてませんでしたねっ! 私の名前は『アスタ』といいます! 貴方しかお客様が居ないのでこれからも末永くよろしくお願いする所存であります!」



───おい、このペンギン僕から生活費ぶんだくるつもりじゃないだろうな? こちとらそういう『情』には流されやすいんだから止めてくれよ。


僕は詳しく『何その格好、舐めてんの?』とでも聞こうと思ったが、もしも過去に何か窺いしれないようなことがあった結果そうしているのかもしれないと思うと、あまり聞く気にもなれない。


だがしかし、流石に少し気になったので遠慮気味に僕は口を開く。



「あ、あのさ......、もし嫌だったら言わなくてもいいんだけど、そのペンギン...? それが素だったら悪いけど、そのぬいぐるみみたいなの、なんで着てるの?」


「ふっ、お客さん。ミステリアスな女性にはあんまりふみこんだこときいちゃいけねぇぜ? ぶっちゃけ言うと趣味ですが」



そして万屋に、静寂が訪れる。



僕は顔に無表情を貼り付けて、スタスタとペンギンの方へと歩き出すと───そのぬいぐるみを剥がしにかかった。




「こんのクソペンギンが! ちょっと心配して損しちゃったじゃないか! って言うかペンギンの癖してミステリアスとか頭おかしいんじゃないの、この飛べない鳥類が!」


「ちょ!? け、警察呼びますよ!? ま、まっ、ほんと何してるんですか! 女性をいきなり剥ぐとかセクハラもいい所ですよ! ちょ、ほんとやめて下さいってば、謝りますんで! 別に悪気があってしてる訳じゃないですよーーっ!!」




そうして僕は、自称女性のアスタと数分間、結構ガチな格闘を繰り広げるのであった。




☆☆☆




数分後、僕らは膝に両手をついて息を荒らげていた。



「はぁ、はぁっ、やるじゃないか、ペンギンの癖に」


「はぁ、はぁ、そ、それはこっちのセリフですよ! 私はペンギンの中では最強を自称しているのですが、まさかこのペンギンのアスタと互角にやりあえる人が居るとは......」



