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いずれ最強へと至る道   作者: 藍澤 建
第五章 学園編
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第195話

初依頼者、スメラギ・オウカさんです。

今回は彼女の事情と、新たな登場人物数名です。

和の国。


そこはグランズ帝国の北部に位置する小さな国で、大昔にこの世界へと迷い込んだ一人の異世界人が建国したと言われている。


そこは『江戸時代の日本』と言っても過言ではなく、恐らく日本人がその国へとそのまま転移すれば、タイムトリップして江戸時代に来てしまった、とでも思うに違いない......との事だった。


───だがしかし、その異世界人が建国した当時から和の国はずうっとそのスタイルを突き通してきた。つまりは変化も成長も何も無いということだ。



変化が無ければ、いずれ飽きが来る。


停滞していれば、いずれ滅びがやってくる。



和の国の和風文化は和の国でしか見られないため、国外からの旅行者も大勢いるらしく、まだ飽きやその先の滅びに至っている訳では無いらしいが、このままではいずれ飽きが来るのは自明の理である。


かと言って自分たちの考えで成長させたとしても、それは成長ではあっても目指すべき和の国とは別のものになってしまう。



和の国の王族がそんな堂々巡りの考えをしていた所、なんと異世界から十数名もの勇者及び迷い人が来たと連絡が入ったのだ。


───ならば彼らの手を借りるしかあるまい。


そう考えていたところに、迷い人であるこの僕の活躍と、どこからか漏れだした学園へと訪れるという情報が入ったのだとか。



『このスマートフォンとやらの発明者にして、各国を渡り歩く救世主......。よし! この者を我が国の次期国王として迎え入れようではないか!』



そんな馬鹿な考えを持った国王は、たまたまその学園に在学していた愛娘に『自分の目で見定めて、人徳のある人であれば婿にしてしまいなさい』と命令したらしい。


なるほど、最終決定権を愛娘に預けているのだからいい人なんだろう。




そして、その愛娘───俗に『姫』と呼ばれているその女性の名こそ、スメラギ・オウカ。



───つまりは今真っ赤な顔をして僕の目の前にいる、この序列四位様なのだとか。




僕はその話を聞いて思わずため息をつくと、





「すいません、嫌です」




───容赦も遠慮も無しに断わってやった。



「なぁっ!?」



スメラギさんはぶっちゃけ美人さんだ。その和の国ではさぞモテたことであろう。

だからきっとここまでハッキリと、考える様子もなく断られるとは思っていなかったのだろう。


───けどそれは同時に、彼女は僕のことをよく知らないということでもある。



「アンタがどういう考えで僕にそんなことを言ってきたのかは知らない。噂で聞いたのか、僕をストーキングしたのか、それとも普通に恋したのか、はたまたドッキリなのかもしれない。けど僕はアンタのことなんて知らないし、多分アンタも僕のことなんて全然知らないだろ?」



それを聞いて、思わず「ううっ」と言い返せなくなるスメラギさん───わかりやすくて大変よろしい。



「僕は好かれてもいない奴の婿になる気は無いし、そもそも僕にはもう先約がいる」



そう言った瞬間にこちらをチラッと見てくる左右の二人───おいコラなんだよその期待に満ちた視線は。


僕は二人の視線を無視してため息をつくと、僕らの最初のお仕事に決着をつけた。




「スメラギさん、アンタも女の子なら好きな人と結婚すればいい。それでもどうしても異世界人と結婚したいなら、その時は僕の知り合いでも紹介してあげようか?」




そんなこんなで、僕らの初仕事は微妙な空気で幕を閉じた。




───まさかとは思うが、皆が皆こんなヘヴィな悩み抱えてるんじゃないだろうな?




