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白恋鬼譚  作者: 丹下 博観(風光明媚)
異世界にて鬼に出逢うこと
14/71

間幕

 


 惑いの森のある奥深い洞窟。

 暗い闇の中で揺らめくロウソクの炎。

 その炎に照らされ揺れる影があった。


 豪奢な造りの脇息にもたれかかる男。


 白磁の頬に、絹のような黒髪がサラリとかかる。 白魚のような長い指先で軽く払いのけ、柔らかそうな唇からは吐息が漏れた。


 薄い瞼が震え、瞼の下からどこか倦んだような陰を纏う鈍い金色の瞳が表れた。



「あぁ……外の気配が騒がしいと思ったら、そうか………そろそろ奉華の時期か……」



 どこまでも纏わりつくかのような闇の中で艶めかしい声が響く。男は軽薄に嗤う。



「外の連中も飽きぬものだな? それほどまでに我が力が欲しいのか。ご苦労なことだ」



 謳うように軽やかに告げる言葉とは裏腹に、その瞳に宿す陰は、深みを増していく……。


「疎ましいが致し方ない。結びし約定を我から破るわけにはゆかぬ。そう、我からはなぁ……」



 男は待っていた。

 向こう側から約定が破られるのを。



 この二百年、ずっと。



「くっ、くく。二百年越しの加護が薄れ始めた。かぐわしき死の匂いが立ちのぼり始めている……死者の怨嗟えんさが地の底から這い上がり、嘆きと憎悪が国を包むだろう………───満たされればよいのだ。怨府の慟哭。思い知るがいい……偽善の面をつけた愚者共よ。渦巻く憎しみの連鎖。時経て消えぬ恨み……果てなき怒りの体現を」



 そう、思い知ればいいのだ。己が我欲を満たすために生み出したくらき罪を。



『───』



 男の耳に、声が聞こえた気がした。遥か遠く、懐かしき声が。



「……」



 男は自嘲の笑みを浮かべて瞳を閉ざす。

 















『なぁ、おまえ。私が差し出せばおまえは生き、私が死ぬ。だが私が差し出さねばおまえは確実に死ぬ。私は死ぬ気はないし、おまえも死ぬ気はない……ならばこうはせぬか? 私はおまえに差し出そう。そしてその代わり、おまえは私と共に生きないか。そうすれば解決だ』
















 聞こえる訳がない。

 奪われたのだから。


 我が愛でる、甘き一滴の甘露。


 我の─────。








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