───この野郎、何がペンギン最強だ。さっき格闘戦した時分かったけどきちんと中身入ってんじゃないか。



僕はため息混じりに上体を起こすと、ちょっとけっこう真面目に格闘戦を挑んだのに『勝てなかった』という事実に少し傷ついた。


僕がそうして少し傷心していると、目の前のペンギンは何を考えたか、まるで名案だ、とでも言わんばかりに手をぽんと叩くと、いきなり馬鹿なことを言い出した。



「そうです! 勝負をしましょうか! 私が勝ったら貴方は私の店の商品を十個買っていく、貴方が勝てばなんでも一ついうことを聞いてあげましょう!」



僕はその言葉に「今勝負して引き分けた所だろうが」と反論しようとして───



「勝負内容は簡単! 貴方が今から使用した『技』を私が使うことができるかどうか、という勝負です!」



僕はそのあまりにもワンマンショーになりかねない勝負を聞いて、思わずため息を漏らした。


今アスタは『技』と言った。


ならばそれは体術はもちろん僕の原始魔法、影神モードに、果ては炎十字までもが含まれる。

普通に考えても、僕の圧倒的有利な条件だし、例え全知全能のゼウスであっても炎十字の銀炎のコピーは難しいだろうという自信がある。


それをコイツは自信満々に勝負を挑んできたわけで。



「お前......、本当にそんな勝負でいいのか? 勝ったらそのぬいぐるみ脱がすぞ」


「ふふん! このペンギン最強のアスタ様が負けるわけないのですよ! 貴方には大人しくお金を店に落として帰って、また店に来てもらう予定ですから!」



別に今何か商品を買ったとしてもまた来る可能性は限りなく低いのではないか、とは思うが、まぁ、それでも勝負を挑むというのならばテキトーに銀炎でも出して終わらせよう。



「そんじゃ、今のルールでいいんだな?」


「ええ、ちょっとワンマンショーになってしまいそうですけどねー」



僕は自信満々のアスタの声を聞き流して、見やすいように前に出した左手に銀炎を纏う。


神器・炎十字(クロスファイア)の能力である『銀滅炎舞』。

これは炎十字、及び聖獣である白虎持つユニークスキル。


この目の前のペンギンが白虎や全知全能でさえ無ければ、この力は使うことはもちろん試みることすら───




「......え? そんなの(・・・・)でいいんですか?」


「.........はっ?」




僕はドヤ顔から一転、目を見開いて固まった。


目の前には僕と同じように左手を前に出しているアスタの姿があり───



その掌には───光り輝く眩い銀炎。




「ぎ、銀滅...炎舞......だと?」


「へぇー? これってそんなかっこいい名前なんですねー。色々弄ったら強くなるかもですが、まだまだこれ単体じゃ『人畜無害』と言った感じですねっ!」




その言葉を聞いて───あまりにも純粋なその言葉を聞いて、僕は膝から崩れ落ちた。


───あれっ、なんだろう。結構銀滅炎舞に関しては自信あったんだけどな。涙が止まらないぜ......。


すると僕の内でも同じような心情の者がいたらしく、悲しげな声が響いてきた。



『その、なんだ。最近は銀滅氷魔ばっかりだったし、久しぶりの銀滅炎舞、ちょっと張り切って炎出したんだけど......、そ、そそ、それが、人畜無害......?』



いつに無く心がポックリと折れた様子のクロエさん。


いや、分かるよ。銀炎なんて自分以外は使えないと思ってたのにいきなり目の前でコピーされ、しかもクオリティが自分以上と来た。その上相手はペンギンである。死にたくもなるだろう。



ふと気がつけば僕の目の前には仁王立ちのペンギンが立っており。




「それじゃー約束通り、十個ほど何か買っていってくださいね!」


『「......はい」』




まぁ、そんなこんなで僕とクロエは、『お前は一体何者だ』などという質問をする気力もなく、結局パンを十個ほど買ってとぼとぼと帰還したのだった。



───追伸、買ったパンはとんでもなく美味しかったです。




☆☆☆




「「ご、ごめんなさいっ! もうしないので許してください!」」



クランホームへと帰ってきた僕は、どこかぼーっとした感じで恭香と暁穂の土下座を見つめていた。


あの後僕とクロエは一言も喋ることなく、それらを通して見ていたであろう常闇も珍しく静まり返り、そして妙な静けさを伴いながら我が家へと戻ってきた。


そして入口を抜け、ロビーに入った途端これである。



「ん、あぁ、毒を盛ったことならもういいよ、反省してるなら」



そういった途端二人は顔を上げたが、その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、まぁ、あの後素に戻って死ぬほど後悔したんだな、ってのが窺える。


まぁ、うん。アレ(・・)に比べれば大したことじゃないさ、うん。



「? ......ぐすっ、アレ、って何のこと......?」



どうやら恭香は今の今まで僕の動向を追うことが出来ていなかったようである。

まぁ、あそこまで気配や魔力を遮断して動いていたのならばそれは当然でもあるが───



「あのペンギン、その状態の僕と普通に会話してたもんなぁ」


「「......ペンギン?」」



正直今の僕はかなり強い。

それこそ、今本気を出せばあの獣王とサシで勝負すれば両腕は奪えるのではないか、というレベルだ。正直、EXランクに片足を突っ込みつつある。


───が、あのペンギンは近接戦闘では僕と互角だったし、魔法や能力に関しては比肩することが烏滸がましい、そう言っても過言では無い程だった。



「どこの誰かは知らないが、こうなったらコピー出来ないレベルの超絶技でも編み出す他ないか......」



僕は恭香と暁穂へとそれぞれ「はいお土産」と言ってパンの袋を投げ渡すと、地下の訓練場へと足を向けた。


けれども、数歩歩いたところで僕は『そう言えば今日、デート全然してないじゃん』と思い出し、二人を振り返ってこう告げた。




「三人でじゃなきゃまたデートしてあげるから、あんまり落ち込むなよ、二人とも」




僕はそう言って頬を緩めるのであった。




☆☆☆




それと同時刻。


その万屋の店主はカウンターで頬杖をつき、ぼーっと虚空を眺めていた。



「はぁ、何がまだまだ『弱い』ですか。普通に強いし近接戦闘に関しては完全に互角だったじゃないですか。それって弱いとは言わないと思うんですよねー。こちとらあの霊器(・・・・)越しじゃ力は読めないんですよ......?」



