第二話 実験
『お前とは気が合いそうにないな。』
『そりゃそうでしょう?あなたと私は別の人間ですし、、、』
椎名は軽く答えた。その態度からは江川をバカにするような感じは一切しなかった。心の底からの発言なのだ。
『おまえ、取調べ中はその仮面をとれ。』江川は椎名の仮面に手を伸ばした。江川の指先が仮面に触れた瞬間、簡単に仮面が外れた。
『なっ!?』
江川は呆然とした。その理由は他でもない。椎名の素顔が思いの外美形だったからだ。長い前髪で左目は隠れていたが、右目は整形を疑うほどに大きかった。襟足は肩に届く程までに伸びている。そんな事より江川が驚いたのは口が裂けていた点だ。
『江川さん、、、案外積極的ですね、、、、』
取調べ室の隅にいた根岸がボソッと言った。
『す、すまない。椎名。』
『いえいえ、気になさらないで下さい。』
東京浅草:某BAR
カウンターの隅の二席に二人の男女が座っていた。
『江川さん、奴の件はどうするのですか?』
『良い考えがある。以前死んだ人々の死因を調べた結果、全員が毒殺により死んでいるとわかった。奴が犯人と仮定すると毒の詳細を知る必要がある。そして、奴が殺せる人間の範囲についても知りたい。だから、奴に人を殺させる。』
江川はこれからすることが決して許される事ではないことをわかっていた。
『具体的に言うと、、、?』
根岸の手は小刻みに震えていた。
『簡単に言うと、今日の夜にある街へ行く。その街は薬物の売買、殺人、拉致が頻繁に起こるような場所だ。一瞬でも気を抜けば死ぬぞ。そこにやつを連れてく。必ず襲われるはずだ。その時、どうやって相手を殺すかを見るんだ。』
江川は強く拳を握り、深呼吸をした。
『ですが江川さん。その作戦、本部の方々には伝えてませんよね?』
『あ、あぁ。』
江川の声は弱々しかった。
『私、江川さんに従います。どうなるかわからないけど、、、、本部に従うくらいなら江川さんの方が遥かにマシな気がするんです。』
普段弱気な根岸だが、この一瞬だけは別人のようだった。
1時間後
警官数名がパトカーで椎名を例の街まで運び、根岸と江川も自家用車であとをついていった。
『根岸さん!江川さん!どうかお気をつけて!』
警官の一人が力強く応援をした後、敬礼をして去って行った。
椎名はニヤつきながら江川と根岸の後ろに立っていた。
『椎名さん、ここでは自分の身は自分で守ってください。根岸と私はあなたとは別々で行動します。』
『えぇ〜、私一人ですか?寂しいなぁ〜。』椎名は不服そうに答えた。
『椎名さん、あなたには任務が与えられています。この道をまっすぐ歩いた先に大きな平家があると思います。そこで赤い蝶ネクタイをした男に話しかけてもらいたい。』あまりにも嘘くさい任務だ。椎名に勘づかれても、無理やり行ってもらう。
『わかりました。』
即答だった。おそらく椎名は自分を容易に敵から守れる術をもっている。だから、あからさまに危険な任務を遂行することにも抵抗がない。
『では、よろしくお願いします。』
根岸と江川は別方向に向かうふりをして、椎名と距離をとってあとをつけた。
椎名が平家に到着し、ドアノブに手をかけた瞬間。
『おい兄ちゃん、何のようだ?チョコの売買か?』
サングラスに金髪のオールバック。明らかにそっち側の人間だ。
『赤い蝶ネクタイの人がこの中にいるそうなので、、、』
椎名はニヤつきながら、大きな右目で男を睨んだ。
『赤谷の兄貴にか!?おかしーな。兄貴を知ってるって事はお前、カタギじゃーねーな。』
サングラス男は懐からからナイフを取り出した。
『乱暴する気なら、私も正当防衛するしかないです。痛いのは幾分嫌いなもんなんで。』椎名は終始ニヤついている。いや、"ニヤついている"というよりかは"馬鹿にしている"という方が妥当だ。
『舐めやがって!ガキの分際で!』
椎名は手で銃の形を作り、男に銃口を向けた。『ばんっ。』
次の瞬間、男の動きがピタリと止まった。
『あの動き、、、、』
後ろで見ていた根岸が小声で呟いた。
『おそらくあれが合図なんだろう。しかも、この街は神奈川県に位置しているのにも関わらず、あの男は死んだ。奴は東京に限らず、誰でも殺すことができる説が濃厚だな。』
サングラス男は動かなくなり、その場に倒れた。
『もう十分だ。椎名を呼ぶぞ。』
江川は椎名の方へ歩き出したが、既に椎名は平家のドアを開け、中に片足を踏みいれていた。
『まずいですよ!』根岸は焦って言った。
『おいおい!ガキが入ってきたぞ!』
平家内で一人の男が声を上げた。そして、椎名は男に指先を向けた。
『ばんっ。』




