1.プロローグ
穏やかな風が吹く瓦礫の丘の上に彼女は一人、立っていた。
短いブロンドの髪、長いまつ毛、碧色の瞳、傷一つなく整った顔立ち。彼女のすべてが彼女を精巧に作られた人形のように見せていた。
そんな彼女の立つ丘の眼下には、居るはずもない生存者を探してセンサーを振り回し歩く十四メートルほどの高さの二足歩行の無人機たち。
彼女が失せ物を探すように辺りを見渡すと、周りには完全に瓦礫の山と化した物と、僅かばかりに建物の名残を持った物があった。
もちろんそこに人影はない。
完全に人が居なくなったこの場所では、無人機の歩く音と瓦礫の隙間を通る風の音だけが響く。
雲がまばらに見える晴れた空。
無意味に歩き続ける無人機。
人が作り、無残に壊された建物だった物。
ここに彼女の探すものは無かった。
彼女は瓦礫の丘を下り、歩き出す。
彼女には目的があった。しかし目的地は分からなかった。
生存者を探し歩き回る無人機とすれ違い彼女は思考する。
自分は彼らと変わらない、と。
瓦礫の隙間を縫うようにして、彼女は歩を進める。
少しして、彼女は道の上にボロボロになった熊のぬいぐるみが落ちているのを見つけた。
ぬいぐるみは至る所から綿が飛び出していて、泥をかぶっていた。
彼女はその熊のぬいぐるみをそっと拾い上げると優しく泥を払った。
そしてその熊のぬいぐるみは少しの間、彼女の同行者となるのだった。
彼女が熊のぬいぐるみを拾ってから半日ほど後、彼女は珍しくほとんど崩れずに残っている大きな建物を見つけた。
しかし、窓ガラスや出入口のドアは全て壊れており、辺りの地面には砕けたガラスが薄く積もった雪のように散らばっていた。
元々白かったであろう建物の外壁も長い間放置されていたことにより薄黒く染まり、ヒビが走っていた。
その建物の中へ、彼女は何かに誘われるかのようにして足を踏み入れた。
正面玄関から入り、無人の受付カウンターを通り過ぎて正面にある木製の大扉を開けると、中はふらふらと歩いている無人機たちがぎりぎり入れるくらいの高さの天井がある広場になっていた。正面には何かを祭った祭壇の様な物。その上の壁には一部分が欠けたステンドグラスがあり、太陽の光を綺麗に広場内に取り込んでいた。
彼女がステンドグラスから更に視線を上げると、天井には天使が光り輝く彗星を囲む宗教画が描かれており、それは長い間現れなかった自らを観測する者を歓迎するかのように彼女を見下ろしていた。
彼女が石造りの床を一歩踏み出すと、床に積もった灰の様な埃がステンドグラスから差し込む光を受けながら綺麗に輝き舞った。
広場には、かつて綺麗に並べられていたはずの木製の長椅子が乱雑に置かれていた。
それらの事からここが何らかの宗教の礼拝堂であったことが分かった。
彼女は一通り広場内を歩き、見渡すと埃まみれの建物から外に出た。
彼女が建物から出ると、ちょうど目の前を十六メートルはある無人機が通り過ぎるところであった。
次の瞬間、轟音と強大な突風が辺りを包み、彼女は咄嗟に熊のぬいぐるみを手放し地面に手をついた。
無人機は突風など物ともせずに歩き続けるが彼女はそうはいかなかった。
風が収まると彼女は立ち上がり、熊のぬいぐるみを探した。
するとそれは、先ほどの無人機が通った道の上に転がっており、無残にも踏みつぶされてしまっていた。
彼女はその熊のぬいぐるみだった物を少しの間眺め、拾い上げると突風の吹いてきた方へ走った。




