あの教会にて
あの教会にて
内戦あるいは革命におけるニコラスとシャルージェの戦いが終わった。だから次は人として二人は向き合わなくてはならない。アレクサンドルとニコラスがそうした様に。
ニコラスもそれをわかっていたから開戦前、彼女にあの小さな教会でと手紙を送ったのである。
夏の始まりの6月、ニコラスは彼女との決着を付けるためラスアジィンニコが管理していたあの教会に向かった。
「随分と早いじゃないか、シャルージェ」
管理人がいなくなってボロボロになったままイコーナの前に彼女は立っていた。
「する事がなくなってちゃったからね」
シャルージェはニコラスの後ろに回り、教会の扉に閂を指して施錠した。
「どういうつもりだ?シャルージェ」
次に彼女は床の木材を一部剥がして、そしてその下に置かれた麻の袋を彼に見せた。
「ここを爆破するよ」
ニコラスとて大人である。先日18歳となったのだから。だから彼女のやろうとしていることなんてすぐにわかった。
「シャルージェ、君のそれは希望的観測に過ぎない」
シャルージェはこう考えていた。
私と魔王であるニコラスが心中することで、一撃革命論を支持する人達が蜂起してくれかもしれない。そうすれば二度目の革命が訪れて、真に分配される社会が訪れる。それでやっとこの冷たい大地を温める事ができるんだ。
「でも可能性はある。ならやらなくちゃ」
彼女はマッチ箱を取り出してマッチに火を付けた。
「どうしてそんなに死にたがるんだ?」
「死にたがるも何も、私は存在しない事こそが正常だと考えている。だってこの世に産まれてくる人の、いや苦痛を自覚できる生物の殆どは不幸だしね。そんな世界に産み落とす事っていうのは絶対的に悪い事だし、そんな悍ましい行為が普通の事であるとは到底私には思えない」
次に彼女は懐から水筒を取り出し、その中に入っていた油を浴びた。
「それは、善悪を隅において否定しなくてはならない。僕の、社会を維持する者の立場として。生物が産まれてこなければ今いる人間も不幸になってしまう。それに人も家畜も産まれてくるだろうから、どうしても」
彼はそう言った後、一歩前に出て彼女の瞳を強く見つめた。
「なぁ、そんなつまらない事を言いに来たんだとしたら僕は君に失望してしまう」
シャルージェは一瞬目を逸らした。彼はそれを見逃さず、両肩に手をおいてしっかり目を見ろと言わんばかりに強く見つめた。
「そう、そうだね。私は…私が嫌いだ。だからここで終わらせる。私の嫌いな私と、その私が愛した貴方終わらせて、それで終わりだ」
彼女は水筒の油をニコラスに掛けた。丁寧に目に入らな様に、あるいは司祭が塗油する様に油を塗ったのだ。
「それが、私の嫌いな私に対する私の一番の復讐になると思うから」
「ならばそうするといい。君と僕を殺して心中すれば良い」
かつて自分の言われた言葉を彼女に返した。死ねと言ったのだ。何故ならそれが正しいと思っていたのだから。
「でも最期にこれだけは教えてくれ。どうして君は自分を嫌っているんだ」
落ちたマッチが松の床を燃やした。二人はバチバチと妙に落ち着く音と暖かな熱を感じていた。
「母親のせいかな、いや、それだけを理由にするのは卑怯か。多分、私は女の、野生的な私があまりにも自分勝手で嫌いなんだと思う。結局あの女は理性的である私を損なうだけのものでしかなかったから」
「わからないな。君の野生的な部分も理性的な部分も、全て君の一側面に過ぎない。それは僕だってそう思う。そうでなければ自分で自分の犯した罪を受け止める事は出来ないと思うから」
「そう、ありがとう。私の全部を愛してくれて。でもこれで終わりだから。貴方はなんか最期に言っておきたいこととかある?」
最期に、彼はその言葉聞いたとき自分が人を殺したあのときを思い返した。いや、その時だけではない、自分が魔王として攻勢を命令した時、死ねと命令した時の全ての瞬間を思い返していた。
「一つ思った事がある。僕も君も人殺しだ。沢山の人間を間接的に、あるいは直接殺した。到底、人間が贖える罪ではない。でも罪があるのなら相応の罰を受けるべきなのは変わらないと思う。しかしこんな終わりが、僕らの罪に対する相応の罰になるだろうか」
火が大きく燃え広がり、床も壁も燃やす。イコーナが全て焼け落ちた時、床の底にあった麻の袋に火がついた。
「それに俺は君に死んでほしくないんだ」
いつのまにか彼は彼女を強く抱きしめて地に伏せていた。
鼓膜を突き破る音、皮膚を焼き溶かす熱、それらが教会を包んだ。
あと四話とかそんくらいかな?で終わります




