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転生悪役令嬢の筋肉無双  作者: 無印のカレー
中編。夏合宿

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78話 やっぱ無理っす

続いて男子。


第二王子アルヴェルト・アルシェリオン。

隣国の有力貴族リュカ・グレイファングをはじめとして、夏にふさわしい着崩したイケメンが、ぞろぞろと現れていた。


光の王子と、闇を従える獣。

彼らを先頭に続く、男子たちの顔立ちも整っている。


研がれた笑み。

血筋と財と未来を、疑いなく自分のものとして背負った者たち。


色気。

家柄。

ファッション。

権力。


それらを当然のように纏った、野心の塊が、連なって現れた。


その瞬間だった。


女子たちの目が変わる。

祝祭の姫達の微笑みは、即座に役目を終えた仮面のように薄れ、視線は計量の鋭さを帯びる。


冷厳なるハンター。

(得意武器は笑顔。)



火と海と欲望が見守る中、

かくして乾杯が、静かに交わされた。


宴でありながら、圧倒的に、値踏みと選別を本性とする合コン。




合コンの花は、それは食でもなく、酒でもない。

(※学生なんで。)

それは自己紹介。


そして合コンにおいて、決して外すことを許されぬもの。

羞恥と期待と、その場の空気すべてを賭ける、小さな処刑台。


一発芸大会。



一発芸大会をすることになった。

沈黙の中、一つの手が、すっと上がった。


「じゃあ、最初、私いきますね。」


マリアのその所作は、迷いがない。

躊躇もない。

まるでこの瞬間が、最初から定められていたかのように。


「マグロを解体します!!!!」


かくして、合コンという名の祭壇に、巨大な魚が投げ込まれた。







誰も理解できない。

なぜ。

ここで。

マグロ。


初手にして祝祭が凍りつく中、マリア、および合コン運営の裏方は、すでに動いていた。

テーブルが迅速に用意され、そこに立派なマグロが運ばれてくる。

すごく大きい。

場違いなほどの存在感で、祝祭の中心をその澱んだ死んだ魚の目で占拠する。


一同はじっと見ていた。


一発芸という言葉が、完全に意味を失うほど立派なマグロだった。

海のダイヤと言われるその威容。

泳ぐために研ぎ澄まされた、暴力的ともいえる流線形と生命が、露骨なまでに同居している。

死んでいるが。


さすがにマグロを前にして剣を構えるマリアにも、戸惑いがあった。


視線は揺れず、笑顔も完璧、しかし実は覚悟だけが揺蕩っていた。


──お嬢様。ホントにこれでいいんですよね?

(ねえ。信じてますからね?

これでお嬢様の意図するところと違ってたら、私、今後……恥ずかしくて学校これませんからね!!!)


メイド服を着て、マグロの前で剣を構え、その倒錯した構図の中でマリアは笑顔を作りながら、だらだらと冷や汗を流していた。




「よっと」

刃が鞘を離れるためのその一言とともに、マグロは解体された。


銀の光が走り、赤は裂かれるのではなく、許されるように開かれた。


一同は思ったという。


自己紹介。

名前。

趣味。

好きなタイプ。


それら一切関係ない、完全なる職人芸。


この後の自己紹介は、あまりにしづらい。




皆の前にはマグロ料理が並ぶことで、うまくワンクッションを置くことができた。


赤身、中落ち、大トロの饗宴。


リーシャの番が来た。


「リーシャです。よろしくお願いしまひゅ……」


かんだ。






ステージの隅。

光の届かぬ場所でリーシャは体育座りをしていた。


リーシャは秒で敗北した。

敗北は雷よりも早かった。


(無理です。)


華やかな場所で、生まれながらにして美貌と立ち振る舞いを磨いてきた貴族の淑女がダースでいるのだ。

視線一つで場の空気を編み替えるのだ。

平民出身のリーシャに勝ち目がないのは当たり前だった。


──というか、スタートラインにたてていない。


戦場選択ミス。レートが高すぎた。


──そもそもなぜこんなところにいるんだろう。

──課題おわってないのに。


浮かれていたのかもしれない。

未だ終わらぬ山のような課題が、胸に浮かぶ。


そして舐めていた。

ちょっとおめかしすれば、男子なんてすぐ落ちるだろう。

見込みが砂糖のように甘く、軽すぎる。



そりゃみんながおめかししてれば、横一線なんだから、選別と比較のバトルが生じるに決まっているやんけ。


マリアはカクテルを、渡す。

白桃と柑橘を合わせた、飲みやすい、無駄に凝った逸品。

スイーツを合わせてある。


「リーシャちゃん。はい。お疲れ様でした。」


「マリアさん。

ありがと……マリアさんは慣れているのね。こういうところ」


「給仕としてですね。マグロ切るのと、飲み物運ぶ事しかしてませんし。」


「そういえば、お店の店員みたいな動きしてたね……

ねえ。マリアさん。

どうしてこんな事を企画したの?思い出つくりにしてはあまりに準備しすぎじゃない?」


「もうぶっちゃけちゃうと、リーシャちゃんが恋人を作る事で、クラリッサ様が危険を回避できると、教会の予言にあったみたいなんです。」


「……は?」


細かい説明は省いた。

クラリッサは教会の関係者であり、予言受ける立場にある事を説明する。

(※マリア自身もそれが予言からくるものかは知らないが、早かったので。)


リーシャは、カクテルを見つめる。

甘さの奥に、微かな苦味が潜んでいた。


「な、なるほど。だから合コンを企画したの。

でも無理だって。私こういうところ得意じゃないし、こんな精神状態で恋なんて無理だから。」


「なんでも、その髪飾り、魅了特化の装備みたいですよ?鑑定した人が言ってました。」


「いや、可愛いけどね!!

なんか男子の目線もいつもより見ている気がしているのは感じてるけどね!?

でも向こうが良くても、私がいけるかは、別問題だから。そもそもいけるわけないから!!!」


「ちなみに、リーシャちゃんって恋人は?」

「平民だし!!!

こんな貴族ばっかのとこで見向きなんてされないから!!

魔術しかやってないんだよ!?」


マリアは思った。


──確かに!!!


無理かもしれないこれ。

秒でマリアは諦めかけていた。


その時かけてくる声に、マリアは即座に姿勢を正した。


「楽しんでいるかい?」

「殿下!!

そうですね。正直に言えば、楽しんではおりませんね。」


「やはりか……クラリッサ殿の要望たせていないようだ。」


マリアは、何かを決意したように顔を上げる。

「……そうだ。

殿下。少しだけ、待っていただいていいですか?ここで。」

「ああ。かまわない。」


突然の第二王子の登場、そしてやりとりに完全にフリーズしてるリーシャに、マリアは声をかける。


「もう。殿下でいきましょう。」

「……は?」


──はい?

(いやいやいやいや!?!?

無理無理無理無理!?!?)

「何言ってんのっ!?」


「見てください!!」

「見てるから!!」


「すでに周りでは、カップルが生まれています。

ぶっちゃけ取り残されているのは私達くらいです!!」


「はあ……だから?」


「余りものの、アルヴェルト殿下で我慢しください。」


「いや、無理。」

「お願いします。お嬢様の為なんです。」


「……わかったよ……観念する。

クラリッサさんは友達だから。」


「ありがとうございます!!」



「話はすんだかい?」


「……っ!?」

アルヴェルトは、最高にイケメンだった。

祝祭の場を一段上の舞台へと書き換えるほどに。


いや、無理。


キラキラしてやがる。

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