19
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、新しく替えられたばかりのシーツを白く染めていた。
ミハイルがゆっくりと目を覚ますと、視界のすぐそこに、じっと自分を見つめているアズリオの大きな顔があった。アズリオはすでに覚醒しているようだったが、ミハイルを起こさないよう、完全に気配を消してその寝顔を眺めていたらしい。
「……あ、おはよう。ミハイル」
アズリオは、昨日までのガチガチに緊張した表情とは違い、どこか憑き物が落ちたような、ひどく穏やかで、そしてとろけるように甘い笑みを浮かべた。
「……ん、おはよう、アズリオ」
ミハイルがまだ少し眠気の残る声で、呼び捨てでそう返すと、アズリオの胸が嬉しさで嬉しそうに跳ねるのが、重なった身体を通して伝わってきた。
その瞬間、ミハイルの脳裏に昨夜の記憶が鮮明に蘇る。
自分から誘ったくせに、いざ始まったらキャパオーバーになって「待って」を連発したこと。そのたびにアズリオが本当に、苦しそうな顔をしながらもピタリと動きを止めて、泣きそうなほど優しい目で見守ってくれたこと。恥ずかしさのあまりアズリオの胸に顔を埋めて、それでも「……続き、して」とおねだりしたこと――。
「――っ、」
一気に記憶が押し寄せ、ミハイルは自分の顔がみるみるうちに沸騰していくのが分かった。いつもならどんな状況でもさっぱりと流せるはずなのに、今回ばかりは恥ずかしさが限界を突破している。ミハイルは慌ててシーツを頭まで被り、アズリオから顔を隠した。
「ミ、ミハイル!? どうしたんだ、どこか痛むのか!?」
アズリオが血相を変えて、シーツの上からミハイルの身体をそっと抱きすくめる。
「……痛く、ない。そうじゃなくて……」
シーツの中から、くぐもった、ひどく照れくさそうな声が聞こえる。
「昨日のことを思い出したら、その……すごく、恥ずかしくなって……」
その健気な告白を聞いた瞬間、アズリオはシーツの上からミハイルをぎゅうっと ──もちろん、壊さないように細心の注意を払いながら―― 抱きしめた。
「可愛い……っ。可愛すぎる、ミハイル。そんな風に恥ずかしがってもらえるなんて、俺は前世でどんな徳を積んだんだ……」
「ちょっと、アズリオ、大げさ……!」
「大げさなものか! 昨日の君は、本当に……その、俺を気遣って無理をしていないか、それだけが心配だったんだが、あんなに可愛らしく俺を求めてくれて、俺は、生きていて良かったと心から思った……!」
アズリオはシーツを少しだけ捲ると、中から現れた、真っ赤になって拗ねたように唇を尖らせているミハイルの額に、愛おしさを堪えきれないといった様子で何度もキスを落とした。
「実家の領地が安定しても、絶対に帰さないからな。……いや、帰したくない」
アズリオが少し子供のように我が儘にそう呟くと、ミハイルはシーツから手を伸ばし、アズリオの頬に触れた。
「帰らないって、もう約束したでしょう? ……僕の居場所は、もうここだよ、アズリオ」
ミハイルがふっと力を抜いて、恥ずかしがりながらも嬉しそうにはにかむ。
その笑顔を見たアズリオは、再び鋼の理性がミシミシと音を立てるのを感じながらも、今度はミハイルを驚かせないよう、ただただ深い愛を込めて、優しく、甘い朝の口づけを交わすのだった。
ミハイルは望まぬ結婚がこんなにも幸せな結末になるとは思わず、切なくなるくらいに胸を熱くしながらアズリオに身を委ねていった。