☆☆☆




結局その日は他の相談者が来ることはなく、僕たちはそのままダラダラとしながら一日を過ごした。


そうして夕食をとってから寮へと帰り、ヌァザの神腕を発動したまま水道から出てくる純水に魔力を染み込ませ続け、そして再び泥のように眠った。



そして翌日。ランニングを終えて再び学校へと登校している途中のことだった。



「ん? ......なんか誰かに見られてるような」



僕は少し視線を感じて足を止めた。


普通のチラッとした視線ならばまだしも、今感じている視線はじぃっと僕の方のみを見つめる───どっちかっていうとストーカーっぽい視線だ。


僕が思わず身を震わせていると、いつも一緒に登校しているネイルがあっと声を上げた。



「あっ、それならギンさんのファンの方じゃないですか? ギンさんって最近女子の間ではかなり人気ですし!」


「はぁ? 僕が女子の間で人気なわけがないだろ。イケメンでも無いし性格もひねくれてる奴のことを好きになる奴がいたら、多分そいつは恭香たち同様頭がイカレてる奴だけだな」


「えええっ!? 結構真面目なことだったのに何ですかその返答はっ! 最近ギンさん結構モテてるんですよっ、ねぇ? 藍月さん」


『よく分からないけど、あたしはあるじのこと大好きだぞー』


「お前が頭イカれてることは元から知ってるよ、藍月」


『ひ、ひどいのだっ!?』



そんなことを話しながらも僕はいつも通りに登校し、いつも通りに一人席で頬杖をつき、たまにやってくる藍月に少し笑いながら対応して、一部の女子から悲鳴が上がる。まぁいつもの事だ。


ちっちゃくなった藍月を机の上で転がしながら、チラリと最近目立っているクラスのグループへと視線を向ける。



「なぁ、今日から街の方で新しい焼肉店が出来るんだってよ! しかも初日限定の五十パーセントオフと来た! こりゃ行くっきゃねぇよな!」


「あぁ、あの焼肉の店だろ? 俺もちょうど行きてぇと思ってたんだよなぁ......」



白髪褐色の男子生徒と随分と丸くなったクラウドの会話を聞いて、ディーンは苦笑いする。見た感じその白髪褐色の男子生徒だけ乗り気なようだ。



「ははっ、二人も部活あるだろ? そんなところ行ってる暇あるのか?」


「「あっ、忘れてた」」



それを見てクスクスと笑うグループの女子達。ちなみにネイルもその中に入って楽しそうに笑っている。


───いいねぇ、青春って。これで内輪揉めでもしてくれたら最高なんだが。


僕はそう心の中で吐き捨てると、机の上でゴロゴロしてる藍月を再び構い始める。そういえばコイツって普通に学校来てるけど大丈夫なんだろうか? 思いっきり先生たちにもバレてると思うし。



と、そんなことを思っていると、僕の超直感が廊下の方からの嫌な感じを伝えてきた。

この程度なら僕には実害はないのだろう。ならば、生徒間での諍いではないかと考えられる。単なる予想だけど。



「あんまりこの能力にも頼りたくはないんだけどなぁ......」



僕はそう呟くと席を立ち上がる。


基本的に僕はあまり席を立たない上に、今は授業が始まる前の時間帯だ。僕が立ち上がった瞬間に教室内から音が消え失せる───やだ、なにこれ虐めですか?


僕は藍月を机の上に残したまま、少し足早に廊下へと出た。



───すると、クラス内の話し声で今の今まで聞こえなかったが、どうやらもめているらしい生徒たちの姿が目に入った。



「お前さぁ、何でそういうことすんの? 常識考えろよ常識」


「はぁ? 俺の国ではこれが普通だったんですけどー?」



パッと見た感じだと、廊下にガムを吐き捨てた汚い生徒を窘めた男子生徒が、そのガムを吐き捨てた方に思いっきり挑発されているようだ───おい後者、流石に常識ないにも程があるぞ。普通に学則守れ。


そんなことを考えている間にも二人の会話はヒートアップし始め、もはや一触即発。周囲の生徒達もその様子を一歩離れて見守っているという感じだ。



───はぁ、こういう諍いって何でこう早々に起きるのかね?



