ポムポムラブラブキャラメリゼにバニラアイスを添えて
「おはようございます!」
朝の教室。
レンが席に着いた直後、元気な声が響いた。
振り返ると、天宮レイラが立っていた。
「おはよう、天宮さん」
「レイラでいいですよ」
「え?」
「昨日も言いましたけど、もっと仲良くなりたいので。名前で呼んでください」
レイラはにっこりと笑う。
「では、私もレンくんと呼んでも?」
「まあ、別にいいけど」
「ありがとうございます!」
なぜか、レイラは嬉しそうだった。
そして、レンの顔をじっと見つめる。
「……?」
「どうかした?」
「いえ」
レイラは少しだけ首を傾けた。
「やっぱり、不思議ですね」
「何が?」
「レンくんのことです」
「俺?」
「はい。昨日からずっと考えていたんです」
レイラは胸元に手を当てる。
「初めて会ったはずなのに、どうしてこんなに気になるんだろうって」
「そうなの?」
「はい。顔を見ると安心するのに、目を離すと気になってしまうんです」
レンは困ったように笑った。
「それって、単に俺が変な顔をしてるからじゃない?」
「ふふっ。違いますよ」
レイラは一歩近づく。
そして、真剣な顔で告げた。
「あなたから、目が離せないこの感覚……運命ですね!」
「……はい?」
レンの思考が止まった。
レイラは満足そうに頷く。
「そうです。きっと、これは運命なんです!」
「いや、ちょっと待って」
「はい?」
「どうしてそうなる?」
「だって、気になるんですもの」
「それだけで?」
「それだけで十分じゃありませんか?」
レイラは笑った。
「私、レンくんのことをもっと知りたいです」
その言葉に、レンは返事に困った。
そして、そのやり取りを少し離れた場所から見ている少女がいた。
白石ユナ。
彼女は笑顔のまま、二人を見つめていた。
ただし、その手には握りしめられたシャープペンシルがあった。
⸻
「レン!」
ユナが二人の間に割って入った。
「おはよう!」
「おはよう」
「天宮さんもおはよう!」
「おはようございます、ユナさん」
ユナはレンの隣に立つ。
そして、自然な動作でレンの腕に抱きついた。
「ねえ、レン。今日のお昼、一緒に食べようね!」
「いつも一緒だろ」
「今日は特別!」
「昨日も言ってなかった?」
「毎日特別なの!」
ユナは満面の笑みを浮かべる。
レイラも負けじと微笑んだ。
「では、私もご一緒していいですか?」
「もちろん!」
「ありがとうございます」
「でも、レンのお弁当は私が作ってるからね!」
ユナが言った。
「そうなんですね」
「そうだよ。小さい頃からずっと!」
「素敵ですね」
レイラは少し考えた後、レンに向き直った。
「では、私も明日からお弁当を作ってきます」
「え?」
「レンくんの分も」
「いや、そこまでしなくていいよ」
「遠慮しないでください」
「遠慮というか……」
「決まりですね!」
レイラは嬉しそうに頷いた。
ユナの笑顔が、ほんの少しだけ固まる。
「……天宮さん」
「はい?」
「レンのお弁当は、私が作るから大丈夫だよ?」
「そうですか。でも、私も作ってみたいんです」
「そっか!」
二人は笑顔で見つめ合う。
レンは二人の間に流れる空気を感じ取っていた。
「……何で俺の弁当が争奪戦になってるんだ?」
誰にも聞こえないように呟いた。
⸻
一時間目が終わった休み時間。
レイラは自分の席から立ち上がると、レンの机の横にやってきた。
「レンくん」
「ん?」
「少し質問してもいいですか?」
「いいよ」
「好きな食べ物は何ですか?」
「カレーかな」
「カレーですか!」
レイラは手帳を取り出した。
「メモしておきますね」
「何で?」
「好きなものを知っておきたいからです」
「そんなに重要?」
「もちろんです!」
レイラは真剣な顔で書き込む。
『レンくんの好きな食べ物:カレー』
その下に、さらに書き足す。
『甘口? 中辛? 辛口?』
「ちなみに、辛さは?」
「中辛」
「分かりました!」
次のページをめくる。
「休日は何をしていますか?」
「特に何も。家でのんびりしてることが多いかな」
「好きな映画は?」
「映画?」
「はい!」
「そうだな……アクションものとか」
「なるほど」
レイラはまたメモを取る。
「好きな音楽は?」
「えっと……」
「好きな季節は?」
「ちょっと待って」
レンは笑った。
「面接でも受けてるみたいなんだけど」
「ふふっ。ごめんなさい」
レイラは手帳を閉じた。
「でも、知りたいんです」
「俺のことを?」
「はい」
彼女はまっすぐにレンを見つめた。
「もっと知りたい。もっと話したい。もっと一緒にいたい」
レンは少しだけ目をそらした。
「……天宮さんって、意外と積極的なんだな」
「レイラです」
「え?」
「レイラって呼んでください」
「分かったよ、レイラ」
その瞬間、彼女の頬が少し赤くなった。
「……はい」