独り言。


店主自身もそう思って口に出した言葉ではあったが、けれどもその言葉には返事があった。



「クハハッ、ここはひとまず謝罪しておきます。たしかに今の彼は既に『一つ』引き出していた。まぁ、それだけでは無かったみたいですが、今の彼を『弱い』と称するには些か問題がありますね」



室内にはそのような軽薄そうな声が響き、店主の視線の先───暗闇の中から彼は現れた。


丈の長い紫色のコートにシルクハット。


この世界には珍しい黒髪に、暗闇に光る赤い瞳。


その姿は先程までこの場所にいた『彼』と瓜二つであり。



「あれ? 居たんですかメフィスト(・・・・・)さん。居たんでしたらあと十数分早く出てきて下されば...」


「いえいえ、私は彼には少々嫌われているようでしてね。つい先日など出会い頭に必殺技を貰いましたよ」



その男───メフィストの登場にさして驚いた様子を見せない店主は、少し考えた様子を見せた後に先程習得した(・・・・)銀滅炎舞を披露する。


その銀炎に思わず目を見開き、驚いたような表情を浮かべるメフィストではあったが、大まかな未来を予測できる彼のことだ。内心ではきっと違うことを考えているに違いない。


そんなことを思いながらも、店主は銀炎を消して問いかける。



「もしかして必殺技って今の技のことですか?」


「ええ、たしかにその炎を付与した正拳突きだったかと記憶しておりますが、いやはや、やはり貴女は恐ろしい方ですね」


「恐ろしいですか!? 自分で言うのも何ですが、この服って可愛くないですか? ペンギンですし」


「ペンギンは可愛いと思いますよ? 問題は貴女の能力です」



ペンギンのぬいぐるみを『服』と言ったことには触れず、メフィストは彼女───アスタの能力について思い出す。



「『模範解答(パーフェクトマスター)』でしたか。全ての能力を見ることで全て自分のモノにしてしまう、日本でいうところのチート、って奴でしたかね?」


「そうそう、そうなんですよ! 日本って素晴らしいですよね! 私と似たような能力を持ってる主人公を見た時なんかビビビッ! ときましたもの!」



少し噛み合っていない会話に少し苦笑したメフィストではあったが、ふと時計を見て少し目を見開いた。



「おっと、申し訳ありませんがそろそろ時間のようですので、今日はこれにて失礼します」


「はーい! ......って言うかメフィストさん! メフィストさんは一応二人目のお客様なので何か買っていきませんか!? ちょっと借金返済のお金が足り───」


「それでは失礼します」


「メフィストさぁぁぁぁぁんっっ!?」



店主の伸ばした手は虚しく、メフィストは闇の中に溶け込むように消えていった。



───数分後、借金に関して新たなお客様(ヤクザ)が現れることになるのだが、またそれは別のお話。

以上! 新キャラことアスタでした!

まぁ、察しの言い方は『あれ? コイツって掲示板のアイツじゃね?』とか思っているかもしれませんし、更にもっと察しのいい方なら『コイツの中身の人、もう本編に登場してない?』なんて思ってるかも知れませんが、まぁ、そこら辺はお楽しみに。

※余談ですが、アスタの能力は『終焉』と『開闢』以外なら何でも使用可能です。上記の二つはスキルとしての格からして違いますからコピーは不可ですが。


次回! 待ってました恭香回! ほんのりシリアス漂わせながらイチャコラするお話です。

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