間幕
惑いの森のある奥深い洞窟。
暗い闇の中で揺らめくロウソクの炎。
その炎に照らされ揺れる影があった。
豪奢な造りの脇息にもたれかかる男。
白磁の頬に、絹のような黒髪がサラリとかかる。 白魚のような長い指先で軽く払いのけ、柔らかそうな唇からは吐息が漏れた。
薄い瞼が震え、瞼の下からどこか倦んだような陰を纏う鈍い金色の瞳が表れた。
「あぁ……外の気配が騒がしいと思ったら、そうか………そろそろ奉華の時期か……」
どこまでも纏わりつくかのような闇の中で艶めかしい声が響く。男は軽薄に嗤う。
「外の連中も飽きぬものだな? それほどまでに我が力が欲しいのか。ご苦労なことだ」
謳うように軽やかに告げる言葉とは裏腹に、その瞳に宿す陰は、深みを増していく……。
「疎ましいが致し方ない。結びし約定を我から破るわけにはゆかぬ。そう、我からはなぁ……」
男は待っていた。
向こう側から約定が破られるのを。
この二百年、ずっと。
「くっ、くく。二百年越しの加護が薄れ始めた。香しき死の匂いが立ちのぼり始めている……死者の怨嗟が地の底から這い上がり、嘆きと憎悪が国を包むだろう………───満たされればよいのだ。怨府の慟哭。思い知るがいい……偽善の面をつけた愚者共よ。渦巻く憎しみの連鎖。時経て消えぬ恨み……果てなき怒りの体現を」
そう、思い知ればいいのだ。己が我欲を満たすために生み出した昏き罪を。
『───』
男の耳に、声が聞こえた気がした。遥か遠く、懐かしき声が。
「……」
男は自嘲の笑みを浮かべて瞳を閉ざす。
『なぁ、おまえ。私が差し出せばおまえは生き、私が死ぬ。だが私が差し出さねばおまえは確実に死ぬ。私は死ぬ気はないし、おまえも死ぬ気はない……ならばこうはせぬか? 私はおまえに差し出そう。そしてその代わり、おまえは私と共に生きないか。そうすれば解決だ』
聞こえる訳がない。
奪われたのだから。
我が愛でる、甘き一滴の甘露。
我の─────。




