飛空艇3
飛ぶ速度を上げて船に追いついた頃には、リコや他の冒険者達によって空族騒ぎは既に落ち着いていた。
空賊と思しき男女は船上の一箇所にまとめられ、魔力の紐で拘束されている。
こんな騒ぎがあったにもかかわらず船は速度を緩めようとしない。どうやら空賊達はこのまま牢にでも入れられて、空賊船は曳航して持っていくつもりらしい。
「それじゃあ、降りますよ……」
困惑したままの船員にそう告げて、自分はゆっくりと高度を下ろす。
船の甲板に足がついた瞬間に、乗組員は「ひぇー、たすかりましたー」と礼を言って乗組員仲間の元へ駆け出していく。彼はクルー達と「お前生きてたんか」「勝手に殺すなボケ」という楽しそうなやり取りをしながら、くすぐったそうに笑っていた。
そしてそんな船員達の様子を、リコは「ぽかん」と気が抜けたように見守りながら首を傾げている。
こちらに振り返ったリコと目が合って、彼女に「やあ戻ったよ」と伝えようとしたところで、横からコハクが「ミト、あなたなんで、あんな場所から……?」と声を掛けられた。
どうやら彼女も空賊狩りに参加していて、ちょうど自分が空から降りてくるのを目撃していたらしい。
自分は一瞬だけ「うーん」と考えて、あったことを素直に話すことにする。
「えっと……攻撃の余波で吹っ飛んだ船員を、助けに行って、戻ってきた?」
その言葉を聞いてコハクは「意味が分からない」と言いたげな顔で首を傾げた。
「ああそう。まあ貴方が無事なら良いけど……」
「そうだよ、ミト! 無事だったから良かったけど、そうじゃなかったらクエスト中止しなきゃとか、ギルドに迷惑かかるとか、合流するのが大変とか……だって、世界は広いんだよ? ねえ分かってる? そもそも飛空艇の航路は高濃度の魔力がすごい勢いで流れてるから普通は飛べないでしょ? てかミト、飛べたとしてもこの船に追いつくなんて……え、ミトは船より速く飛べるの?」
「そうですよ、ミト。そんなに速く飛べるなんて常識外れも良いところです。ミトの前世は鳥か飛竜だったんですか?」
ここで「まあね」と答えたら、自分の前世が飛行生物だったことになってしまうので、自分は口を噤まざるを得なくなった。
その代わりに、自分は自分で気になっていることを聞くことにする。
「まあ、それはそれとして。ところで空賊達は何者だったの?」
自分の問いに、コハクは間を置かずに「はぁ……」とため息をついた。
「いつもの……非転生者で構成された空賊ですよ。要求はどうせ『非転生者の待遇改善』とか『転生システムの停止』とか、そのあたりでしょうね」
「またぁ? あの『反転生団体』はどうにかならないの?」
「どうしようもないですね。それはリコ、あなたもよくわかっているのでしょう?」
「あー、うん。まあ言ってみただけ……」
リコとコハクはうんざりした表情で顔を見合わせた。
◇
その後自分たちが船内に戻ると、乗客達から「ぱちぱち」と拍手で出迎えられる。
彼らの表情に「空賊に襲われた」という緊張感は全く見られない。
実際のところ自分たちが何もしなくても、彼ら自身が雇ったSPなんかがこの程度ならどうにかしていたのだろう。
だから彼らは外で冒険者が空賊と戦っている様子を見て「ドキドキハラハラ」することはあっても、身の危険は全く感じていない。
そんな中、キラキラと輝く宝石をいくつも身に着けた一人の男性が代表面して自分たちの前に現れる。
正確に言うと、自分の隣に立っていたリコの前に立ち塞がった。
彼はリコの目の前で、高級そうなワインボトルを献上するような格好で膝をつき頭を垂れた。
「弓の乙女、どうかわたくしに貴女の美しさを称えさせてもらえないだろうか?」
要約すると「一杯どう?」ということだろうか。空賊を一矢で貫いたリコを、口説こうとしているらしい。
隣を見ると、リコは苦虫を噛んでしまったような表情で「うげぇ」と漏らしていた。
リコがヒクヒクと表情筋を痙攣させながら「ご遠慮しますわ」と流すと、その奥からまた別の貴族が「私はどこどこ領のだれそれです」と身分や名前を言いながら花束を取りだした。
そして、自分を挟んだ逆側では、コハクも同じように貴族達から誘いを受けていた。
コハクが「気持ち悪い、近づかないでください」と口にすると「ありがとうございますっ!」と謎の感謝が返ってくる。
どうやら彼らは、空賊退治で活躍したリコやコハクと何らかの縁を結びたいと考えているようだ。
ちなみに自分は船員を助けただけで活躍していなかったことがバレているようで、誰にも興味を持たれていない。
それを良いことに、肩を縮めながら何事もなかったかのように人混みを抜き足差し足で通り抜けようとしたところ……ガシッと後ろから二つの手に左右の腕がそれぞれ捕まれた。
「待ってミト。どこへ行こうとしてるのかな?」
「ミト、待ちなさい。私を連れて行きなさい……!」
右手をリコ、左手をコハクに……両手の花に根を張られると、無数の貴族男性から熱い視線が降り注いだ。
「何だあいつは」「討伐スコアゼロ、見ていただけの雑魚か」「どうしてあんな冴えない野郎が?」
そんな勝手なことを言われ、刺すような視線を全方位から受けながら、自分達は貴族を押しのけ船内の人混みをなんとか掻き分け進む。
一歩進むのに数秒かかり、進んだ先でまた別の貴族が二人の少女にプロポーズする。
花束や宝石や爵位など、自分たちの足を引き留めるために様々なものが差し出され、自分たちはそれらを無視してずいずいと進み、格好つけた浮ついた台詞も聞き飽きたころになって、ようやく自分たちは貴族達の人混みを通り抜けた。
ギルドの共同部屋にたどり着くと、リコとコハクは区切られた個室スペースに入り、ボフッとベッドに飛び込んで、カーテンを閉じる。
どうやら相当お疲れのようなので、目的地に着くまで大人しく寝かせてやることにしよう。
自分は何気なく窓から外の景色を見て、これから向かう街に思いを馳せながら時間をつぶすことにした。
700話です。
100話前の600話を投稿していたのは2020年だそうで……気づいたら5年以上経ってました。
あの頃みたいなガツガツした気持ちは無くなっていて、今はもう惰性で書いているというか。
一度完結させた作品のおまけを書いてるだけだしね、今の状況。
ということで、100話ごとにやってた『読者へのお願い』も、特に思いつきません……
とりあえず「ここまで読んでくれてありがとう」とだけ言っておきます。
これからもぼちぼち書き足していく予定はあるので、どうぞよろしくお願いします。




