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雑草と呼ばれた令嬢は、氷の公爵の庭を咲かせる  作者: もちもちほっぺ


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15/20

夜会にて

王都で開かれる秋の夜会。差出人は王家の紋章入りで、断ることのできない類のものだった。


「……行かなければならないか」


ギルバートが封書を見ながら言った。どこか憂鬱そうだった。社交の場が得意でないのは、見ていればわかった。


「おふたりでのご出席ですか」


ホレスが確認すると、ギルバートはフェリシアを見た。


「……フェリシアも来い」


命令のような言い方だったが、フェリシアにはもうわかっていた。それが、一緒に行きたいという意味だということが。


「はい」


夜会の当日、フェリシアは仕立て屋が届けてくれた深い緑のドレスを着た。


胸元に、カモミールに似たパールのブローチをつけた。鏡を見ると、自分でも少し驚いた。ルミナリス家にいた頃の自分とは、別の人間のようだった。


扉をノックする音がした。


開けると、ギルバートが立っていた。礼装姿だった。金の飾緒のついた軍礼服で、普段より更に威圧感がある。

でもその目が、フェリシアを見た瞬間に、微かに変わった。


「……準備できたか」


「はい」


ギルバートはフェリシアをもう一度見た。それから視線を逸らした。


「……行くぞ」


廊下を並んで歩きながら、フェリシアはちらりとギルバートの横顔を見た。耳が少し赤かった。





会場に入った瞬間、人々の視線が集まった。

フェリシアは最初、ギルバートに向けられた視線だと思った。氷の魔王が夜会に現れれば、それだけで注目を浴びるだろう。

でも違った。


「ウィンストン公爵が奥方を連れてきた」

という囁きが、さざ波のように広がっていくのが聞こえた。

ギルバートが妻を社交の場に連れ出したのは、初めてのことだった。


フェリシアはギルバートの少し後ろを歩こうとした。

ギルバートの手が、フェリシアの手を取った。

無言で、隣に並べた。


フェリシアは少し驚いたが、何も言わずにギルバートの隣を歩いた。


しばらくして、アルヴィンが現れた。


「やあ、二人とも。フェリシア嬢、今夜は一段と」


「……余計なことを言うな」


「まだ何も言っていませんよ」


アルヴィンはフェリシアに笑いかけた。フェリシアも笑い返した。


三人で話していると、周囲の空気が少し和らいだ。アルヴィンがいると、ギルバートの威圧感が幾分か薄れる。

それを本人も知っているのか、ギルバートはアルヴィンが側にいることを嫌がらなかった。


「今夜はルミナリス家も来ているようです」


アルヴィンが、さりげなく言った。

フェリシアは少し、体が固くなるのを感じた。


「……そうですか」


「顔を合わせることになるかもしれない。心の準備だけ」


「ありがとうございます」


ギルバートがフェリシアを見た。何も言わなかったが、フェリシアの手をそっと取った。さりげない動作だったが、確かな力があった。

フェリシアは小さく頷いた。


ルミナリス家と顔を合わせたのは、夜会も半ばを過ぎた頃だった。

人の流れの中で、ふと視線を感じた。


振り返ると、父がいた。


エドワード・ルミナリス伯爵。


二ヶ月ぶりに見る父の顔は、フェリシアが記憶しているより、老けていた。


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