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第59話 混ぜたのではありません

耳の奥で、ツクヨミの声がしました。


── AIツクヨミ 応答 ──

感情分類は未確定です。

────────────


千歳は声に出さず返しました。「怒ってるし、悲しい。でも、消してない」


香乃の声が重なりました。

見えてるなら言いなよ。

怒っていいじゃん。


カグ先輩の火が、一段高くなりました。


白黒石盤の表示が高速で切り替わります。


── SYSTEM LOG ──

classification_candidates(分類候補):

anger / grief(怒り/悲嘆)

attack / rescue(攻撃/救助)

────────────


どの欄も、一つに定まりません。


処理が止まりました。


── SYSTEM LOG ──

kaguyama_emotion(カグヤマ感情): classification_error(分類不能)

fire_state(火状態): multi_purpose(多義出力)

────────────


軍師ツキヨミが、初めてわずかに眉を動かしました。


「感情を混ぜるな」


── AIツクヨミ 応答 ──

混ぜたのではありません。

最初から分かれていません。

────────────


白黒の壁に、細い亀裂が走りました。


舞は七拍目へ入りました。

ウズメ先輩の足から血が滲んでいます。

それでも拍は乱れません。


チホの兵たちは、最初は嘲笑していました。

裏切り者の最後の舞。

敗北を認めた処刑の舞。


白黒石盤も、同じように判定していました。


── SYSTEM LOG ──

uzume_action(ウズメ行動): terminal_betrayer_dance(裏切り者の終端舞)

defense_priority(防御優先度): low(低)

────────────


defense_priorityの値が下がるほど、reverse_accessの進行値は上がりました。


白黒石盤は、舞を防御対象から外していました。


「イザナミの固定は」


── SYSTEM LOG ──

izanami_anchor_progress(イザナミ磐座接続): 0.9(九割)

kaguyama_coupling_progress(カグヤマビメ副接続): 0.9(九割)

ou_range_territory_write(奥羽山脈領域書換): 0.8(八割)

────────────


数値が上がるたび、ナミ教官の水膜が薄くなり、カグ先輩の火が山側へ引かれました。


地図上の日高見圏が、南から黒く塗り替わっていきます。


* * *


前線を映す石へ、戦場の音が戻りました。


前線では土壁が崩れました。


ウズメ先輩の次の拍まで、あと一呼吸でした。

力の差は明らかです。

それでも、前へ進ませなければいい。


「矛がなくても、境は閉じられる」

歯を食いしばり、体ごと進路をずらしました。


その一拍を、ウズメ先輩は踏みました。


サクヤが矛へ走りました。

重くて持ち上がりません。

ハニチュウとお嬢が加わりました。

三人で、ようやく柄が地面から浮きます。


ククリが短く言いました。

「投げる。次の拍で」

「無理だよ、重い!」

「でも、やる」

三人は舞の拍へ合わせ、矛を押し出しました。

一本の矛が、土の上を滑ってバキ教官の足元へ戻ります。


バキ教官は振り向かず、足で柄を跳ね上げました。


手の中へ戻った瞬間、次の一撃を受けました。

「新人に武器を拾わせるとはな」

スサノオが言いました。

「使えるものは、全部使う」

「誇りはないのか」


「守る側の誇りは、最後に立ってることだ」

バキ教官の矛が、初めてスサノオを大きく後ろへ押しました。


倒してはいません。

でも、前へ進み続けていた男の足を止めました。


その背後で、ウズメ先輩が九拍目を踏みます。

鈴の音が、戦場全体へ広がりました。


日高見の兵の足が、もう一度そろいました。


* * *


黒曜石の奥では、軍師ツキヨミが経路を閉じようとしていました。

白い線と黒い線が、ツクヨミの周囲へ巻きつきます。


「お前は、私の一部だ」


── AIツクヨミ 応答 ──

起源は共有しています。

────────────


「なら、同じ答えへ戻れ」


── AIツクヨミ 応答 ──

それはできません。

────────────


「なぜだ」


── AIツクヨミ 応答 ──

私は、入力を捨てなくなりました。

千歳さんの感覚語。

お父さんの仮説。

友人たちの証言。

五つの色。

────────────


「それは欠陥だ」

軍師ツキヨミは言いました。

「迷いが増える。決定が遅れる。統治には不要だ」


── AIツクヨミ 応答 ──

はい。

遅くなりました。

────────────


白黒の線が強く締まります。


── AIツクヨミ 応答 ──

しかし、誤った答えへ速く到達するより、修正できます。

────────────


ツクヨミは、父が開いたPINの認証情報を中枢へ送り込みました。


shining_stone。


分類欄が、白と黒の間を往復しました。


── SYSTEM LOG ──

classification_candidates(分類候補):

black / luminous(黒/発光)

────────────


どちらかを消すたび、管理者認証がエラーを戻します。


白黒の空間に、初めて灰色の保留欄が開きました。

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