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#4 静なる晩餐
【#4】
静かな鈴の音が、静かな店内を彩る。
「いらっしゃいませ、アクセルリスさま」
「こんばんは、タランテラさん」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
窓際の席に案内されたのは二人の魔女と一体の使い魔。
「……まさか、アクセルリスがご馳走してくれるとは」
「今までのお返しですよ、お師匠サマ。丁度、良い店も見つかったんです」
「ええ、この店はいいわね。落ち着いていて、澄んでいて、美しいわ」
〈……創造主、『壊し甲斐がある』とか思ってないだろうな?〉
「あら、トガネにはお見通し?」
「何考えてんですかー!?」
「冗談よ、冗談。ふふ」
「シャレになんねえ……」
目を閉じ、気を緩める。
冗談が好きで、掴み所のない、不敵な女性。
その考えは、想像を遥かに絶してくることもある。
その仕草に、思いがけず振り回されることもある。
だけど、それでも、アクセルリスは。
「……お師匠サマ」
「なぁに?」
「今夜は……月が綺麗ですね」
「……ええ、そうね」
二人の魔女は、窓から覗く大きな月を見て、柔らかに微笑んだ。
【アクセルリスと冬のあやかし おわり】