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暗闇を切り裂く願い

5月29日 更新1回目

          ※




 ソニアの世界は今、暗闇に包まれていた。


(……ここは)


 意識だけは宙を漂うように存在している。

 身体は自分の身体ではないみたいに重い。

 全身が冷たくなっていくのがわかった。

 随分と懐かしい――というにはおかしいが、これは以前にも感じたことがある。

 死の感覚だった。


(……私は……――!?)


 なぜこんなところに? と考えた途端。

 ソニアの頭の中に、直前の状況が駆け巡った。


(――リリス!!)


 そうだ。

 リリスが攫われたのだ。


(……起きなくちゃ……リリスを助けなくちゃ……)


 こんなところで、倒れていられない。

 真っ暗闇の中、動け動けとソニアは願う。

 だが、身体の感覚すらなく、自分が今どうなっているかもわからない。

 それでも、


(……リリス、私が絶対に助けてあげるから……!)


 きっとリリスは今も、怖い思いをしている。

 そんなこと許せない。

 許せるわけがない。

 あの男――もしリリスを泣かせたりしたら、


(……絶対、私が、ぶっ飛ばしてやる!)


 ソニアは、リリスにはいつも笑っていてほしいと願っている。

 これは自分の我儘かもしれない。

 人は生きていくだけでも、それなりに辛いものだ。

 楽しいことよりも、辛いことの方が多い。

 それでも自分の娘には辛い想いよりも、楽しい想いをいっぱい感じてほしい。

 生まれてきて良かったと思える人生を送ってほしい。

 心の底からそう願っているのだ。

 だから、


(……こんなところで死んでられない!)


 もしここで自分が死んだら。

 リリスとソニアの最後の想い出は、最低最悪なものになってしまう。

 そんなこと許せるはずがない。

 もしここで終わりなら、蘇られないほうがよっぽどマシだった。

 自分に蘇った意味があるのなら、それはリリスの心に、悲しい想い出を刻む為のわけがない。


(……早く起きろ私!

 こんなところで死んでんじゃない!

 私の愛する娘がピンチなのよ!)


 闇に包まれた世界で、ソニアは叫び続ける。


(……死んでる場合じゃないのよ!)


 娘がピンチなのだ。

 殺された程度で、諦めている場合じゃない。

 ソニアは母親なのだ。

 世界一、娘(リリス)を愛している母親なのだ。


(……死ぬんだったらせめて――)


 溢れんばかりの想いを込めた大絶叫。

 その想いは、願いは――娘への想いは、


(――リリスを助けてから死になさいよ、わたしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!)


 希望という名の光となり、世界を覆っていた闇を切り裂いた。




            ※




 闇が掻き消え、視界は光に覆われ、意識が覚醒する。


「!?」


 同時に、ソニアをバッと大慌てで身体を起こした。


「……生きてる!?」


 身体は血まみれだった。

 地面には水たまりのように、血溜まりが出来ている。

 流した血の量からするに、

 誰がどう見ても、死んでいてもおかしくない重症だが。


「傷が……」


 既に傷は塞がっていた。

 誰かが治療してくれたのだろうか?

 それとも意識が途絶える直前、自分が治癒魔術を使って傷を治したのか?

 不思議に思ったが、


「リリスを、助けに行かなくちゃ――」


 重くけだるい身体。

 だが、そんなのはどうでもいいとソニアは立ち上がる。


「直ぐにお母さんが、助けるから……!」


 ソニアは走り出す。

 攫われた娘を救う為に。

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