【第1章】「異世界で、最初に召喚したもの」
前作がデータ不足で新作を作ってしまったことを深くお詫びします。
私の作品は「連載 異世界に捨てられた少女たちと、何もない群島から始める文明開発〜無限魔力と地球召喚の力を手にした俺は、鉄道・工場・軍隊・巨大企業を築き、やがて世界最大の国家を作ることになりました〜」と題されていましたが、その代わりに新しい物語を作りました。私の愚かさをお詫びします (-̩̩̩-̩̩̩-̩̩̩-̩̩̩-̩̩̩___-̩̩̩-̩̩̩-̩̩̩-̩̩̩)
【第1章】「異世界で、最初に召喚したもの」
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その夜、最後の金属音が響いた。
カンッ!
朔臣は機械のパネルの中から手を引き抜き、ヘルメットに取り付けていた作業灯を消した。
「……よし。終わり」
返事はない。
聞こえるのは換気扇の音と、ゆっくり安定していく産業機械の低い駆動音だけだった。
数秒待つ。
1。
2。
3。
指示計の針が止まった。
警報はない。
異常な振動もない。
ベアリングから怪しい音がすることもない。
朔臣は息を吐いた。
「やっとか」
スマートフォンを見ると、時刻はとっくに遅い時間になっていた。
本来なら簡単なはずだった緊急メンテナンスは、ほぼ一式を点検する作業へと変わっていた。
機械が難しかったわけではない。
むしろ、問題なさそうに見える機械ほど厄介なものだ。
朔臣はパネルを閉じる。
「明日の朝また壊れてたら、知らないふりしよう」
作業用手袋を外す。
体が重い。
27年間生きてきたことで、朔臣には1つだけ単純なことが分かっていた。
人間には、仕事を止めなければならない時がある。
そうしなければ、最後には自分の体が強制的に止めてくる。
工具を片付ける。
スパナ。
マルチメーター。
ドライバー。
懐中電灯。
先ほど交換した小さな部品。
すべて元の場所へ戻す。
置き忘れはない。
朔臣は目の前の大型機械を見つめた。
「朝まで問題を起こすなよ」
もちろん、機械が答えることはない。
「……まあ、話し相手じゃないからな」
バッグを手に取り、外へ向かった。
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夜の空気が彼を迎えた。
建物の扉を開けた瞬間、冷たい空気が顔に触れる。
朔臣は少し立ち止まった。
顔を上げる。
暗い空。
遠くには街の明かりが見える。
明日も仕事がある。
明後日も。
たぶん来週も同じだ。
退屈な日常。
それでも、自分の仕事は嫌いではなかった。
壊れた機械には、人間とは違う1つの利点がある。
原因を見つければ、大抵の場合は問題を直せる。
朔臣はジャケットのポケットに手を入れた。
「帰って、風呂入って、コーヒー飲んで、寝る」
とても単純な予定だ。
車に乗り込む。
エンジンがかかる。
ヘッドライトが道を照らす。
朔臣はシートベルトを締めた。
ラジオが小さく流れ始める。
やがて車は工業地帯を離れていった。
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夜道は、それほど混んでいなかった。
何台かの車が通り過ぎる。
街灯が、目の前に長い線を描いていた。
朔臣は通常の速度で運転する。
次第に頭の中が空っぽになっていく。
機械の問題もない。
メンテナンス報告もない。
会議もない。
ただ帰るだけの道。
両手はハンドルに置かれたまま。
視線は道路へ向けられている。
その時――
向かい側から光が現れた。
明るすぎる。
近すぎる。
「……何――」
クラクションが鳴った。
タイヤがきしむ。
朔臣は反射的にブレーキを踏み込んだ。
体が前へ投げ出される。
「くそっ!」
すべてが1秒にも満たない時間の中で起きた。
衝突。
ガラスが砕ける音。
金属がひしゃげる音。
世界が回る。
そして――
暗闇。
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痛みはなかった。
それが、朔臣が最初に気づいたことだった。
音もない。
光もない。
体の重さもない。
そもそも、自分に体があるのかさえ分からない。
「……俺、死んだのか?」
返事はない。
動こうとする。
動けない。
目を開けようとする。
まぶたがない。
息をしようとする。
その必要もない。
