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酒場でご飯

2月13日 4回目更新

 おっさんたちが入った酒場は――竜撃亭りゅうげきていと言われている。

 店名の由来は、店の女主人が若い頃に、ドラゴンを倒したことがある冒険者だからだそうだ。

 そんな有名冒険者がなぜ酒場などやっているのかは……誰も知らない。


「ここが……さかば……?」


 竜撃亭は昼時ということもあってかかなり盛況だった。

 リルムは初めて酒場に訪れた為か、きょろきょろと周囲を見回して興味津々な様子。 


「私も酒場に来るのは久しぶりですが、相変わらず騒がしいところですね。

 あ、勇者様!

 あの方、昼間からお酒を飲んでいます!」


 それは個人の自由だから許してやれ。

 おっさんはそんなことを思いながら空いている席を探していると、


「いらっしゃいませー!

 2名様ですか?」


 接客慣れしたハキハキとした声が聞こえた。

 その声におっさんは顔を向けると、


「って……アンクルさん!

 久しぶりじゃないですか!」

「おお、サラリナ。

 元気だったか?」


 声の主は、店の女主人の娘――サラリナ・カスティリャ。

 この酒場の看板娘でもある少女だった。

 とにかく元気で明るく、一目で可愛らしいというのがわかる。

 短く切り揃えた赤髪は、彼女が活発な性格であることを示しているようだった。


「もっちろん元気ですよ!

 わたし、元気くらいしか取り得ないですから!

 あれ……隣にいる子は……リリスちゃん……じゃないですよね?」

「ああ……この子は……」


 おっさんが説明しようとすると。


「あ……立ち話もなんですね!

 とりあえず、席にご案内……」


 ご案にします。と言いかけたサラリナだが、テーブルは既に満席。


「……カウンターでいいですかね?」

「ああ」

「では、ご案内しますね!」


 看板娘の案内でおっさんたちはカウンターへと向かった。


「母さん!

 アンクルさん来たよ!」

「うん?

 おお……久しぶりじゃないか!」

「ミランダさん、元気にしてたか?」


 おっさんが挨拶した中年の女性が、竜撃ドラゴンスレイヤー――ミランダ・カスティリャだ。

 実の親子だけあって、どことなくサラリナに似ている。

 だが、ミランダは冒険者だった頃の名残もあり女性とは思えぬほどに体格がいい。

 脱いだから筋肉とか凄いのかもしれない。


「あたしゃ相変わらずさ」

「お母さんが、元気じゃない時なんてないって」

「サラリナ!

 無駄口たたいてないで、客から注文取ってきな!」

「え~折角、アンクルさんが来たのに……。

 少しくらいお話しさせてくれてもいいじゃん!」

「仕事中だよ!

 さっさと行ってきな!」

「は~い。

 アンクルさん、ひと働きしたらまたこっちに来るから待っててね!」


 文句を言いながらも、サラリナは客の待つテーブル席に向かった。


「相変わらず大繁盛みたいだな」

「お陰様でね。

 で、そっちの子は……?

 あんたの娘じゃないね?」

「あ、えと……あたし、リルムっていいます!」


 ミランダの鋭い眼光に動揺しながらも、リルムはしっかりと挨拶をした。

 彼女はおっさんに言われたことを忘れていない。

 生きていく上で最低限の礼儀を身に付けなければならないという言葉を。


「いい返事だね。

 あたしはこの店の主人ミランダだ。

 リルム、初めて来た客にうちはサービスしててね。

 何か食いたい物があるなら、好きに頼みな。

 あたしの奢りさ」

「え……いいの?」

「竜撃亭の女主人にゃ、二言はないよ」


 その言葉を聞き、リルムはおっさんを見る。

 その伺いを立てるような上目遣いは、おっさんの許可を待っているようだった。


「よかったな、リルム。

 好きなのを頼むといいよ」

「は、はい!」


 おっさんの許可を得て、少女は嬉しそうに笑った。

 狼尻尾しっぽもパタパタと喜びを表している。

 そんなリルムの姿に、おっさんも思わず微笑んだ。


「子供は遠慮なんてしなくていいんだよ!」


 この女主人の気前の良さと豪快な性格もあってか、この店は常に大盛況だった。

 多少……荒っぽい客が多いのも、ミランダの性格に益荒男ますらおたちが惹かれているのだろう。


「さて、注文を決めな!

