122話 精霊に導かれて
講堂から出てクラリッサとリーシャは進む。
幹をくり抜いた住居。
枝と枝を繋ぐ細い橋。
地面には石ではなく、根がそのまま道として露出している。
通りを、エルフたちが行き交う。
「えーっとあっちかな。
うん。
こっちね」
リーシャに迷いはない。
(だいぶ迷っている気がするけど指針はある状態。
修正は利くのだろう。
穴抜けの地図を情報収集で埋めてる感じか。)
やがて。
「ここの下かなあ……」
「ここか。まあ、あるかなとは思ってたけど。」
「私は、まさかここかって感じだけど。」
「深そうね。
反応は?」
「まだまだ先だって。
水精霊が言ってる。」
彼女達は風が流れてくるそこを見下ろしていた。
人の流れが、途切れた先。
橋も道も終わり、エルフの森をかきわけて、さらに先。
そこは崖だった。
空中庭園アルヴェインは空中に浮かぶ。
なら、その麓には大地がくりぬかれた穴がある。
何層にも重なる地層が、むき出しになり、
その一つ一つが、遥か下まで続いている。
底は見えない。
白い靄が、深さを覆い隠している。
それはそのまま、空中庭園アルヴェインの巨大さを示す。
「水精霊の時と同じなんだ。
呼ばれている気がする。
崖下を見ても……
ほら。
高所特有の恐怖は感じない。」
「いや、私は普通に怖い。
だけど、あまりに早いわね。
講堂をでてから、ほとんど時間たってないんだけど……」
「うーん……
なんなんだろうね。
この導かれてる感じ……
うまく言えないなあ……」
リーシャは、首を傾けていた。
精霊の感応は、言語化が難しいのだろう。
(どんな難解な結界も、どんなエルフの幻覚も、精霊そのものとその精霊を犬猫のように使いこなす変態を前にすれば、クソという事わけね。)
──リーシャは頭の中はピンクだが、完全に天才。
(さすがだ。
水精霊の契約者は伊達ではない。)
「目的の精霊は崖の下ってわけね。
早速向かいましょう。」
リーシャは、飛翔魔術を使える。
2人はためらうことなく、その崖を踏み出していく。
大地が、削り取られている。
そうとしか言いようがなかった。
何層にも重なる地層が、むき出しになり、
その一つ一つが、遥か下まで続いている。
そこを彼女達は下りていく。
「あ、ここかも。」
「結局底についたんだけどね。
結構ひろい。それに暗いから探索には手間取りそう。
魔物には気をつけてね。」
「う、うん。」
浮遊大陸と、大地の狭間。
空はない。
見上げれば、上空にはアルヴェインの底面が、天井のように覆っている。
岩盤。
絡み合う巨大な根。
ところどころに露出した、淡く光る鉱脈。
──やな予感する。
(これ、空中庭園が大地に落ちるでしょ、絶対。
今は大丈夫かもしれないけど、ザ・レイディーファーストキスのストーリーは、ロクなストーリがない。
わかる。
絶対これ落ちるやつだ。)
「クラリッサさん!!」
「わかってる!!魔物ね。
もう見つかってる。来るわよ、
私が前衛。リーシャは援護よろしく。」
絡み合った巨大な根。
その隙間に、砕けた岩と、白い骨。
折れた枝。
潰れた獣の頭蓋。
風化しきらない残骸。
それらが、無理やり一つにまとめられ、人の形をしていた。
地面を抉るように、魔物が前に滑る。
──まあまあ早い。
(だけど、まあ、余裕かな。)
ドゴンッ!!
踏み込んで拳で一撃。
絡み合った根と骨が、内側から弾け形が崩れる。
人型が、、ただの残骸へと戻った。
周囲の暗がりから、ズルズルと同じような“塊”が、いくつも這い出してきた。
──数がいる。
──群れ。
その腕だったものが振り上がる。
根と骨と岩が絡み合った塊。
そしてクラリッサが、それを受け止めようとしたら、水が一直線に走った。
圧縮された水流が、空気を裂き塊ごと魔物を吹き飛ばす。。
ブンッ!!
リーシャの水魔術だ。
高速射出された水圧が、塊を吹き飛ばしていた。
「リーシャ今のは?
なんか水魔法が私を掠めかなかった?」
「ごめんクラリッサさん!!
そろそろダメかも。」
「だめって何が?
問題なかったように思うけど。」
「精霊がごねてる!!
クラリッサさんも近くにいると、さっきから、水精霊がやばいの!!
特にここは、エルフ領だけあって精霊が活性化してる!!
下手の大きな魔術を使ったら、このアルヴェインの麓の大地そのものを水没させちゃうかも!!」
クラリッサはひくつく。
──誰だ。
──水精霊を怒らせた奴は
(自分だ。
クソみたいな精霊選抜をやめろとパワハラした事を、あのクソガキまだ根にもってる!!
どうでもいいが。ごねるの早い!!
ここで水没させると多分偉い事になるんだけど。
空中庭園アルヴェインと大地の合間なんだけど。
水の行き場がないんだけど。)
「魔物は私の方で処理する!!
援護なくてなんとかなるから!!
リーシャは、すみっこで静かにして!
水精霊の制御優先。暇なら精霊の感知。」
「う、うん。ごめんね?」
「あのクソガキに、今度会ったら殺すって言っといて!!」
「だから!!
そういうこと言ったら本当にやばいから!!
わかってやってるよね!!それ!!!!」
聞いていなかった。
一息で、クラリッサは魔物の懐に飛び込むと、筋力にものを言わせて、殴りつけた。