奇妙だった。
朔臣は慌てなかった。
状況が怖くないからではない。
ただ、慌てるための情報がまだ足りなかった。
「これが夢なら、リアルすぎるな」
静寂。
「夢じゃないなら……」
そこで止まる。
口にしたくない結論が、頭に浮かんだ。
さっきの事故。
あの衝突。
最悪の可能性は、あまりにも明白だった。
「……やっぱり、死んだのか」
しばらく、何も起こらなかった。
やがて、白い光のようなものが現れる。
前からでもない。
後ろからでもない。
その光は、あらゆる場所から現れた。
朔臣の意識が引き伸ばされる。
痛みではない。
まるで、誰かが1つのファイルを別の場所へ移動させているような感覚だった。
「待て……なんだ、これ?」
光がさらに強くなる。
そして、すべてが途切れた。
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鳥の声。
それが、最初に聞こえた音だった。
「……」
朔臣は目を開ける。
空。
天井ではない。
本物の空だった。
木々の葉の隙間から、太陽の光が差し込んでいる。
すぐには動かなかった。
数秒かけて、ただ周囲を見つめる。
葉。
枝。
青い空。
やがて、水の音が聞こえてきた。
川だ。
朔臣は瞬きをする。
「……ここは、どこだ?」
体を起こそうとする。
体が軽い。
軽すぎる。
朔臣は自分の手を見る。
そして、黙り込んだ。
手が小さい。
指が短い。
腕も細い。
顔に触れる。
髭がない。
顎の形も違う。
朔臣はすぐに立ち上がった。
足元が少しふらつく。
「……待て」
もう一度、両手を見る。
「これ、俺の手じゃない」
ついに混乱が押し寄せた。
朔臣は川へ向かって走る。
澄んだ水面に、自分の顔が映った。
そこにいたのは、少年だった。
黒い髪。
幼い顔。
体つきは15歳ほど。
朔臣は長い間、動かなかった。
「……」
頬に触れる。
水面の少年も同じ動きをする。
「……マジかよ」
水を見る。
空を見る。
そして森を見る。
道はない。
電柱もない。
機械音もない。
建物もない。
飛行機もない。
人の声すら聞こえない。
朔臣は顔を拭った。
「これが冗談なら……」
息を吸う。
「……趣味が悪すぎる」
その瞬間――
グルル……。
朔臣の体が固まった。
音は木々の向こうから聞こえてきた。
鳥ではない。
風でもない。
何かが動いている。
枝が折れる。
パキッ。
朔臣は1歩後ろへ下がる。
もう1歩。
「……よし」
視線を周囲へ走らせる。
武器はない。
車もない。
電話もない。
道具もない。
あるのは自分だけだ。
「最優先は、自分がどこにいるのか確認すること」
足音が近づいてくる。
朔臣は振り返る。
「2番目……何かに食われないこと」
その瞬間、目の前に透明なウィンドウが現れた。
朔臣は足を止める。
「……何だ?」
音もなく文字が浮かび上がる。
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【WORLD SUMMON SYSTEM】
【EARTH ARCHIVE — ONLINE】
【USER: SAKAKIBARA SAKUOMI】
【MANA CAPACITY: ∞】
【ITEM BOX: UNLIMITED】
【LANGUAGE DATABASE: COMPLETE】
【SUMMON AUTHORITY: UNLOCKED】
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朔臣は動かなかった。
1度、すべてを読む。
そして、もう1度読む。
「……」
見間違いではない。
そのウィンドウは、本当に目の前に存在している。
手を伸ばす。
指が透明な表面を通り抜ける。
感触はない。
熱もない。
「システム?」
ウィンドウは答えない。
朔臣はもう1度試す。
「WORLD SUMMON SYSTEM?」
今度は、いくつかの文字が変化した。
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【COMMAND ACCEPTED】
【WORLD SUMMON SYSTEM】
【EARTH ARCHIVE】
【ACCESS AVAILABLE】
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朔臣はその文字を見つめる。
