第二十一話
シーランとコーランに親子の鑑定を行う旨を伝える日がやって来た。
時間は昼食後、場所は、二人の客室を指定した。
いつものようにロイと執事長を伴い、セオドア含む三名の護衛を控えさせ席に着く。
「なにか進展が御座いましたか?伯爵」
そう聞いてきた殿下に似ているシーランの顔を見ていると変な気分になる。
なんせ、本当に王太子殿下と瓜二つなので、殿下に敬語を使わせているようでなんとも言えないのである。だが、髪の色が違うことで、この眼の前にいる男はシーランだ、と認識を深め、気分を立て直す。
「ええ、実は、シーラン殿と陛下が親子であるか――確実に判明する方法が見つかりまして」
どう反応する?
僅かな表情の変化も見逃さないように警戒していると、一拍置いてシーランは表情を変えた。
「それは有り難い事です。やっと父‥‥いえ、陛下に息子だと認めて頂ける」
それはそれは晴れやかな笑顔で、私の方が動揺が表情に出てしまうところだった。
まさか、そんなに自信があるとは思わなかった。隣国は、何だかの手段で既に正確な親子鑑定の手段を持ち合わせているのかもしれないと言う疑惑が生じる。
「それで、それはいつ頃行われますか?」
「準備が整い次第ですが、一月は掛からないでしょう」
「そうですか。その日が待ち遠しいです」
その後、生活に不便はないかなど、当たり障りない話をいくつかし、早々に部屋を出る。
私含め、複数の影を客室の各所に配置して。
元々、我が家の客室は全て、影を忍ばせやすいように、華美になりすぎない程度に凹凸の多く影の多い装飾を部屋全体に緻密に設計してある。
セオドアともう一名を客室前に護衛として残し、セオドアに確認の目配せをし傾き合う。
執務室へ戻る道すがら、まだ例の特能は使用されることなく、シーランとコーランが話をし始めた。
『親子であるとわかる確実な方法があるとは驚きですが、良かったですね』
『ああ、良かったよ。どんな方法かわからないが、楽しみだ』
『そうですね。お母様もこれで浮かばれますね』
『‥‥ああ、そうだね。母の無念も晴らされるだろう』
影を通し共有した視覚情報の先に、二人の表情を確認するが、先程の場とは違い、コーランの方が喜んでいるように見えた。シーランの後ろで表情を変えずに控えていたから尚更そう見える。
逆に、シーランは、笑顔だが、先程よりも表情が薄い。
この違いは、何を示しているのか‥‥。
それからずっと、交代で影で見張るが、これと言った情報を新たに得ることはなく、一番警戒していた夜になった。
影が弾かれた、と言う一報が入る。
予想通りなので、後はセオドアに任せ、彼の帰りを執務室で仕事を行いながらひたすら待つ。
半刻もしない内に、特能が解かれた――つまり、影が再侵入できた、と言う知らせが入り、そこからまた半刻程してセオドアが戻ってきた。
「旦那様、報告致します」
「ああ、どうだった?」
「それが、あれは特能ではなく血縁魔法でした」
「まさか?!では‥‥と言うことは‥‥、その血縁魔法を使ったのは当主と言うことか」
予想外の報告だったが、それより、その可能性を考えていなかった自分の失態に悔しさが込み上げる。
私の影を弾いたと言うことは、特能以外であれば、血縁魔法の当主と言う事。それも、分け与える血族の数が私よりも少ない。
「ええ、そうなりますね」
「で、使われた血縁魔法はどんなもので、使ったのはどちらかわかったか?」
「ええ、まずは‥‥使われた血縁魔法ですが、ある種の結界が構成されていました。その効果は、簡単に言うと、光や物体は通しますが、魔法や空気を通さないものなようです」
「魔法攻撃は効かないが、物理攻撃は効く、と言うことか」
「ええ。それで影も弾かれるようです。あと、音は空気を伝いますからね。そのせいで声も漏れないようです。ですが、最大の欠点は、この“空気を通さない”と言う点で、長時間結界内にいれば、空気が薄くなり気絶、そして最後は窒息するでしょう」
「なるほど。なら、長時間は使えないのか‥‥。で、どちらが使った?」
「それが‥‥シーランのようです」
「シーランが?‥‥当主?と言う事は、母親である元令嬢から引き継いだ‥‥?いや、あの家は血縁魔法はなかったはず‥‥。ロイ、そうだよな?」
陛下は王族の受け継ぐ血縁魔法の当主だ。勿論、仮に本当の親子であったとしても、シーランに当主を継承しているわけもないので、可能性は母親である元令嬢の血筋だが‥‥。
「はい、没落したあの家は、何も血縁魔法を有していません。世代を遡ってもそのような記憶はなかったのを確認しています」
「では、何故‥‥。何かが可怪しい。なのに、二人のあの余裕は何なのだ?」
悪い予感と、理屈の通らない不気味さに、執務室にいる誰もが、しばらく言葉を見つけられずにいたのだった。
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