どうやら、名前で呼ばれることには慣れていないらしい。
レイラは小さく笑った。
「やっぱり、運命ですね」
「まだ言ってる……」
⸻
昼休み。
レンが弁当を取り出すと、ユナが隣に座った。
「はい、レン!」
「ありがとう」
「今日は卵焼き、自信作だよ!」
「へえ」
「食べてみて!」
レンが一口食べる。
「うまい」
「本当?」
「本当」
ユナは嬉しそうに笑った。
「よかった!」
その向かいに、レイラが座る。
「こんにちは」
「こんにちは!」
ユナが笑顔で返す。
レイラは自分の弁当を開いた。
「今日は自分で作ってきました」
「へえ、すごいね!」
「まだ慣れていないので、簡単なものですけど」
レイラの弁当には、きれいに詰められたサンドイッチが入っていた。
「おいしそう!」
ユナが感心する。
「ありがとうございます。よかったら、レンくんも食べてみてください」
「いいの?」
「もちろんです」
レイラがサンドイッチを差し出す。
レンが受け取ろうとした瞬間、ユナが卵焼きを差し出した。
「レン、こっちも!」
「え?」
「はい、あーん!」
「自分で食べるって」
「いいから!」
「……」
レンは観念して口を開けた。
「どう?」
「うまいよ」
「でしょ!」
その隣で、レイラがサンドイッチを持ったまま固まっていた。
「……あの」
「ん?」
「私も、あーんしてみたいです」
「ぶっ!」
レンが吹き出しかけた。
「何を言ってるんだ!」
「ユナさんがしていたので」
「いや、これは幼馴染だから!」
ユナが慌てて説明する。
「幼馴染だから、あーんするんですか?」
「そうだよ!」
「なるほど……」
レイラは少し考え込む。
そして、レンの方を向いた。
「では、私も幼馴染になればいいんですね」
「どういう理屈だよ!」
ユナが思わず声を上げた。
レイラは首を傾げる。
「違うんですか?」
「違うよ!」
レンは頭を抱えた。
今日の昼食は、いつもよりずっと疲れそうだった。
⸻
放課後。
レンが帰ろうとすると、レイラが声をかけてきた。
「レンくん!」
「どうした?」
「一緒に帰りませんか?」
「いいけど」
その返事に、レイラの表情が明るくなる。
「本当ですか?」
「うん」
「ありがとうございます!」
そこへユナがやってくる。
「レン、帰ろう!」
「今、レイラと一緒に帰ることになった」
「え?」
ユナは一瞬だけ固まった。
「……私も一緒に帰る!」
「もちろんです!」
レイラは笑顔で答えた。
三人で校門を出る。
ユナはいつものようにレンの右側。
レイラは左側。
レンを挟むように歩いていた。
「レンくん」
レイラが呼ぶ。
「何?」
「明日も一緒に帰っていいですか?」
「明日も?」
「はい!」
「まあ、別にいいけど」
「やった!」
レイラは嬉しそうに笑った。
その横でユナが小さく頬を膨らませる。
「……レン」
「何?」
「明日は私と寄り道する約束だったよね?」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
「覚えてないな……」
「ひどい!」
ユナはレンの腕を引っ張った。
「明日は私と一緒!」
「分かった、分かった」
レイラはその様子を見ていた。
そして、少しだけ考える。
「では、明後日は私と一緒ですね」
「何でそうなるんだよ!」
二人の笑い声が響く。
レンはため息をついた。
けれど、不思議と嫌ではなかった。
⸻
その夜。
レイラはベッドの上で、今日の出来事を思い返していた。
レンの笑顔。
困ったような表情。
名前を呼んでくれた声。
どれも、頭から離れない。
「……やっぱり、好きなのかな」
小さく呟く。
初めて会ったはずなのに。
どうして、こんなにも気になるのだろう。
どうして、彼が笑うと嬉しくなるのだろう。
どうして、彼が誰かと楽しそうにしていると、少しだけ寂しくなるのだろう。
答えは分からない。
けれど、一つだけ確かなことがある。
「もっと、一緒にいたいな」
レイラは枕を抱きしめた。
「明日は、もっとお話ししよう」
そして、目を閉じる。
⸻
同じ頃。
レンの部屋。
ベッドに寝転がったレンは、今日の出来事を思い返していた。
幼馴染のユナ。
転校生のレイラ。
二人とも、どうしてあんなに自分に構うのだろう。
「……運命、か」
レイラの言葉を思い出す。
そのとき、ふと胸の奥が痛んだ。
誰かに、同じようなことを言われた気がする。
遠い昔。
あるいは、もっと最近。
思い出そうとする。
けれど、何も浮かばない。
「気のせいか」
レンは目を閉じた。
その頃、レイラの机の上には、今日書いた手帳が置かれていた。
『レンくんの好きな食べ物:カレー』
その横に、小さな文字が追加されている。
『明日も会いたい』
レイラはまだ知らない。
その感情が、かつて彼女自身が忘れてしまった何かと、深く結びついていることを。