頭の中に、いくつもの可能性が浮かんだ。
技術。
食料。
道具。
乗り物。
機械。
だが、森の中から再び声が聞こえる。
グルル……。
「……後だ」
目を閉じる。
「死なずに済んでから考えよう」
朔臣はEarth Archiveを開いた。
カテゴリーが表示される。
食品。
飲料。
衣類。
道具。
乗り物。
建築。
エネルギー。
通信。
医療。
産業。
そして、さらに多くの項目。
朔臣はいくつかのカテゴリーを確認する。
その時、腹が鳴った。
「……」
腹を見る。
「よし。少なくとも最初の問題は簡単だ」
飲料を選択する。
検索画面が表示された。
朔臣は入力する。
Coca-Cola。
結果が表示された。
その中から1本の缶を選ぶ。
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【ITEM】
【Coca-Cola】
【SUMMON?】
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朔臣は選択する。
小さな光が手のひらに現れた。
1本の缶が手の中へ落ちてくる。
カラン。
朔臣はそれを見つめた。
缶は冷たい。
本当に冷たい。
表面には水滴が付着している。
缶を回す。
Coca-Colaのラベル。
「……本物だ」
蓋を開ける。
プシュッ。
朔臣は少しだけ口にする。
そして止まった。
「……」
もう1度飲む。
「……やっぱりCoca-Colaだ」
奇妙だ。
あまりにも奇妙だった。
それでも、馴染みのある味が、頭を少しだけ落ち着かせてくれた。
朔臣は川のそばに座る。
「よし」
缶を手にしたまま、呟く。
「ここが異世界なら……俺には、地球の物を召喚できるシステムがある」
缶を持ち上げる。
「それに、まだCoca-Colaも飲める」
朔臣は小さく頷いた。
「とりあえず、人生はそれほど悪くないな」
グルルルル……!
朔臣は缶を下ろした。
「……あれを除けばな」
再び唸り声が聞こえる。
今度は、はるかに近い。
朔臣は立ち上がった。
姿は見えない。
それでも、本能が1つのことを告げていた。
準備もせずに立っているな。
Earth Archiveを開く。
武器のカテゴリーが表示される。
銃器。
ナイフ。
弓。
防具。
朔臣は一覧を見る。
指が止まる。
そして、別のカテゴリーへ視線を移した。
Transportation。
開く。
画面いっぱいに車両の一覧が表示された。
乗用車。
トラック。
SUV。
バイク。
特殊車両。
朔臣はいくつかの名前を読む。
そして、その目が止まった。
Toyota Land Cruiser 300。
朔臣は黙り込む。
小さな笑みが浮かんだ。
「……まずは、移動手段だ」
その車両を選択する。
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【世界召喚システム】
【アイテム:トヨタ・ランドクルーザー300】
【召喚】
【目的地:アイテムボックス】
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朔臣は押す。
音はない。
大きな光もない。
車両はそのまま収納された。
朔臣はメニューを見つめる。
「アイテムボックスに入った」
アイテムボックスを開く。
無限に続く空間が、システムの中に広がっている。
ランドクルーザー300がそこにあった。
完全な状態で保存されている。
朔臣は頷く。
「やっぱりそうか」
もう少し開けた場所を探す。
背後の森は静かなままだ。
左手からは川の音が聞こえる。
川辺から離れ、より開けた地面へ向かって歩く。
そして、先ほどの車両を選択した。
「出ろ」
一瞬で、大型SUVが目の前に現れた。
爆発はない。
魔法のエフェクトもない。
ただ、現代の車両が、現代文明をまったく知らない森の中に突然現れた。
朔臣は周囲を回る。
ボンネットに触れた。
「……まだ新しい」
ドアを開ける。
中へ入る。
運転席に座る。
手がハンドルに触れた。
朔臣はしばらく黙っていた。
最後に馴染みのあるものに触れてから、ずいぶん時間が経った気がする。
スタートボタンを押す。
エンジンが始動する。
ヴルルルルル……。
V6エンジンの音が木々の間に響き渡る。
鳥たちが一斉に飛び立った。
葉が揺れる。
そして森の奥から――
グラァァァッ!
