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もみじ
もみじ散る。紅の涙。
から風吹く。ポケットの中の手。
落ち葉舞い上がる。紅の波。足元を流れて行っては、側溝に落ちる。紅の川。
さらさらとこすれあう風ともみじ。
空は浅葱色。雲は灰色。日が黄色を朱色へ変えていく。
焼くような日差しが、寒々とした頬を温める。目を閉じても、世界は明朗な朱色。時折、もみじが体に触れる。紅の雨。
息を吸い込む。紅の匂い。秋の死んでいく匂い。
どこか土っぽく、昔分け入った森を思い出させ、しかしその時の遠さを突き付けるような、匂い。
手を握り締める。ポケットのもっと奥へ。気を抜けば、冬はもうそこへ滑り込んでくる。
くしゃりと、手の中で蠢いた。のは、一枚のもみじ。
風の中から、掴んだ紅。秋の血潮。
終えていく鼓動。
マフラーに顔をうずめ、目を閉じた。俯く。髪を風がさらう。世界は夜のように陰る。
寒々しくて、私は歩き出した。