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おっさんと古竜

2月18日 更新2回目

 おっさんがカティに突っ込みを入れた直後のこと。


『プッ――プハハハハハハハハハッ!』


 ドラゴンは大笑いした。

 その巨躯に合わせて、ばったんばったん尻尾も揺れる。


 ――バターン!

 

 地面に尻尾がぶつかる度にとんでもない地響きが起こる。

 その衝撃はおっさんの身体が浮かび上がるほどだった。

 流石はドラゴン。

 その挙動全てが災害レベルだ。


「ぎゃああああああああっ!?

 し、死ぬううううううううううううううッ!!!!!????」


 おっさんの耳元でカティが泣き叫ぶ。


「カティ、うるさいぞ。

 少し落ち着け!!」

「勇者様が落ち着き過ぎなんですよ!!」


 魔王を倒しにとかなんとかぬかしている割には、弱虫な妖精である。


 ドガーン!!!!!!!

 バターン!!!!!!!


 強烈な地響いていたが、次第にドラゴン――フィアラの笑いも治っていった

 そして、


『汝(なんじ)……』


 凄むドラゴン。


「ゆゆゆゆゆゆ勇者様!!

 怒ってます!

 フィアラが怒ってますよ!!!!!」


 今のやり取りで怒る要素があったか?


「いや、さっき笑ってただろ?」

「ドラゴンの怒りは大地すら揺るがすんですよ!

 知らないんですか!?」


 知らないよ。

 何せおっさんは、ドラゴンに会うのは初めてなのだから。


『ふむ、中々に愉快じゃ』

「ほら、怒って――って、え……?」

「おいカティ、怒ってないじゃないか!

「なんで怒ってないんですかっ!」


 俺に聞くなよ。と、おっさんは思った。


『我を知らずに、ここに来るとはな。

 では――名乗らせてもらおうか。

 我が名は――フィアラ。

 古(いにしえ)より生きる火竜の女王じゃ』

「お前、女だったのか?」

「見ればわかるじゃないかですか!」『見てわからぬか?』


 わかりません。

 世の中はわからないことばかりだ。

 35年間生きてきたが、おっさんは改めてそう思った。


『して、改めて問おう。

 汝の目的は何じゃ?』


 深紅の瞳がおっさんを射貫く。

 まるで心を覗き込むように。

 だが、おっさんは深く考えることはない。

 ただ、問われたままに答える。


「フィアラの涙と言われる道具(アイテム)があると聞いた。

 俺はそれを探してる」

『……ほう。

 何の為に?』

「俺の弟子の母親が、フィアラ病にかかった。

 その人を助けたい」

『フィアラ病……か。

 なるほど。

 であれば涙が必要なわけじゃ』


 ドラゴンは瞳を閉じる。

 何か考えを巡らせているようだった。

 フィアラという名前が出た時から気になってはいたが。


「フィアラ病も、フィアラの涙も、お前が関係しているのか?」


 おっさんは尋ねた。

 このドラゴンの名を冠した病。

 そして道具(アイテム)。

 関係がないはずがない。


『無関係ではないが、我が生み出した病ではない』

「そうなのか」

『……理由を聞かぬのか?』

「お前のせいで生まれた病気じゃないんだろ?

 それに今の俺にとっては、事実確認よりもフィアラの涙を手に入れることのほうが大切なんだ。

 お前はフィアラの涙を持ってるのか?」

『ふっ、可笑しな事を言うのう。

 涙というのは、目から流れる物であろう?』


 うん?

 つまりフィアラの涙というのは……?


「ゆ、勇者様、フィアラの涙というのは、古竜(エンシェントドラゴン)――フィアラの流す涙です」

「まんま涙なのか……」


 道具(アイテム)と聞いていたので、何かの魔法道具(マジックアイテム)だと思っていた。


「なら話は早い。

 お前の涙をくれないか?」


 おっさんは単刀直入に言った。


『構わぬが……我が涙を渡す代わりに、汝(なんじ)は何が出来る?』

「何が……か:


 確かに無料(ただ)でよこせというのは虫が良すぎるだろう。


「何かしてほしいことはあるか?」

『……そうじゃな。

 我は……楽しみたい』

「楽しむ?

 さっき笑ったみたいにか?」

『うむ、そうじゃな』


 ドラゴンが首肯した。

 首を振るだけでぶわっと風圧が凄い。


「だったら俺が定期的にここに遊びに来よう」

『遊びに……じゃと?』

「そうだ。

 ドラゴンのお前にとって何が面白いのか俺にはわからないが。

 何か面白い話が出来るかもしれない。

 さっき俺たちを見て愉快だと言ってただろ?」

『……つまり、それは我が友になると、そういうことか?』

「お前がそれでいいのなら」

『ふふっ……ふははははははっ!

 どれだけ愉快な男じゃ。

 聖剣の妖精よ、此度の勇者は中々面白い男のようじゃな』

「は、はぁ……ま、まぁ……。

 ろくでなし勇者ではありますが……」


 大笑いするフィアラに、カティは困惑し苦笑いを返した。


『ふはははっ、ろくでなしときたか……!』


 そして再び大笑いするフィアラ。

 するとフィアラの赤い瞳から、ポロッと宝石のようにキラキラした丸い粒が地に落ちた。


『とっ……笑い過ぎて涙が零れてしまったわ……。

 アンクル、拾うが良い』


 おっさんは、その丸い小さな石を拾った。


「これが……」

『我が涙よ。

 売れば生涯、生活に困らぬだけの金が手に入るぞ?』


 ドラゴンの涙だからな。

 相当希少なものに違いない。


『アンクルよ。

 それでもお前は血の繋がりもない他人の親を救うのか?』


 まるでおっさんを試すように、フィアラは問う。

 だが、おっさんは答えに窮することはなかった。


「当たり前だろ。

 亡くしちまったち命は、金じゃ買えないんだからな」


 人の命は何にも代えられない。

 大切な者の命なら尚更。

 自分の妻を失ってしまったおっさんだからこそ、強くそう想うのだ。


「それになフィアラ。

 血の繋がりはなくても、繋がりを持てばもう他人じゃないんだよ」


 リルムとミーアが親子であるように。 

 血の繋がりはなくとも、強く深い絆は存在するとおっさんは思うのだ。

 そんな風に考えるおっさんを、フィアラは静かに見つめ。


『……ふっ、なるほど。

 汝は実に面白い男のようじゃ。

 気に入ったぞ。

 我が友、アンクルよ。

 再びお前に会える時を、我は楽しみにしていよう』

「ああ、近いうちに必ず遊びに来る。

 だから、またなフィアラ!」


 おっさんの返事を聞き、フィアラは笑みを浮かべる。

 見た目は恐ろしいドラゴンであるが、その笑顔にはどことなく愛嬌があった。

 こうしておっさんは、フィアラの涙を手に入れただけでなく。

 古竜(エンシェントドラゴン)――ドラゴンの頂点とも言える存在と友達になったのだった。

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
もしよろしければ、ご一読ください。
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