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ザケル、唱える。

5月28日 更新1回目。

「よう」

「……」


 おっさんとザケルの目があった。

 なんで、お前が、ここにいる。

 真っ青になったザケルの顔が、そう訴えている。


「まさか本当に、お前が真犯人だなんてなぁ……」

「なななななな何を言ってやがる!?」

「そうかそうか。

 惚(とぼ)けるのか。

 だがな、こいつらの顔に見覚えがあるだろ?」


 その言葉で、ザケルは冒険者たちに顔を向けたが、


「だ、誰だこいつらは?」


 正直に答えるつもりはないようだ。


「噂の人攫いはお前なんだろ?」

「ひ、人攫い?

 なんだそりゃ?」


 おっさんから目を逸らすザケル。

 汗をだらだら垂らしている。

 もう自分が犯人ですと言わんばかりだった。


『ふふふっ。

 惚けても無駄ですよ!

 こちらにはミーアさんがいるのですから!』


 カティはおっさんの肩の上に立ち、人差し指をビシッとザケルに向ける。

 すると、ザケルの視線がミーアに向いた。

 ちなみにカティの声が聞こえているわけではないはずだが。


「……」


 ザケルが窺うようにミーアの顔を見る。

 何か悪巧みを考えているのだろうか?


「この女を人質に逃げられないか?

 と、あなたは考えていますね」

「!?」


 心中を見事に当てられて、ザケルは目を引ん剥き口をあんぐりさせた。

 半端じゃないくらい驚愕しているようだ。


『勇者様、ビビッてますよ!

 この悪人顔の人、とてもビビってます!』

『お前、なんだか性格悪くなってないか?』

『なーーーー!

 なってませんよ!

 ただ、子供を攫う悪い人に優しくするつもりがないだけです!』

『あーわかった。

 だから耳元で叫ぶな』


 カティの言うことも最もだ。

 子供というのは親にとって宝物だ。

 おっさんだって、もし自分の子供が――リリスが攫われたりしたら、その相手にはまず間違いなく容赦しないだろう。

 それに攫われた子供たちだって、きっと不安に思っているはずだ。

 今にも泣きだしたいくらい、心細い気持ちを抱えているはずだ。


「子供たちをどこにやった?」

「だ、だから知らねえって言ってんだろっ!

 そもそも、そこにいる奴らだって、オレは知らねえぞ!」


 どうあっても、本当のことは話すつもりはないらしい。


「お、おじさん!

 うそいったってダメだよ!

 おかあさんがいれば、すぐにわかっちゃうんだから!」


 狼耳(みみ)と尻尾の毛を逆立ててリルムが言った。


「だから知らねえって……あん?

 テメェー、あの時のガキじゃねえかっ!」

「だ、だったらなに……?」

「あの時はよくもオレの薪を……!」

「いや、俺の薪だからな」

「っ……」


 おっさんの言葉に、ザケルは歯を噛み締めた。


「おじさん、わるいこといっぱいしてるなら、はんせいして!」

「しつこいんだよ!

 確かにオレは生きる為に盗みもやったが、人攫いなんてしちゃいねえ!

 んなことがバレてみろっ!

 最悪は死刑になっちまう!」


 リルムもカティも、そしておっさんも、ザケルは嘘を吐いてると思っている。

 だが、


「……おかしいです」


 ミーアが重々しい声を漏らす。


「どうしたんだ?」

「……この人は、嘘は言っていないみたいです」

「は……?」

『ど、どういうことですか、ミーアさん!?』


 驚愕したカティが、慌ててミーアに詰め寄る。


「わかりません……。

 ですが、ザケルは本当に二人に会ったことがないようです」

「……だが、ミーア。

 この冒険者たちは、ザケルに指示されんじゃないのか?」


 事実、ここにザケルはいた。


「はい……。

 それも間違いありません。

 そして、どちらも嘘は吐いていないようです」


 そう言うと、ミーアはザケルの目を直視した。

 そして、ザケルの心を見透かすように、


「……なるほど。

 あなたはここにいろと命じられたんですね」

「な、なんであんた、そんなことまでわかるんだ!?」


 どうやら正解らしい。


「その方の名前も知らない。

 そうですね」

「……」


 ザケルは何も答えない。

 だが無言は肯定の証だろう。

 ミーアは続いて冒険者たちに目を向ける。


「あなたたちにザケルと名乗った男は、この人でしたか?」

「……そ、それは……」

「やはり……違うのですね」


 答えに躊躇する冒険者たちであったが、ミーアはすかさず心を読んだようだ。

 もし、彼らの言葉に嘘がないのなら。


「……ザケルの名前を語った第三者がいるのか?」

「はい……。

 恐らく……彼らに罪を着せようとしているのではないでしょうか?」

「なっ!?

 なんだそりゃ!?

 お、オレはただ、牢屋から出す代わりに言うことを聞けと言われて――。

 ただ、この場所に二人組の冒険者が来たら、これを使えと言われただけで……」


 ザケルの手には何かが握られていた。

 それは、赤いルビーのような宝石だった。


『これは……。

 勇者様、その宝石――魔法道具(マジックアイテム)のようです』

『魔法道具(マジックアイテム)?』

『はい。

 なんの魔法が封じ込められているのかはわかりませんが……』


 しかし、冒険者たちが来たら使えと言われていたのは気になる。


「それを使うと何が起こるんだ?」

「わからねえ。

 ただ――封じ込められた力を使う為の呪文は聞かされててな。

「呪文?」

「ああ。

 確か……――我が地――我が為――」


 何気ないやり取りの中、思い出すようにザケルが呪文を唱え始めた。

 直後、


『!?

 ま、待ってください!』


 カティは何かに焦ったように、大慌てで叫んだ。

 が、その声は届かず。


「祝祭の地に至れり」


 宝石が輝きだした。

 呪文を唱えたことで、魔法道具(マジックアイテム)に封じ込められた魔法は発動したのだ。

 そして――次の瞬間には、おっさんたちの姿がこの場から消え去っていた。

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
もしよろしければ、ご一読ください。
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