帰る前に買い物を
本日1回目の更新
※
「陽も落ちてきたし、そろそろ帰ろうか」
「え~……!
リリス、もっとあそびたいよぅ!」
今日はいっぱい遊んだけれど。
おっさんの娘様は、まだまだ遊びたりないようだ。
「う~ん……そうだなぁ」
もう少しくらいならいいかな? とおっさんは思ったが。
「お空の色も変わっちゃったし、今日はもう帰りましょう」
甘々なおっさんと違い、ソニアはこういうところはしっかり者だった。
「リリスちゃん。
またつぎのおやすみに、いっしょにあそぼう」
「……おねえちゃ、またリリスとあそんでくれる?」
「うん!
あたしも、リリスちゃんとあそびたいから!
でも、くらくなるとあぶないから、きょうはかえろうね」
しっかり者のリルム。
少女は貧民街出身ということもあり、夜闇の危険を良く知っているようだ。
「……わかった!
じゃあリリス、きょうはあそぶのおわりにするね!
だからおねえちゃ、またいっしょにあそぼうね!」
また一緒にリルムと遊ぶことが出来る。
リリスはそれがとても嬉しいようだ。
「いい子ね、リリス。
町までは、みんなで一緒に帰りましょうね」
「あ~い!」
娘が両手を伸ばす。
右手をおっさんに、左手をソニアに。
二人は目を見合わせて微笑むと、直ぐに娘の手を取って。
おっさんたちは、町に向かうのだった。
※
そして町に到着。
まだ陽も沈み切っておらず、辺りも明るい。
これなら暗くなる前に家に帰れそうだった。
「ししょう、きょうはとってもたのしかったです!
あそぶって、とってもたのしいことなんですね!」
「そうだ。
人は働くだけが生きることじゃない。
休みの日は、楽しく過ごすことが大切だ。
それが、日々を生きていく気力にもなるからな」
「はい!
りっぱなキコリになるためには、あそぶことはたいせつ!
おぼえておきます!」
あれ?
おっさんが伝えたかった事と、微妙に違う気がするが……。
『勇者様……。
また樵という職業について、リルムちゃんが勘違いしているのでは?』
突っ込みが的確なカティ。
だが、至って真面目な弟子の言葉をおっさんは否定しなかった。
仕事を頑張る為に、余暇を満喫することが重要なのは間違いないからだ。
「アンクルさん。
今日はありがとうございます。
私も、こんなに穏やかな一日を過ごしたのは久しぶりでした」
穏やかな口調で感謝を述べるミーア。
「それと改めてになりますが、お礼を言わせてください。
あなたのお陰で、私はまた娘と共に生きていくことができる」
おっさんの胸には、言葉以上にミーアの想いが伝わっている。
娘一人を置いて、この世を去らなければならない無念は計りしれない。
立場を置きかえたらその気持ちは容易に理解できた。
「この大恩を必ずお返しできるとは思っていませんが、
もし私で力になれることがあれば……」
だから、どれだけ感謝されようと。
「ミーア、リルムと幸せにな」
おっさんが伝えたいことは一つだけだった。
「……はい!」
目に涙を浮かべながら、ミーアは幸せに満ちた微笑をおっさんに向けた。
「あ、それと言い忘れたが――これからもよろしく頼むな」
「ふふっ、はい。
それももちろんです!」
娘同士が友達になった以上。
今後は家族ぐるみの付き合いになるからな。
両親同士のお付き合いも増えそうだ。
「アンクル……浮気はダメよ?」
「……なんでそういう話になる?」
妻にギロッとした目を向けられる。
ちなみにおっさんは、最初からそんなことは一切考えていない。
「大丈夫ですよ、ソニア。
私じゃとても二人の仲に入り込めそうにないですから」
「ふふっ、まぁそれはね~」
ソニアは満足そうに笑う。、
そもそもおっさん自身、再婚などは考えたことはない。
それはソニア以上に、自分が愛することが出来る女性はいないと確信しているからだ。
「おしゃべりはこの辺りにしておきましょうか。
アンクルさんが、なんだか気まずそうなので」
「そうね。
じゃあそろそろ」
二人は話を切り上げて。
「リルム、行きましょうか。
皆さん、失礼しますね」
「うん!
ししょう、またあしたからよろしくおねがいします!」
「おう!
また明日な」
ペコリとする弟子。
「おねえちゃ!
ばいば~い!」
「ばいばい、リリスちゃん!」
娘たちは互いに手を振って、さよならを交わす。
そして町の正門を潜り、ミーアとリリスは一足先に帰路に着いた。
「じゃあ私たちも――って、あ……!
そういえば……」
何かを思い出したのだろうか?
ソニアが口元に手を当て、ちらっとおっさんの顔を見た。
「……どうしたんだ?」
おっさんが気になって尋ねると。
「……リリス~」
「なに~、おかさん?」
「お昼ご飯、美味しかったわよね?」
「うん!
とってもおいしかったよぅ!」
途端に娘と話し出すソニア。
「お夕飯も、美味しいの食べたいよね?」
「たべた~いっ!」
「そうよねぇ~」
ちらっ。
ソニアがおっさんに視線を送る。
「どうしたんだ?」
「アンクル。
折角町に来たのだから、食材を買いに行きましょう!」
「え……家にある買い置きが――」
ここまで言って、おっさんは気付いた。
今日の弁当。
サンドイッチにふんだんに挟まれた食材の数々を。
「ソニア、もしかして……」
「お昼に気合を入れ過ぎて、家に何もないの。
だから食材を買って帰りましょう!」
2日分の食材の買い置きが……。
「私の手料理、美味しかったでしょ?」
「ああ、美味かった。
世界一だと思ってる」
「ま、真正面から言われると、照れちゃうわね」
久しぶりの手料理に気合を入れ過ぎてしまったというのなら。
仕方ないか。
おっさんだって、ソニアの料理を食べられて嬉しかったのだから。
「じゃあ、行くか」
娘の為にも、夕食の食材は必要だからな。
こうして、買い物をすることになったおっさん一家も、町に入ったのだった。