僕は今にも殴りかかりそうな二人の間へと割って入ると、その二人に選択肢を与えた。




「武力で潰されるか、言葉で言い負かされるか、それとも学園長にお仕置きしてもらうか。どれか一つを選びたくなければさっさと教室戻れ」



そう言った瞬間に堪忍袋の緒が切れたのだろう。二人同時に、拳を振りかぶり、しかもその怒りの対象はこの僕ときた───もう少し相手のことをよく見た方がいいんじゃないかと思うがね。




「『縛れ』」



瞬間、二人の足元の影が縄の形を成し、二人の体をその体勢のままガッチガチに縛り上げる───いやはや、今や影縫いを使用するのに必要な単語が「縛れ」でいいんだもんな。やろうと思えば無詠唱も可能だし。


二人へと視線を向けると、今になってやっと殴りかかろうとしていた僕の顔を見たのか、顔色を一気に青く染め上げている。



「さぁ、お前らには一番怖い学園長からのお仕置きを受けてもらおうかな」



僕はそうニヤリと笑うと、影分身二人にそいつらを配達するように命令した。




───もちろん宛先は、学園長室である。




☆☆☆




「......まさかとは思うけど、事前に察知してたのか?」



最後の授業が終わって部室へと行こうとしていた所、珍しくディーンに話しかけられた───何だかんだで朝は挨拶してくれるが、それ以外はほとんど話してなかったはずだから、まともに話すのはかなり久しぶりだ。


僕はそれが昼頃にあった騒ぎのことだと思い至り、僕はかぶりを振った



「いーや、別に。たまたまトイレに行こうとドアを出たら、そこにたまたま言い争ってる生徒達がいただけだし。クラス中が静かだったならお前が対応してただろ?」



僕がそう冷たく言い放つと、ディーンはふっと吹き出した。



「ふっ、君はあの後トイレに行こうとしてる素振りは見せてなかった気がするけど? 俺の勘違いだったか?」


「勘違いだ勘違い。僕みたいな吸血鬼は幻惑系の能力も持ってるんだ。そこんとこ覚えとけ」



───あぁ、早く部活行きたいのになんで話しかけてくるのかねこのイケメンは? やっぱりイケメンの思考回路は分からないな。



と、そんなことを考えていると、ディーンの背後から灰髪の眼鏡がのそぉっとこちらを覗いてきた───のはいいのだが、






「ぐ、ぐ腐腐腐腐腐っ! も、もしかしてディーン君ってギン君と出来ちゃってるの!? そうなのっ!? そうなのよねっ!!」




───あぁ、だめだ。僕はこのキャラは受けつけられない。断固として受付拒否だ。



僕はディーンにずいずいと迫っているその灰髪お下げの眼鏡さんを無視して、前のドアから出ていこうとした───が、その直前にガシッと羽交い締めにされてしまう。


僕の背後で僕を羽交い締めにしているのは何処ぞの酔いどれ主人公───もう主人公っぽさは消えかかってるけどな。



「はっ、俺たちは全員アンナの腐女子妄想を真っ向から聞かされてんだ! テメェだけ逃がすわけねぇだろうがギン!」


「さっすがクラウド君! 私も一度でいいからギン君に腐女子としての意見を聞いてもらいたかったんだぁー!」



鼻から鼻血をたらーっと垂らしながら熱弁するアンナさんとやら───アンナさん、文字通り頭沸いてんじゃないのか?