モンスターの声が響いた。
今度は、それに続いて走り去る足音まで聞こえた。
朔臣はフロントガラスの向こうを見る。
いくつもの影が木々の間を素早く移動している。
「……逃げた?」
小さく笑う。
「よし」
眉を上げる。
「こっちでもエンジン音は役に立つらしい」
だが、朔臣はすぐには車を走らせなかった。
むしろエンジンを切る。
周囲を観察する。
道はない。
地面は平らではない。
大きな木の根が地表から突き出している。
ここで無理に車を走らせれば、得られるものより車の損傷のほうが大きい。
息を吐く。
「道がないんじゃ、車を持ってても意味がないな」
車から降りる。
再びアイテムボックスを開く。
ランドクルーザー300を収納する。
「今はしまっておこう」
システムを閉じる。
この世界で目を覚ましてから初めて、朔臣は少しだけ落ち着きを取り戻した。
だが、その平穏は長く続かなかった。
別の場所から、草木の擦れる音が聞こえる。
朔臣が振り向く。
茂みの向こうから、1体の魔物が姿を現した。
その体は巨大な狼に似ていた。
暗い毛。
強靭な筋肉。
そして頭には、1本の角が生えている。
朔臣は動かなかった。
魔物が彼を見つめる。
牙が覗く。
グルルルル……。
「……さっきのは、お前か」
魔物が身を低くする。
朔臣はゆっくり後退した。
「名前は知らない」
その脚を見る。
体勢。
距離。
風向き。
手元に武器はない。
魔物が1歩進む。
朔臣は地面から石を拾った。
攻撃するためではない。
反応を見るためだ。
石を横へ投げる。
コツ。
魔物がそちらへ顔を向ける。
朔臣はすぐに反対方向へ動く。
魔物も向きを変える。
「速い」
息を吸う。
「それに、反応もいい」
魔物が飛びかかる。
朔臣は横へ跳ぶ。
魔物の爪が地面を叩く。
ドンッ!
土と葉が舞い上がる。
朔臣は転がり、立ち上がった。
「……1発でも食らったら、終わりかもしれないな」
魔物が振り返る。
朔臣はそれを見つめる。
顔に過度な恐怖はない。
あるのは計算だけだった。
距離。
速度。
攻撃のパターン。
待つ。
魔物が再び突進する。
朔臣は避ける。
今度は、さらに近い。
角が肩をかすめそうになる。
「2回目」
魔物が再び振り返る。
「攻撃は一直線か」
朔臣は背後の大きな木の幹を見る。
それから魔物を見る。
「それなら……」
走る。
魔物が追う。
朔臣は力で倒そうとはしない。
ただ、魔物を狭い場所へ誘い込んでいく。
1本の根。
1つの大きな石。
1本の木。
魔物が跳ぶ。
朔臣は最後の瞬間に振り返った。
魔物が足場を失う。
巨体が木の幹へ激突する。
ドンッ!
魔物が倒れた。
朔臣は待たない。
大きな石を拾う。
だが、魔物は再び立ち上がった。
「……頑丈だな」
朔臣は息を整える。
魔物が再び唸る。
突進の構えを取った。
その時――
朔臣の目の前に、薄い光が現れた。
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【ワールドシステム】
【モンスター確認】
【種族:角のあるオオカミ】
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朔臣は素早く読む。
「角のあるオオカミ……」
再び魔物を見る。
「そういう名前か」
追加情報が表示される。
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【生息地:ラスクヴェイルの森】
【脅威レベル:低〜中】
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朔臣は息を吐いた。
「低〜中か」
魔物の角を見る。
「これが低いほうなら……高いのはどんなやつなんだ」
角のあるオオカミが突進する。
朔臣は待つ。
1歩。
2歩。
魔物が近づいた瞬間、体を横へずらし、石で首元を打ちつける。
殺すには足りない。
だが、魔物の体勢を崩すには十分だった。
朔臣は魔物の勢いを利用する。
その体を押し離す。
Horned Wolfが倒れる。
今度は起き上がらない。
朔臣は数m離れた場所に立ったまま、待った。
10秒。
動かない。
息を吐く。
「……終わったか?」
返事はない。
朔臣は自分の手を見る。
それから魔物の体を見る。
自分が強くなったという感覚はない。
それでも、以前の人生と比べれば、体がはるかに軽く動く。
「15歳の体なのに、力が……」
拳を握る。
何かが違う。
マナ。
感じる。
とても多い。