 アンクル、あんたの分は特別に大盛にしてやる!」

「それはありがたい!

 この後も仕事でバリバリ働かなくちゃならないから助かるぞ!」


 それから少しして、二人は注文を決めた。

 この店はメニューも豊富で、リルムはどれにするかかなり悩んでいたが。

 結局おっさんと同じ料理を注文していた。

 ちなみにその料理の名前は――ドラゴンの尻尾焼きという料理。


「勇者様、これはゲテモノというヤツですか?」


 この妖精の声がミランダに聞こえていなくて良かった。

 おっさんは心の底からそう思った。

 ちなみにこれは、この店一番のおすすめメニューだ。

 本当にドラゴンの尻尾を焼いているのかは……ミランダ以外は誰も知らない。




         ※




「どうだい?

 美味いかい?」

「うん!

 こんなおいしいごはん、初めて食べました!」


 リルムは、料理を夢中でほおばっていた。

 美味しい、美味しいと口にするその姿を、おっさんとミランダの優しい瞳を見つめている。


「そうかいそうかい!

 嬉しいこと言ってくれるね!

 いっぱい食べな!」


 リルムの言葉を聞き、ミランダは満足そうに頷いた。


「本当に美味いよ!

 やっぱりミランダさんの飯は最高だ」


 おっさんも、久しぶりに食べたこの女主人の料理は美味かった。


「そうだろうそうだろう!

 今度は娘のリリスも連れてきな!

 サービスしてやるからよ!」

「そうだな……」


 娘にもこの美味しい料理を食べさせてやりたい。

 当然、おっさんにもその想いはある。

 だが、荒くれ者の多いこの店に娘を連れて来るのは娘の教育上、良くないのではないか?

 そんなことを心配していた。

 以前、娘を連れて来た時も一悶着あったからなぁ……。

 おっさんはその時のことを思い出しそうになって、考えるのをやめた。


「……ししょうには、むすめさんがいるんですか?」

「ああ、言ってなかったか?

 リリスって言う、天使のような娘がいるんだ」

「てんし……?」


 リルムは、ちょこんと首を傾げる。

 貧民街出身のリルムは、同い年の子供と比べて様々な知識に乏しい。

 決してこの子の頭が悪いわけではない。

 貧富の差というのは教育の差でもある。

 貧民街出身の彼女は教育を受ける事が困難だからこそ、あって当然と思われるような知識がない。

 だが、これは仕方がないことだ。

 そして、知らないのならこれから知っていけばいい。

 少なくとも、おっさんはそう思っていた。


「この世界を創った神様の使い。

 それを天使って言うのさ」

「せかいをつくった、かみさまの使い……?

 かみさまが、このせかいをつくった人なんですか?」

「リルム、神様は人じゃないぞ。

 そして名前でもない」

「え……?

 人じゃない……?」


 疑問に次ぐ疑問に、狼人ウェアウルフの少女は頭を抱えた。


「簡単に言えば、神様っていうのは種族が神だな。

 俺が人間ヒューマン、リルムが狼人ウェアウルフ

 神ってのも種族の一つだな」

「その通りさね。

 神様ってのは全ての創造主ってわけだ。

 世界だけじゃない。

 人を生み出したのも神様なのさ」


 おっさんとミランダが口々に語る。


「あたしを産んだのは、おかあさんじゃないの……?」

「リルムを産んだのはリルムの母親だ。

 でも、最初の生命を産んだのが神様って言われているんだ」


 おっさんは簡単にこの世界の神様について教えてあげることにした。

 子供に読み聞かせる物語になるくらい有名な話。

 創造神アーリアラから始まりし天地創造の物語を。

明日も更新いたしますので、よろしくお願いいたします!

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
もしよろしければ、ご一読ください。
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