おっさん、犯人に近付く
6月11日 更新1回目
「なんで……と言われると、説明が長くなるんだが……」
おっさんも、そしてルドルフも。
まさか知った顔と出会うことは想定外だったのだろう。
互いに窺うように相手の言葉を待ってしまう。
その間、周囲を照らすようにぷかぷかと小さな光球が二つこの場を漂う。
おっさんが見た光の正体はこれだった。
ルドルフは光の魔術で周囲を照らしながら、ここまで歩いてきたのだろう。
『勇者様……どうしてここに司教さんがいるのでしょうか?』
『いや、俺が聞きたいわ』
こんな状況で出会ったのだ。
聞きたいことが色々ありすぎた。
どうやってここに来た?
ここはどこか知っているか?
まさか司教が人攫いなのか?
様々な考えがおっさんの頭の中を駆け巡る。
「お~い、アンクルの旦那~!
待ってくれ――あだっ!?
こ、こっちは暗くて何も見えねえんだよぅ~!」」
背後から声が響いた。
そしてバタバタと足音が近付いてくる。
「……他にも人が……!?」
「ああ。
どういうわけかこんなところに飛ばされてしまってな」
「飛ばされた……?
どういうことですか?」
司教ルドルフが尋ねた。
その表情には、明らかな戸惑いが浮かんでいる。
少なくとも惚けているようには見えない。
「あ、旦那!
やっと追いついたぜ……」
考えている間に、ザケルたちがおっさんに追いついた。
そして司教を見て、
「――って、人!?
まさかこいつが犯人……!?」
「てめぇ~があの時の依頼人か!」
「よくもおれらをハメやがったな!!」
口々に怒りをぶちまけた。
まぁ、こんな状況で自分たち以外の人を見たら、犯人だと思い込みたくなるのもわからなくはないが。
「は、犯人……?
ど、どういうことです……?」
ルドルフの顔には強い戸惑いが浮かんだ。
『勇者様。
司教さんは犯人なのでしょうか?』
『どうだろうな……』
あまり腹の探り合いはしたくないが。
「……ルドルフ司教、あんたはここがどこか知ってるか?」
「いえ……。
ここを見つけたのは、私も本当に偶然で……。
ただ、人攫いがここに逃げ込んだようで追ってきたのですが……」
「なんだと……?」
人攫いがここに……?
「テメェが実は犯人なんじゃねえのかっ!」
「……猜疑心に囚われる気持ちは理解します。
正直なところ、私も同様の考えがないわけではありません」
ザケルの目を見て、司教ははっきりと答えた。
疑われるのは当然だ。
そしてお互い様でもある。
「だな。
疑うなというのは無理がある」
「ええ、その上で提案です。
互いに持っている情報を交換しませんか?」
司教は、最初から疑い合っているのなら、腹の探り合いをしても仕方ない。
そう言いたいのだろう。
「だ、旦那……どうしますかい?」
「確かにこの状況なら……」
「協力するのも手じゃ……」
ザケルたちがおっさんの言葉を待つ。
だが、おっさんの答えは決まっていた。
「わかった」
そしておっさんたちと司教は、互いに持っている情報を交換した。
※
「礼拝堂の祭壇の下に隠し階段……?」
「転移の魔法道具ですか……?」
交わした情報は、互いにとって信じがたい話ではあった。
だがそれは、嘘を吐くなら互いにもっとまともな嘘があるだろう。
そう思えるからこそ、信じる価値はあると思えた。
「いやぁ、しっかし。
出口があるってだけで安心したぜ」
「だな……。
一時はどうなることかと思った……」
ウェルトとグラニーは言葉のまま、ほっとした顔を見せる。
「あなた方は直ぐにここを離れてください。
危険があるかもしれませんから」
そうは言うが。
「実際に攫われた子供がいるんだよな?」
「……情報提供者である少年の話が事実であれば」
先程の情報交換で、司教自身がその男の姿を目撃したわけではないことは聞いている
だが、
「司教は信じてるんだろ?」
「……はい。
この地下階段が見つかったことが、何よりの証拠だと思っています」
教会で見つかった謎の地下への階段。
そしてどこまでも続くこの通路――。
こんな大規模な物まで用意して犯行に及んでいるのだとしたら、犯人はどれほどの権力や力を持っているのだろうか?
そもそも、そんな権力を持っている者などこの世界には限られているはずだ。
「……なぁ、ルドルフ司教。
ここが教会の地下にあるってことはさ。
この地下通路を作ったのは、教団関係者って可能性はないか?」
「……それは……。
信じがたいことではありますが……」
司教は重々しい表情を見せた後、
「……子供を攫っている犯人が、教会の関係者って可能性もあるわけだ」
おっさんの言葉に静かに頷いたのだった。




