おっさん、思い出す。
5月22日 更新1回目
「ザケルという名前のようです」
「なっ!?
どうしてそれが!?」
「オレたちはあの男の名前は一度も……」
信じられないという面持ちで、冒険者たちはミーアに目を向けた。
この様子からするに嘘は吐いていないようだ。
『うん?
ザケル……?』
不意にカティが声を上げた。
その名前が引っ掛かったようだ。
『どうかしたのか?』
『なんだか聞き覚えがあるような……』
『なんだ?
お前の知り合いか?』
『ちょ!?
勇者様!?
私の知人に人攫いなんているわけないじゃないですかっ!
そもそも、妖精はそんなあくどいことしませんから!』
『誰も妖精の知り合いとは言っていないだろ……。
以前の冒険で出会った人とか』
『以前の冒険がどれだけ昔だと思ってるんです?』
そんなこと知らん。と、おっさんは思った。
だが、昔の知り合いでないなら最近の知人ということだろうか?
しかしそうなるとカティの知人など指で数えられる程度だろう。
『う~ん、思い出せません』
唸りながら考えるカティ。
ちなみに、おっさんはすっかり忘れているようだが。
実は彼も、ザケルという男には会っていた。
どこで出会っていたかというと、
「ザケル……?」
今度はリルムがその男の名前を口にした。
カティと同様に、その声音には戸惑いのようなものが混じっている。
「リルム、どうかしたのか?」
「ししょう……ザケルって、あたしとまきをとりあっていたひとじゃ?」
「薪を?」
「はい。
ししょうがあたしをたすけてくれたときに、おそいかかってきたひとです!」
おっさんは、リルムと出会った時のことを振り返る。
スキンヘッドの男から、必死に薪を守ろうとしていたリルムの姿は、今でも鮮明に思い出せた。
『あ!
そうです勇者様!
あの時の男です!
間違いなくザケルと名乗っていました!』
『あ、そうなのか?
めちゃくちゃ喚いていたのは覚えてるんだが……』
ザケルの名前をすっかり忘れていたおっさんであった
『だが、あの男は衛兵に連れて行かれてたよな?』
『そのはずですが……逃亡したのでしょうか?』
牢屋に入れられて、それほど簡単に逃げ出せるのだろうか?
「お前たちの依頼人はスキンヘッドだったか?」
「はっ、そんなこと言うわけ――」
「……スキンヘッドの男で間違いないようです」
惚けようとする冒険者の代わりに、ミーアが答えてくれた。
彼女の技能の前では、嘘を吐くことは不可能に近いようだ。
「なるほど。
特徴も一致しているか」
どうやら、本当にザケルで間違いないようだ。
それにしても、なぜ人攫いを?
単純に金の為なのだろうか?
だがそれなら、わざわざ教団の子供を狙っていた理由がわからない。
「ザケルはどこにいる?」
何にしても、あの男を捕まえた方が早いと、おっさんは判断した。
「……」
「……」
無言を貫く冒険者たち。
これ以上は余計なことを言うものか。
そんな意志が伝わってくる。
しかし、その行為は無駄に終わった。
「……なるほど。
町の端――家並みの途絶えた場所に、ザケルの隠れ家があるのですね」
「!?
あ、あんたは魔女か何かか?」
「なんでオレたちの心が読める!?」
全てを見抜かれ、動揺を隠せない二人に。
「私はただの母親です」
ミーアは品のある微笑を浮かべながら、平然と答えた。
そんなただの母親に、彼らはぽっかりと口を開き、ただただ唖然としている。
この冒険者たちのそもそもの失敗は、ミーアと出会ってしまったことだろう。
彼女に出会わなければ、ザケルの依頼を達成できていたかもしれないのに。
『ミーアさんの技能は希少ですね!
勇者様が彼女とお近付きになったのは運命に違いありません!
是非、魔王討伐の際はパーティに!!』
妖精カティは興奮気味に口を開いた。
確かに彼女の力はあらゆる局面で役立つことだろう。
それはおっさんも認めるが。
『そうか。
いつかいいパーティが出来るといいな』
『なんで他人事なんですか!』
他人事で当然だろう。
何度も言うが、おっさんは魔王討伐などする気がないのだ。
だが、それを口にするとカティが煩いので。
『カティ、魔王討伐よりも今は人攫いを捕まえることが大切だろ?』
おっさんは話を変えた。
『おお!
その通りです、勇者様!
身近な悪を放っておくわけにはいきません!』
正義感の強いカティは、おっさんの予想通りの反応を示す。
「よし。
じゃあ町外れに向かってみるか。
お前らにも付いて来てもらうぞ。
ミーアとリルムは……」
「……私も、お力になれることがあるかもしれません」
「あ、あたしも、なにかできることがあれば……」
ミーアとリルムの気持ちはありがたい。
だが……。
「二人も、町までは一緒に行こう。
ここにいては、また別の冒険者に襲われる可能性もあるだろうからな。
俺が隠れ家に行っている間は、ミランダさんの酒場に避難させてもらうといい」
この母娘を危険に晒すわけにはいかない。
そう考えたおっさんは一人でザケルの隠れ家に向かうことを決めた。
「……わかりました。
戦いになれば、足手まといになってしまうかもしれませんものね。
ですが隠れ家を見つけるまでは同行させてください」
ミーアは自分の能力を正しく理解している。
だからこそ、無理をするようなことはないだろう。
「わかった。
助かる」
「し、ししょう!
あたしもてつだえます!
ウェアウルフは、みみとはながヒューマンよりいいんです!
だから、さがしものとか、とくいです!」
自分も手伝えることがある。
と、必死におっさんにアピールする弟子の姿は、なんとも可愛らしかった。
「リルム。
俺たちから離れるなよ。
それと、絶対に無理はするな」
「はい!」
自分の弟子がしっかりと頷くのを確認して。
「よし!
それじゃあ移動開始だ!」
おっさんは魔法を使い、町外れまで移動したのだった。




