103話 姿をあらわすもの
水の竜巻の規模は、驚くほど大きい。
規模は、天空を穿つほどで、幅は、城がいくつも並ぶ。
近づいてしまえば、それは視界一杯に広がるあまり超自然的な水の壁。
水の要塞。
水の切り立つ断崖。
逆巻く海
いかようにも威容は形容できる。
逆巻く滝のしぶきが空に舞い上がり、陽光を受けて蒼銀に煌めく。
風は荒れ狂う。
誰もが息をのみ、誰もが見上げていた。
一人、セレスティアは前を見て、そっと胸の前で手を重ねる祈り。
そして詠唱が紡がれる。
──Sea, be still.
(海よ、静まれ。)
──All that lies beneath the heavens, return to your rightful order.
(天の下に在るものよ、あるべき姿へ還れ。)
──(※グーグル先生の英訳。)
海へ語りかけるような、祈りの言葉。
「おい……竜巻が……」
「すげえ……」
やがて。多くの人間がそれを目撃した。
ここ数日、海を支配するかのように占拠し続けていた巨大な竜巻が、ふっと息をつくように弱まり、ほどけるように崩れ、そしてあまりにも静かに、霧散した。
竜巻が霧散した向こう。
そこには、クラリッサが以前に囚われた無人島があった。
──考えてみれば当然の事だ。
(リーシャは、この島で水精霊と契約した。
そしてその場から動いていない。
水の竜巻はそこから生まれた。
なら島も、ある。)
海が天から落ち、
荒れ狂う津波が岸を打ち、
幾日もの間を水の竜巻に阻まれ、
島は沈まず、砕けず、そしてもう一度クラリッサ達の前にその姿を晒した。
──考えてみれば、踏んだり蹴ったりよね。この島も。
まるで、長き試練。
クラリッサは肩をすくめる。
(影響は王国全土に及んだ。
嵐を産み、海位上昇をもたらした。
でもそれはこれで解決。
リーシャは島のどこかにいる。
探して、それで終わり。文字通り佳境だ。)
やがて破滅か、生存か、運命の最後の天秤は傾き、そして世界は結末にたどり着くだろう。
誘われるように。
「さて……ようやくここまで来た。
リーシャを探しますか。
一体どこにいるんだかね
全く、手間取らせて。」
「クラリッサ。
この後の流れを確認しましょう。
途中、ツッコミたい点は数多くありましたが、全ての目標は、問題なく達成しました。
まずは、さすがと言っておきます。」
「みんなのおかげだけどね。
残るは、最終目標リーシャというわけね。
タイムリミットの満月はいつだっけ?」
「今夜ですね。
急ぎましょう。」
索敵をしながら、歩く
グランディール兵達は、すでに動いていた。
突撃陣形は解き、滝を背にした防御陣へと静かに組み替わる。
資材が降ろされ、陣幕が張られ、見張りを配置し、同時に兵たちは拠点の構築を始めた。
手慣れた動きだった。
幾多の戦場を越えてきた軍勢にとって、
それは呼吸のようなもの。
クラリッサは気づいた。
「あ。来た。羽虫だ。」
「羽虫……?
ああ、高位魔族ですね。」
魔物の群れを連れて。
クラリッサは首を鳴らした。
──さて、あの時の借りを返しましょうか。
(今回は、1000人の仲間がいる。)
一蹴してあげるよ。
高位魔族君。
──リーシャ。
水精霊の世界。
そこは、ただ透明な水がどこまでも揺れている、夢の底のような場所。
少女がリーシャを抱きしめていた。
その声は優しく、そしてどこか寂しい。
「おねえちゃん。
ずっと一緒だよ。」
リーシャは、水で揺蕩いながら思う。
──ここはどこだろう。
(不思議と怖くはない。
けれど、何かを忘れている気がする。
とても大事な、何かを……)
なんだっけ。
水の中から、何かを見ていた。
水の向こうに、何かが見えた。
遠い場所。
誰かが戦っている。
必死に。




