聞いとらんわっ!
2月18日 更新1回目
おっさんは疾駆しながら、火竜山の周囲を観察していた。
ここはおっさんが普段、仕事に使っている山とはまるで違う。
まず木がないのだ。
山と言えば生い茂る木を連想してしまうのだが、おっさんらしい発想だ。
地面は灰のようなものに覆われており岩のように固い。
火竜山――などと呼ばれているようだが、冒険者が探索するダンジョンと言ったほうが雰囲気として合っているかもしれない。
あちらこちらに大きな穴があり、それが洞穴のようになっていた。
「カティ、あの中はどうなっているんだ?」
「火竜山の内部に繋がっています」
「内部……?」
「はい。
中は迷宮のようになっているんです。
本来はその迷宮を抜けて、この頂上付近まで来るんですよ」
おっさんは、ムーブを使って一気に頂上付近まで飛んできたが。
実は迷宮を抜けるなどという過程が必要だったとは。
「それより勇者様、注意してください。
そろそろ火口に到着します。
火口はドラゴンたちの住処になっていますから……」
「……ドラゴンか」
まぁ、いざ戦いになりそうなら逃げればいいだろう。
ムーブを使えば避難することは可能のはずだ。
「しかし……熱いな……」
山頂に近付けば近付くほどに、とんでもない熱さになっていくる。
だというのに、カティはおっさんの肩口を掴み、ぶるぶると震えていた。
「怖いのか?」
「あ、当たり前です。
何度見ても、ドラゴンにだけは慣れません。
大きいし、顔は怖いし、火を噴くし……私の中では暴力の象徴のような生物です」
ドラゴンを何度も見る機会自体、普通は早々ないはずだが。
そんなことを考えているうちに火口に到着した。
肌が焼けそうなほど熱い。
ミランダから借りた魔法道具がなければ、火傷していたかもしれない
「勇者様、絶対に火口を覗き込んではいけません」
「わかってる。
この熱じゃ近付きたいとも思わない」
「そ、そうじゃありません!
私が心配しているのは――」
カティが何かを口にしようとした。
瞬間――バアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!
火口の中心から轟音が響いた。
耳を劈くような爆発音。
同時に火口からはマグマが噴出し、おっさんの周囲に降り注ぐ。
だが、噴火があったわけではない。
轟音と共におっさんの視界を覆ったのは赤い鱗。
そして、
『其方は……聖剣を持つ者のようだが。
一体、この場に何をしに来たのじゃ?』
頭の中に、直接声が響く。
それはカティの声ではない。
普段は鈍感なおっさんが目を見開く。
そしておっさんは、状況を理解した。
轟音の正体――火口からドラゴンが飛び出してきたということに。
『我の言葉が理解できぬか?』
再び語り掛けられ、おっさんは顔を上げた。
するとドラゴンと目があった。
だが驚愕はしても恐怖はない。
「俺はアンクル。
樵だ」
問われるままにおっさんは答えた。
『樵……?
勇者ではないのか?』
ドラゴンに聞き返された。
「ああ……そうか。
一応、ステータス的には樵勇者だな」
『……?
強大な力に反応し目覚めてしまったのだが……我の眠りを妨げる者ではないのか?』
「ああ、あんたと争いに来たわけじゃない」
『ならば何故、この場にやって来た?
人がここに来る理由など、限られているはず?』
ドラゴンからすれば当然の疑問だろう。
普通の人間であれば、まずこの場に来るはずがない。
名を上げようとする冒険者が無謀にも火竜山に挑戦し、そして火口に辿り着く事すらなく命を落とすのだ。
火竜山内部にはそんな冒険者の亡骸がそこら中に転がっている。
魔法で一瞬で移動してしまったおっさんは、そんなこと全く知らないが。
「その前に俺も聞きたいんだが……」
「……?」
「お前の名前はなんて言うんだ?」
「……なに?」
「相手が名乗ったら、普通は自分も名乗るものだろ?」
おっさんの返しが、ドラゴン的にも意外だったのだろうか?
神聖さすらも感じさせるその眼差しがきょとんとしている。
「ゆゆゆゆゆゆゆ勇者様!!!」
「なんだよ?」
ドラゴンに驚愕し固まっていたカティが、震えながらも声を上げる。
「ん?」
「こ、このドラゴンが――フィアラです」
「え……?」
フィアラ、何度も聞いたその名前。
フィアラ病。
フィアラの涙。
つまり、
「フィアラって、ドラゴンの名前だったのか?」
「いいいいい言ったじゃないですか!
古竜――フィアラですよ!」
聞いとらんわっ!
ドラゴンの巨躯を見ながら、おっさん心の中で妖精に突っ込みを入れるのだった。




