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第15話 動き出す歯車

 

「っは、いい格好だなギルベルト」


 鉄格子の向こうで鎖に繋がれたそれを見て、レフェントは赤い唇を歪めて笑った。


「セシリア姫や息子たちはお前のその姿を見てどう思うだろうなあ、ん?」


 レフェントは傍に控えていた侍従が慌てて止めるのも無視して牢に入り、ギルベルトを見下ろす。


 華やかな王宮の地下にあるこの牢獄は暗く、重い雰囲気に満ちていた。

 その最奥部に、ギルベルトは両腕を鎖で吊るされている。上半身に衣服はなく、かわりにひどく鞭打った痛々しい傷があった。

 数々の拷問を受けたギルベルトの体はボロボロだった。

 全身から汗が噴出し、彼の流した血と共に冷たい床へと落ちていく。


 ギルベルトは頭を垂れていたが、レフェントの気配を感じるとぎこちなく顔を上げた。

 ひゅー、という音が乾いた唇から漏れる。


「……どうし、て」


「ん?」


「……ど、して、陛下を、殺したん、だ」


 レフェントはその質問に答えた。



「王になるため」



 理由は、それだけだった。

 ひゅー、ひゅーという音だけが牢内に響く。


「王座なら、ば……っ、いずれ、あにうえ、が…」


「そうだな」


 そう。王太子であるレフェントは王が亡くなるのを待っているだけでよかったのだ。しかし、レフェントはリスクの高い王暗殺を実行した。

 ギルベルトが王位に就くことを恐れたのではない。側室の子であるギルベルトと正室つまり現王の子であるレフェントでは恐れる必要もなかった。

 王を継ぐ。それがレフェントが望む王国に必要なかったのである。


「俺は、お前が憎いんだギルベルト」


 現王の体制を引き継ぐ形になれば、ギルベルトもそのまま近衛団長としての地位を継続する。現王もそれを望むだろう。

 レフェントは、それに従わなければならない。


「俺の王国に、先王も、お前も……いらない」


 レフェントは囚人の乱れた茶髪を乱暴に掴み、濃い色合いをした瞳を間近で深々と覗き込んだ。

 ギルベルトはなされるがままである。


「お前のもの、全部ぐちゃぐちゃにしてやるよ」


 幼い子供のような満面の笑みで、レフェントは嗤った。









 なかなか外に出してもらえないので誰にも非難されることなく自室でニートと化したルツはベッドの上で手鏡を見ながらごろごろしていた。けっしてナルシストではない。そしてナルナルもしたくない。つい最近色が変わった自分の瞳を見ていたのである。



 このマジカルでファンタジーな世界に落っこちる前は結構な田舎に住んでいたが、そこでも髪や目が奇奇怪怪な色彩をしている御人はまったく見ないというわけではなくいた。少数であったが。正月の親戚の集まりでは十つ年上の従姉が蒼のカラコンを入れていたし、大きなデパートなんかに行けばゲームセンター周辺にピンクやら緑やらの髪はごろごろしていたように思う。

 ルツの目の色は金色になったわけだが、別にギラギラ輝いているわけでも本物の金がのっぺり目に張り付いているわけでもない。そんなびっくり人間もこの世界ならいるのかもしれないが。そもそもかつての住処である地球でいうと、人間の虹彩の色というのは基本「ブルー」「イエロー」「ブラウン」で構成されている。この三色の混合率がその人間の目の色を決めるわけだ。ちなみに、日本人の大半を占める茶色い目というのは、ほかの色がほとんど入っていないブラウン一色の目である。まあ何を言いたいかというと、ぶっちゃけゴールドの瞳なんて希少な存在だなんてそんなことはない。地球産でいえばアルビノとかヴァイオレットとか、オッドアイなんてのがその類だろう。鏡で見る限り、ルツの目は琥珀色に近い。しかし、ただそれだけではないのだこれが。


