I
僕はバーチャル・リアリティに住んでいる。
つまり僕の意識は電子化され、コンピューターのネットワーク内で存在しているのだ。
バーチャル・リアリティに住んでいるのは僕だけじゃない。電子化された人口は定義によって違うため、正確な数はわからないが、十億はとっくに超えている。人類はすでに太陽系を完全に支配し、十億やそこらの電子人間を養うぐらいのエネルギーはある。
バーチャル・リアリティでは自分の思い通りに自分の世界を建設できる。例えば僕が住む世界はおよそ2010年ごろの日本だ。インターネットが普及し始めてから約二十年たった世界は少しずつ進歩し、僕の時代へと近づいている。なぜか僕はこの時代と日本という国が好きだった。石器時代や中世を好む電子人間もいるが、僕はこの時代のテクノロジーの高さと人類が直面する問題はよく釣り合っていると思っている。
それに嫌なら指を鳴らすだけで自分の住む世界を変えられるのだから、住む世界に凝る必要はない。好きな時に自分の世界を歪ませば殆どの願いは叶う。
僕はその日、ベッドで休んでいた。僕が物理化した身体はこの世界では佐藤結城と呼ばれていた。十七で少し欧米の血が混ざっているような顔立ちをしている。自分で顔を一から整形するのは面倒くさいので、ファッションモデルのページをめくって、気に入ったモデルを少し変えた顔だった。だから一応ハンサムだとは言えるのだろう。
佐藤結城が住むのは東京に建つ3DKのマンションだった。父はコヨタへ勤める会社員で母は主婦だった。とても普通の設定だったが、僕はそれでよかった。望むのならいつでも変えられるのだから。
僕は立ち上がり、窓から外を見た。太陽が登ろうとしている。
電子人間である僕は睡眠を必要としていない。だから夜になると僕は佐藤結城の身体を離れ、幽霊のような存在として外へ出るか、時間を八時間ほど進める。今回は後者の方を選び、僕は日の出を目を細めながら見つめた。
今日は何をやろうか?
この世界では今日は火曜日だった。佐藤結城は学校に行かねばならない。普通僕は学校を面白い場所だと思うのだが、今日はずる休みすることに決めた。今日は何か刺激的なことをしたい。
ゲームだ。ゲームをしよう。
僕は手を叩いた。しかしゲームにはルールが必要だ。それに目的。
「目的は簡単だ」僕は細く笑む。「世界征服」
一回やってみたかった。シーザーやナポレオンみたいに全世界を自分のものにしてみたかった。だが世界征服をするための能力を佐藤結城は持っていない。僕がついていなければ彼は父と同じようなつまらない人生を送ることだろう。
「一つだけ結城に力を与えよう。世界を征服するための能力を」
シンプルな能力は嫌だった。空を飛べるなどセンスがない。しばらく考えた後、僕は結城に与える能力を「絶対的な話術」にすることにした。
つまり結城の能力はどんな人間にもどんなことでも説得できるのだ。結城と話せば右翼は左翼になり、クリスチャンは無神論者になり、テロリストは平和主義者になるだろう。これは洗脳と似ているが、決定的な違いは相手の思考と思想を根本的に変える力だと言うことだ。
指を鳴らした。僕が望んだ変更をバーチャル・リアリティを制御するコンピューターが認知し、変更を書き込む。これで佐藤結城は英雄となるのだ。
僕は家を出て、エレベーターを使い地上へと降りた。当初、タクシーを捕まえ、自衛隊へと向かおうとした途端、軍では世界を征服できないことに気づいた。いくら僕の話術を使っても、日本が戦争で世界を相手に勝てるわけがない。この世界は十八世紀ではないのだ。
世界征服のために軍は不必要だ。必要なのは会社だ。
しかし僕は一から会社を立ち上げるつもりはない。日本のトップ会社に紛れ込み、その会社で世界を征服すればいいのだ。十年ほど前日本の企業がしたように。
さてどの会社ならいいだろうか? IT分野がいい。だとしたら『ウニー』はどうだろう。名前もかっこいいし。
考えていても仕方がないので、僕はウニーに決めた。タクシーを呼び止めて、僕は「ウニーシティまで」と頼んだ。




