115話 カジノの胴元。真相を知る
「話合いは終わったか?」
「ナンパって感じでもなさそうなのよね。
まあ、いくわけないでしょ?
そもそもここ弁償しなさいよ。あんたら。」
「ああ!?」
「ひいい!?」
男はすごみ、リーシャの常識的な反応
クラリッサは、ため息交じりにマリアに目配せする。
──マリアの動きは速い。
──返答すらない。
マリアが、視認のできない速さで剣をふり終わると、男の着用していた衣類が切り裂かれた。
──ジャガイモの皮剥き。
「な……あガっ……!」
戸惑う男の首をつかんで、クラリッサは軽々と持ち上げる。
片手で。
万力のような力で、衣類を切り裂かれた男の肉体を持ちあげる。
片手で。
軽々と。
大の大人の重量を、まるでコップを掲げるように簡単に持ちあげていた。
男は足をばたつかせるが、一切微動だにしない。
大樹が根をはったように。
「用件は?
言わないなら、殺すけど。
ちなみこうやって物を持ち上げるのは三角筋ね。
腕も逆手なので、リバースポジション。
あなたの体重からして80キロのワンハンドショルダープレスってところね。」
「あ……が……」
「お嬢様。質問なさってますがそれじゃ言えませんよ。だって首が……
それに、なぜ筋トレを説明を……」
「あら。いけない。
わたくしとしたことが。ごめんあそばせ。
筋トレの説明は、ついでよ。
だって飢えてるもん。」
クラリッサは力を抜いて、男を落とす。
そして激しくせき込む男を見下ろしていた。
屈んで聞く。
「で、用件は?
聞くだけは聞くけど?」
「お前ら、こんなことしてタダで」
──ドゴオ!!
2人の間の大地から鈍い音が足元から響き、何が起きたのか誰も理解できなかった。
次の瞬間に床が沈み、石畳に走る亀裂。
それが一気に広がり、蜘蛛の巣のように砕け散る。
遅れて、衝撃が空気を揺らしていた。
クラリッサの拳が、大地に突き刺さっている。
男たちは悟る。
──こいつ。
──殴って地面をぶち壊しやがった。
クラリッサは、拳を軽く振って埃を払いながら立ち上がる。
男達は誰も声を発することができない。
(ありえなくない……?
え……?
頭おかしくない……?)
「わたくし、最近なんだか耳が遠くって。
お話し合いされたいんですよね?いいですよ?
人体って岩よりも柔らかいからなー。
すぐ終わっちゃって面白くないんだけど。
建設的な話し合いじゃないなら、暴れちゃうかもなー。」
「……ボスが呼んでいる。」
「そう。
幸い海が近くって、助かったわね。」
男たちの後ろを、クラリッサ達は歩く。
男たちは、時折本当にクラリッサ達がついてきているか確認していた。
顔色が心無しか悪い。
リーシャは聞いた。
「ね、ねえ。クラリッサさん。
ちなみになんで?
なんで海が近いと、そこにメリットがあるの?」
「死体が増えても捨てられるでしょ。海って。
合理的じゃない。
魚の餌にもなるから、無駄にもならないし。
まさに海のたんぱく源ね。
たくさんのものを海からもらってるから、たまには返さないと。」
リーシャは全力で思った。
こえーから!!
カジノの奥で、重厚な扉が軋むように開いた。
喧騒はそこまでで断ち切られ、外の歓声も、チップの音も、まるで別世界のもののように遠い。
室内は静かだった。
分厚い絨毯。
低く灯るランプ。
煙草の煙が、ゆっくりと天井に溶けていくその中央で、椅子に深く腰掛けた男がこちらを見ていた。
カジノの胴元。
クラリッサ達が部屋に入ってきたのを見て、男はこめかみ指で抑えていた。
「お前らかよ……派手にやり過ぎなんだが……」
バルド・ガルディウス。
《竜の牙》の前衛。
筋肉の鎧を纏い、一目で実力者である事を想起させる圧があった。
彼は今、試験的にカジノ運用する胴元になっていた。
冒険者業は、依頼を受けてそれをこなし、報酬を受け取る業務形態。
それは現代のヤクザのシステムに近い。
依頼請負業は、縄張り(テリトリー)による利権ビジネスの側面を持つ。
適正ランク外などで狩場に無許可で入る物は、シノギ荒らしで制裁対象。
依頼の配分(仕事のコントロール)と上納金(ショバ代)は、中立に見えて調整業務も多い。
トラブル処理などは、完全にヤクザだろう。
《竜の牙》は、Sランク冒険者パーティー。
冒険者出身だけあって、この構造を骨の髄まで理解し、熟知していた。
よって、一時的にカジノの胴元としてオファーがきており、バルドはそれを受けた形になる。
──1万金貨《約3,3億円》を稼ぎ出した輩がいる。
(ちょっと連れてこい、そう指示したら
こいつらと一緒に帰ってきやがった。
柄の悪いやつらだ。
機嫌をそこねたんだろうな。
服を切り裂かれ、青白い顔をしながら先導してきたのだろう。)
服は裂け、顔面は蒼白。
完全に“やられている”。
──可愛そうに。
(気持ちはわかる。
俺も似たような事されたし。)
ため息。
その視線の先。
クラリッサは、まるで何事もなかったかのようにコツ、コツ、と歩み出てにこりと微笑む。
靴の音がやけに響いた。
悪びれた様子は、欠片もない。
胸を張り、当然のように腕を組んでいた。
「バルドさん。お久しぶりです。お呼びだそうで?」




