おっさん、家に帰る。~そして新たな始まりへ~
※
抱きしめ合い喜ぶ母娘の姿を見ながら、おっさんは目頭を熱くさせていた。
(……良かった……。
本当に良かった……)
思わず泣きそうになってしまう。
おっさんは娘が生まれてから、涙脆くなっているのだ。
『ぐすっ……ぐすっ……うぅ、よがった、よがったでずぅ……。
ぶっ、ぶしゅー!!』
カティもボロボロ泣いていた。
やはりなんだかんだで優しい奴だ。
しかし、肩口で鼻を噛むのはやめて欲しいと、おっさんは思った。
少なくとも今は、そんな無粋なことは言うつもりはないけれど。
『勇者様、ぐすん……ね、念の為、ぐすっ……す、ステータスを確認していただけますか?』
カティは泣きながら、意外と冷静にそんなことを言ってきた。
『ステータスを?』
『フィアラの涙の……ぐすっ、効果を信用していないわけでは……すんっ、ありませんが、ミーアさんの状態を、ぐすぐす……確認しておきたいので……』
なるほど。
確かにそうのほうがいいな。
言われるままにおっさんはステータスを確認した。
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○名前 ミーア・セグレタニア
職業 リルムの母
種族 人間
年齢 28歳
・ステータス
職業レベル 10
体力 58
魔力 80
力 38
魔攻 66
魔防 82
速さ 20
運 32
・技能
心読
・状態――通常。
※
『……うん。
大丈夫だ』
ミーアの状態から、フィアラ病は消えていた。
『そうですか……はぁ……これで本当に一安心ですね……』
カティは心底安心したのか、大きく息を吐いた。
こうしておっさんの、初めての冒険らしい冒険は本当に終わりを迎えたのだった。
※
そしておっさんは、二人に声を掛けることなく立ち去った。
本当は一声掛けようと思っていたのだけど、気を遣わせてしまう気がしたのだ。
今日だけは母娘水入らずで過ごしてもらいたい。
今頃、何も言わずに立ち去ったことを、リルムは不満に思っているだろうか?
だが恩を着せたくて二人を助けたわけじゃないのだ。
正直、この行動にはおっさんの自己満足もあった。
(……今度は……助けられたんだな)
おっさんは昔を思い出していた。
自分の妻のことだ。
救いたくても救うことが出来なかった最愛の人。
(……本当に良かった)
おっさんは今も、自分が勇者になったとは思っていない。
魔王を倒しに行くなんて面倒だとも思っている。
ただ妖精カティとの出会いは感謝したいと思った。
本来、助けることの出来ない命を、助けることが出来たのだから。
「どうかしましたか、勇者様?」
「……いや。
カティ、約束したことを覚えてるか?」
「……?
なんでしたっけ……?」
魔王を倒しに行けというお願い以外なら一つ聞く。
そんな約束をしたことをカティはもう忘れていた。
「……ま、いいや。
思い出したら、その時は……」
「……?
勇者様、それよりも今日は聖剣を――って、あああっ!
もうもうもう!
言ってるそばからぁ!」
今日も聖剣は見事におっさんの家の前に突き刺さっている。
おかしな光景ではあるが、見方を変えるとおっさんの家を守っているようで心強い気もする。
「さて……ちょっとだけ遅くなってしまった。
リリスには謝らないとな」
「勇者様、家に入る前に聖剣を――って、勇者様、お待ちくださいっ!」
おっさんが家に入ろうとした瞬間、カティが声を荒げる。
「ど、どうしたんだよ……?」
「中に……何か気配が……でも、これは……」
「気配……!?
まさか――魔物が!?」
「それは違います。
悪い気配ではありません。
それに何かあれば結界が反応しますから」
おっさんを安心させるように、カティは口早に答える。
だが、おっさんにはその声が耳に入っていなかった。
一刻も早く娘のところへ――扉に手を掛け、
「リリス!」
家の中に入る。
すると、
「あ、おとさん、かえってきたよぅ!!」
リリスがバタバタ走ってきた。
「リリス……」
おっさんは思わず、膝の力が抜けてしまった。
良かった。
何事もなかったみたいだ。
「おとさん、おかえり~~~~~~!!」
「ああ……ただい――あぐっ……!?」
突撃してくるリリスに、今日はそのまま押し倒されてしまった。
だが、何よりも大切な存在が、おっさんの胸の中にいる。
おっさんはそれだけで、たまらなく幸せな気持ちになった。
「リリス、遅くなってごめんな。
お腹、減ったか……?」
「ううん!
だいじょぶ~~~!
あのね、あのね、おとさん!」
「うん……?」
なんだかリリスはいつもよりも、楽しそう……というか、様子がおかしい。
元気が有り余っているというか……。
「リリス、どうし――」
「もう、ダメじゃないリリス」
「え……」
突然聞こえた声に、おっさんの心臓が跳ねた。
だって、その声は――
忘れるはずがない。
忘れられるはずがない。
凛とした――でも優しくて温かいその声を。
でも……。
そんなはずないと。
おっさんは自らの考えを否定し、昂る感情を抑えて身体を起こす。
だけど、
「あなた、お帰りなさい」
信じざるを得なかった。
おっさんの視線の先には――
「……ソニ……ア……」
死んだはずの妻――ソニア・フレイルの姿があったのだから。
第一章完です。
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