むしろ、多すぎる。
まるで限界が存在しないようだった。
朔臣はシステムを開く。
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【マナ容量: ∞】
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文字を見つめる。
「……なるほどな」
システムを閉じる。
他の能力を試すことはしなかった。
まだだ。
1日目だけで、すでに驚くことが多すぎる。
先ほど川のそばに置いたCoca-Colaの缶を拾う。
それから水のほうへ歩いていった。
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太陽がゆっくりと移動する。
木々の影が長く伸びていく。
朔臣はエルヴァーン川に沿って歩きながら、より安全な場所を探した。
どれほど歩いたのかは分からない。
ただ、森が予想していたよりもはるかに広いことだけは分かった。
何度か、遠くから魔物の声が聞こえた。
すべてが近づいてくるわけではない。
鳥もいる。
虫の音もある。
茂みの間を何かが走る音もする。
朔臣は追わなかった。
ただ観察する。
やがて、地形が上り始めた。
朔臣は小さな丘を登る。
頂上で立ち止まった。
風が吹く。
木々の葉が揺れる。
そして初めて――
森ではないものが見えた。
はるか下に、1つの集落がある。
大きくはない。
だが、ただ家が無秩序に並んでいるわけではないことが分かる。
木製の柵。
石と木で造られた家々。
麦畑。
何頭かの馬。
ゆっくり進む荷車。
集落の一方には見張り塔が立っている。
そして、1本の旗が風にはためいていた。
朔臣は黙り込む。
しばらく、その光景を見つめた。
高層ビルはない。
アスファルトの道もない。
電気もない。
電線もない。
車もない。
ただ、はるか遠い時代から来たような暮らしがそこにあった。
「……」
システムを開く。
透明なウィンドウが現れる。
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【ワールドシステム】
【場所確認】
【惑星:ヴェルセラ】
【大陸:エルダリン】
【地域:南西辺境】
【王国:ヴァレルーン】
【技術レベル:中世】
【魔法:確認】
【モンスター活動量:高】
【人類文明:確認】
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朔臣は1行ずつ読む。
1度。
そして、もう1度。
視線が再び、眼下の集落へ向かう。
馬が荷車を引いている。
誰かが袋を抱えて歩いている。
いくつかの煙突から、細い煙が立ち上っている。
見張り塔には、1人の警備兵が立っている。
朔臣は長く息を吐いた。
「地球は、もう俺の居場所じゃない」
風が髪を通り抜ける。
ポケットに手を入れる。
そして、薄く笑った。
それは、途方もない力を手に入れた者の笑みではない。
長い間、答えを探し続けた末に、ようやく現実を受け入れた者のような笑みだった。
「……本当に異世界なんだな」
集落を見つめる。
まだ、降りてはいかない。
朔臣はただ丘の上に立ち、まったく知らない世界を眺めていた。
背後には、まだ理解できていない森がある。
眼下には、自分の存在をまだ知らない人々がいる。
そして、その手の中には――
地球文明全体の技術を、この世界へ持ち込むことができるシステムがある。
朔臣は、色を変え始めた空を見上げる。
「まずは……ここがどんな場所なのか知ることだ」
システムウィンドウを閉じる。
「それから、残りを考えよう」
ヴェルセラに、ゆっくりと夜が訪れる。
そして、その集落にいる誰一人として気づかないまま――
異世界から来た1人の少年が、最初の1歩を踏み出した。
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【次章 第2章――「車を出す前に、まず世界を知る」】
人間の集落を遠くから目にしたことで、朔臣は地球の技術を召喚できるからといって、何の代償もなく自由に使えるわけではないことに気づき始める。
初めて見つけた文明へ近づく前に、彼はこの世界の言語、衣服、通貨、法律、魔物、宗教、王国、そして人々の暮らし方を理解しなければならない。
そして、何より先に決めなければならないことが1つある。
この世界のことを理解するまで、住民に地球の技術を見せないこと。
【第2章へ続く……】