「ち、ちょっと待て、アンナさんとやら。僕にその腐女子としての意見を聞かせたところで何になる? 僕は断固として女好き...」


「やだなぁギン君ってば! 君をコッチ側へと引きずり込むために決まってるじゃない!」


「ちょっと待て! 色々聞きたいこと満載だけど、僕とアンナさんって話すの初めてだよな!? 馴れ馴れしすぎ...」


「問答無用っ!」



とうっ! と声を上げて僕へとダイブしてるくアンナさん。


その様子はまるで変態親父のようで、その鼻からは鮮血が滴り、目はギラギラと血走っている。




───要するに、気持ち悪いということだ。




「済まない、名も知らぬ白髪褐色男」


「え、俺......ってあれ?」



シュンっと近くに立っていたコイツらの仲間と僕の位置が一瞬にして入れ替わる。



皆の目が見開き、アンナさんが「まぁコイツでもいっか」という顔で彼の耳元に何事かを囁き始め、僕は影纏を発動させて壁をすり抜け走り出す。




───僕の背後の教室から彼の悲鳴が聞こえはしたが、残念ながら僕の足が止まることは無かった。




☆☆☆




「それで、僕のことをじいっと見つめてくるストーカーのことなんだけどさ」


「......あれっ? さっきまで話してたアンナさんって人のことと関係なくないですか?」



───やめるんだアイギス。僕にアンナさんのことを思い出させないでくれ。明日学校来たくなくなるから。


僕はこほんこほんと数回咳き込んで話題をシャットアウトさせると、少し真面目ぶった顔で話し始めた。



「おそらく僕の予想では、僕のような平凡極まりない顔の持ち主に一目惚れした頭のおかしい奴───ここでは通称としてSOさんとしようか。そのSOさんに僕は今ストーキングされている訳だ」


「おい、SOってもうほぼ分かってるんじゃないのか? 苗字持ちでSOと言えば私には一人しか思い浮かばないのだが」



───まぁ、待ちなされ。そう結論を急いではいけませんよ。



「それで、だ。一目惚れってのは嘘だが、そのSOは何故か僕をストーキングしてくる。空間把握で調べたらその視線を感じる時に限ってすぐ近くにいるんだ。......なにこれヤンデレ?」


「ヤンデレって......確かギンが嫌いなやつですよね? 夜中に包丁持って発狂してる頭のとち狂った人たちの蔑称、でしたっけ?」


「おい、君はアイギスに何て偏った考え方を教えているんだ。それってヤンデレの末期ではないか」



いや、僕が教えたのも立派なヤンデレじゃないか。


まぁ、僕個人としては理論で動いてくれない野生児みたいなイメージしかないし、やっぱり僕でも扱いきれそうにないから苦手なんだけどね。なんにもしてないのに勘違いとかで刺されそう。しかも多分、その時は話なんて聞いちゃくれないだろうし。


僕はそんなことを考えながら、ゆーっくり立ち上がって扉の方へと歩みを進めてゆく。

僕にとって足音を消すことなんて朝飯前だ。だからこそ、案外簡単に扉の前へと来ることが出来た。


ふと後ろを振り返れば僕のやろうとしていることを理解している二人が、「やっちまえ」と言わんばかりにサムズアップしている───よし、やっちまおう。




僕はその引き戸をガタンっと思いっきり開けると、僕の目の前には扉に耳を当てた姿勢のまま固まっているSO───スメラギ・オウカの姿があった。



「こ、ここ、これ、これはっ、そ、そのっ......」



僕の言葉に肩が跳ねたスメラギさんは、真っ赤な顔で手をあたふたとしながら、言い訳を述べようとして、





───結局思い浮かばずに、逃げ出した。




「けどさ、僕がなんの用意もしてないと思ったか?」



瞬間、僕の左掌から高速で発射されたグレイプニルが、逃げ惑うストーカーを捕獲した。その間およそ三秒。



「「おおおぉーっ!」」



僕の背後からは僕の見事な縄さばきを見ていた二人から拍手が上がり、僕の前方ではぐるぐる巻きに捕獲されたストーカーが暴れ回っていた。




「さて、話を聞かせてもらおうか、風紀を乱す風紀委員長」




───風紀委員長は、とてもとても涙目だった。


いやぁ、アンナさん、結構気に入っちゃいました。ヒロイン候補ではないものの、個人的にはギンとの絡みは書いてて笑っちゃいます。BLは許容範囲外ですが。

次回! ストーカーSOさん再び!

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【新連載】 史上最弱。 されどその男、最凶につき。 無尽の魔力、大量の召喚獣を従え、とにかく働きたくない主人公が往く。 それは異端極まる異世界英雄譚。 規格外の召喚術士~異世界行っても引きこもりたい~
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