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正義感

本日更新2回目

 人々の視線がソニアに集まる。


「証拠もないのに、相手を疑って、決めつけて!

 もしこれが冤罪だったら、あなたたちは責任が取れるの!」


 だが、彼女は衆目をまるで気にしていないようだ。

 堂々とした佇まいで、司祭たちと向かい合うソニアを見て、おっさんは思い出していた。

 結婚し子供が生まれ、すっかり大人しくなっていたが。

 ソニア・フレイルという女性は――元々、とんでもない正義感の持ち主なのだ。

 相手が無関係――それが全く見ず知らずの相手だろうと、こんな理不尽を見過ごせるはずがなかった。




『勇者様、ソニアさんが!?』

『見りゃわかる』


 おっさんは大慌てで、ソニアと司祭たちの間に割って入る。


「ちょっと待ってくれ」

「あなた……」

「……!?」


 おっさんの姿を見て、フェブルの犬耳(みみ)がピクッと揺れた。


「あ、あなたも、我々の邪魔をするのですか!?

 それとも、この貧民街の男たちの関係者ですか?」

「い、いきなり話に割り込んで無礼ではないですか!」

「無礼?

 立場を利用して、子供たちに冤罪を掛けようとしているあなたたちに言われたくはないわ!」


 おっさんの妻が、ビシッとフェブルたちを指さす。

 喰って掛かるように捲し立てるソニアの勢いに、司祭たちは戸惑いの表情を浮かべた。

「待ってくれ。

 そいつらは、俺の知り合いだ」

「知り合い?

 あなたも貧民街の者ということですか?」

「違う。

 俺は樵(きこり)だ」

「樵……?」


 渦中の三人組はポカンと口を開いた。

 樵がなんのようだ?

 と、でも言いたそうだ。


「あんたたちはさ。

 こいつらが、子供たちを誘拐したのを見たのか?」

「実際に目撃はしていません。

 ですが、正門の辺りをうろうろとして。

 何かを窺っていたというか……」

「そんな不審な行動を、貧民街出身の男がしていたのです!


 司祭たちが口々に、自らの行動の正当性を説明しようとする。

 だが、フェブルたちを犯人だと証明する明確な証言は出てこない。

 結局、彼らの言っていることは。

 貧民街という出自を理由に、言い掛かりを付けている。

 それだけだった。


「どれも証拠にはならないじゃない」


 ソニアは司祭たちを一蹴した。


「もしかしたら、あなたたちの中にも、子供を攫われた人がいるのかもしれない。

 私にも娘がいるから、どれだけ心配か、その気持ちはわかるつもりよ。

 もしも私が同じ立場だったら、気が気でないもの。

 一秒だって立ち止まってなんていられない。

 今すぐにだって、どこまでだって探し回って、見つけてあげなくちゃって思うわ」


 相手がアーリアラ教団の司祭であっても、全く怯むことはない。


「だけどね。

 それと、罪のない人に罪を擦り付けるのは別よ」

「……それは……」

「あんたたちだって、偽の犯人を捕まえるのは本意じゃないだろ?

 一度冷静になってみてくれないか?」


 教団の司祭たちも、焦燥感は自覚しているのだろう。

 そして徐々に冷静さを取り戻したのか、言葉を詰まらせていた。


「――その方のおっしゃる通りです」


 この場にいた者たちが、一斉に目を向けた。

 声の主は初老の男だった。

 司祭たちと似た清潔感のある白い服で身を固めているが。

 他と違い頭に大層な被り物と、錫杖のような物を持っている。


「し、司教様!?」


 騒めきながらも司祭たちがその場に跪いた。

 司祭だけではない。

 町にいたアーリアラ教の信徒たちも、一斉に跪く。

 司教――ということは、この辺りのアーリアラ教団の司祭たちをまとめているお偉いさんようだ。


「皆、顔を上げてください」


 言われるまま、言葉に従い信徒たちは顔を上げる。


「他者に猜疑心を持ってしまった気持ちは理解できます。

 ですが、この者が犯人だという証拠が何もないのもまた事実」

「……ですが……」

「どんな時にも、神は見ています。

 苦行を強いられた時こそ、正しい眼差しで前を見つめ、善行を選ばねばならないのです。

 あなたは自分の行いを正しいと言い切れますか?」


 その言葉に、司祭たちの膝が崩れた。


「……申し訳ありません。

 我々は……」

「わたしに謝罪をする必要はありません」


 言われて、司祭たちは三人組に顔を向けて。


「すまなかった……」


 頑なな態度を崩し、謝罪を述べた。


「どうか、これで許してはいただけませんか?

 この者たちも、子を攫われ気が気でないのです」

「い、いや……わかってくれたなら、おれたちは……」

「そうですか。

 その広き心に感謝いたします。

 あなたに神のご加護を」


 司教が訪れたことで、フェブルたちの冤罪は完全に晴れたようだった。


「あなた方にもご迷惑をおかけしたようで」

「いや……誤解が解けて何よりだ」

「そうね。

 あの、司教様。

 こちらこそ司祭様たちに無礼な発言をいたしました。

 どうかお許しください」

「許すも何も。

 罪なき者を罰せずに済んだ。

 わたしたちが感謝することはあれど、あなたが謝罪をする必要はありませんよ」


 アーリアラ教団の司教を務めているだけはあり。

 彼は人間的にも非常に優れた人物のようだ。


「罰せられるべき罪人は必ず捉えます。

 町の衛兵たちは勿論ですが、既に冒険者ギルドに依頼を出しました。

 犯人には多額の賞金を懸けています」


 冒険者にまで依頼を出したのか。

 アーリアラ教団の怒りが窺えるな。


「この町の住民もアーリアラの信徒は少なくありません。

 だからこそ、早急に犯人を捕まえねばなりません。

 何よりわたしは、連れ去れた子供たちを一刻も早く助けたいのです」


 真摯に語る司教。

 その想いに、信徒たちは胸を打たれたようだ。

 だが、おっさんもソニアも娘がいる身として、子供が攫われた親が想像を絶する苦痛を感じていることは容易に想像できた。


「その子は、あなたの娘さんですか?」


 司教の目が、おっさんにおぶられるリリスに向いた。


「ああ、そうだ」

「……そうですか。

 お名前は?」


 リリスの目を見て、初老の男は温かい微笑みを浮かべる。


「リリスだよ!

 おじちゃんは?」

「名乗っていませんでしたね。

 私はルドルフと言います」

「ルドルフさんか」


 おっさんが、司教の名を口にする。

 だが、


「あら?

 確かこの町の司教様の名前は――」


 だが、司教の名にソニアは違和感を覚えたようだ。


「実はこの町に来てから、まだそれほど日が経っていないのです。

 先日、アーリアラ神殿の大司教様からの命令を受け、司教の任を交代したばかりでして」

「そうでしたか」


 世間のことに疎いおっさんは、前司教の名前は勿論、司教が代わったことすら知らなかった。


「それでは、申し訳ありませんが、わたしはこれで。

 皆さん、行きましょうか」


 司教の後に続き。

 アーリアラ教団の司祭たちがこの場を去っていた。

 立ち止まり状況を見守っていた衆目たちは、再び人波を形成した。

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
もしよろしければ、ご一読ください。
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