「ねえ」

 少女は猫らしくない大の字で気持ちよさそうに隣で眠っている黒猫の首根っこをぐわしと掴んで持ち上げた。その手つきには遠慮がない。ご愛嬌である。

 さて、その猫といえばもう既に慣れているのかくわ、と欠伸をしてそのあとはされるがままである。というか寝ぼけていた。

 ぷらぷら。

「……」

 ぷらぷら。


「返事は?」


 猫がビシッと固まった。おめめパッチリしたらしい。

「う、うむ」

 危機察知能力にしたがって返事をした黒猫もといクロ。最近の飼い主は怖い。

 クロの返事の遅さよりも自分の問いの答えのほうが勝ったのか、ルツは少しだけ滲み出ていたブツを消した。

「ねえ、このチッカチカ光ってるやつってなに?」

 手に持っている鏡を見ながら目を指して問う。

 琥珀を泳ぐように、小さな光が点滅しながら動いている。

 クロは頼ってもらえるのが嬉しいのか、どこか誇らしげに答えた。

「それは異彩人特有のものだ。目の色の異彩人だと、この光―――漏光というのだが、これがなければ異彩人ではないと言ってもいいのだ」

「ろうこう?」

「うむ。これは、まあ簡単に言えば魔力の残りカスとでも言うべきか……」

 残りカスて。

「この世界の人間は魔力を大なり小なり消費して体を世界からかけられている魔力と相殺する必要がある。大抵の人間はこの通常消費魔力で体内魔力はある程度まで消費され、この基準より多く魔力を有している者が魔法使いと呼ばれる存在だな。そしてその魔法使いより遥かに魔力を多く持っているのが異彩人だ。異彩人はその膨大な魔力が故に、その身の色が通常の人間が持ち得ないものへと変換される。そうすることによって体内の魔力の流れを……」

「もっと簡潔に」

「まあつまりは瞳の色が自動変換されるときの魔力の残りカスだ!」

 だから残りカスて。まあ大体分かった。つまりこの光は異彩人特有のものであるらしい。

 魔力を常人より遥かに多く有しているが故に、容姿に特徴がある。つまり、見つけやすい。となれば、科学より魔法が発展しているこの世界では、まさに引っ張りだこ。悪く言えば喉から手が出るほど手に入れたい存在なのだろう。現に、国は異彩人が生まれたとなればすぐさま攫うように手元に置く。

 自分の未来の嫌なものを感じたルツであった。


 そのとき、ドアがノックされる。

 シフォンキーア家が嫡子、アルベルト。彼は入室の許可をもらうと若干青ざめた顔で部屋に入ってきた。

「兄さま?どうなさったの?」

 なにか只ならぬ雰囲気を感じ取る。アルベルトは口をもごもごさせて言うべきか否か迷っていたようだったが、意を決したように話し始めた。

「この間一緒に遊んだシャギという男の子を覚えているかい?」

「うん」

 あれは遊んだというよりかは遊ばれたというべきかもしれないが。

「あの子がいなくなったらしいんだ。もう三日が経つ、シャギはもしかしたら……」

 子供がいなくなるとして、どこかで迷子になったかならまだ生きてるかも知れないが、もっと悪いところでいけば、誘拐(目的としては人身売買が主)、殺人……三日も経っているとなると、絶望的だ。

 最近アルベルトの姿をとんと見なくなったと思ったらこの三日間、ずっと捜索隊に参加していたらしい。きっと食事も満足にとっていないんだろう。少しやつれていた。


 アルベルトは、私に心配をかけさせないためにずっと黙っていた。このくらい誰にだって分かるだろう。けど、この三日間私は何をしていたのだろう。もしかしたら、私が部屋でボーっとしていた間に―――シャギは死んでいたかもしれない。



 あの瞬間がシャギにも訪れていたのかもしれない―――。



 そう思ったとき、私は既に部屋を飛び出していた。







「何処にいくの!」

 無心に走り続けて、屋敷から出ようとしたそのとき、母に止められてしまった。

 しかし、それを振り払ってでも、行かなければいけないのだ。

「かかさま、私、行かなきゃ! シャギがいなくなったの。シャギが」

「落ち着いて!」

 母様は私の身動きを封じるように両腕を掴むと一喝した。

「落ち着いて、シャギは……大丈夫。きっと家族の許に戻ってくるわ。きっとよ」

「ほんと?絶対?」

「ほんとよ。大丈夫。―――ルツ、いい? よく聞いて。急いで、ここから逃げなければいけないの」

 母の顔は真剣だった。

「急がなければ。アル!アル!こっちよ」

 兄に捕まるのを恐れてここまで来るのに屋敷の隠し通路を駆使したため、それを追っかけたアルベルトは今やっと屋敷玄関に着いた。

 アルベルトと私が母の手に連れられて外へ出る。アルベルトの服はシャギの捜索で少々ボロボロだったし、私は部屋着だ。母は男装しており、しかも帯剣している。事が急を要することだと知った。

「二人とも、絶対に私から離れないで。もし私がいなくなったら、アルはルツを連れて逃げるのよ。絶対一人になっちゃだめ!」

 いなくなったら。



 ダカダカダカダカダカ―――。


 そのとき、馬のいなき声と共に、けたたましい複数の馬の蹄の音が聞こえた。

 母はその音に血相を変えると、急いで!と私たちを急かして走った。兄も私もそれにならって走る。


 しかし、人の足と馬の足では勝負は見えている。

 馬たちは私たちの横を通り過ぎると、目の前の道を塞ぐように横に並んで停止する。

 パカパカパカ、と先頭にいた馬が私たちに近づく。それに騎乗していた褐色の肌に金髪の男は、すっと音も立てず馬から下りる。

「よおセシリアぁ。元気かあ?」

「クロヴィス……」


 それが合図かのように、二人同時に剣を抜いた。

お久しぶりです^^;

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