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初弟子と共に①

2月13日 1回目更新

時間は未定ですが、今日中にまた更新します。

 次の日。

 おっさんはいつもより少し早めに起床。

 ちなみに昨日の夜は野犬の遠吠えすらなく非常に静かだった。

 隣で眠る天使な娘を起こさぬよう、物音を立てぬように部屋を出た。


「勇者様、おはようございます!」

「おうカティ。

 昨日も外で寝てたのか?」

「勿論です!

 私は聖剣の妖精。

 聖剣を放置しておくわけにはいきませんから」


 カティは言った。

 何よりまた魔物たちが迫ってくるのではないかと警戒していたのだ。

 しかし、魔物を召喚していたケネブは浄化されてしまった為、カティの警戒は実は無意味だったりする。


「なあ……カティ。

 お前の話が本当なら、あの剣は俺以外に抜けないんだろ?」

「はい、その通りです!」

「なら、放置していても問題ないんじゃないか?」

「……え?」

「だって突き刺してあるんだから、俺以外には誰も抜けないだろ?」

「………………」


 言われて初めて気づきました。とカティの顔に書いてあった。


「も、もしかしたら聖剣を奪おうとする魔物とか来るかもしれないです!

 昨日みたいに!」

「でも、魔物にだって聖剣は抜けないんだろ?」

「………………」


 カティはさらに顔をしかめた。

 図星だったのだ。


「おっと長話している暇はない。

 今日は少し早めに出なくちゃならんからな」


 まずは朝食の準備だ。

 おっさんは台所に向かう。

 野菜を適当なサイズに切り、塩で軽く味を付ける。

 リリスは野菜が苦手だが、味付けをしてパンに挟むと食べてくれるのだ。

 娘の健康の為に、日夜おっさんは色々と思考している。


「リリス~、朝だよ」


 こんな優しい声を出すおっさんが、世界にどれだけいるだろうか?

 あまりにも優しすぎてちょっと気持ち悪い。


「勇者様、猫撫で声が気持ち悪いです」


 おっさんはカティを無視した。

 娘がいる親ならわかるが、可愛い娘の前で不自然なほど優しくなってしまうのは男親の特権なのだ。


「う~ん……もぉ~あさぁ~?」

「そうだよ。

 朝ごはんの準備もできてるから、一緒に食べよう」

「……おとさ~ん」

「うん?」

「だっこ~」


 まだ眠たそうなリリスが両腕を突き出す。

 本当は自分で起きてテーブルまで行かなければダメ。

 甘やかすべきではない。

 おっさんの理性はそう訴えているのだが。

 理性とは反対に父として本能かおっさんは娘を抱っこしていた。

 お姫様のように丁重に優しく娘をテーブルに連れていき椅子に座らせた。

 俺はダメな父親だ。と心の中で嘆くおっさん。


「いっただきま~」

「いただきます」


 おっさんと娘は二人で食事をする。

 カティはおっさんの肩に座り、のんびりと食事風景を眺めていた。


「おとさん、きょうちょっとはやい?」

「ああ、そうなんだ。

 実はなリリス、お父さん弟子ができたんだよ」

「でし~?」


 ちょこんと首を傾げるリリス。

 弟子というのがなんなのかがわからないようだ。


「お父さんが仕事を教えてあげるんだよ。

 教えるお父さんが師匠――先生みたいなものなんだ。

 教わるその子が弟子って言うんだ」

「おとさん、せんせいなの~!?」

「ああ」

「えええええ~、おとさんすご~いっ!!」


 娘が机に乗り出しそうなほど驚いて、満面の笑みを浮かべた。

 樵の弟子……というと、正直そこまで凄い感じはしないが、樵勇者きこりゆうしゃの弟子なのでかなり希少性は高いだろう。

 そういう意味では確かに凄いのかもしれない。


「ねえねえおとさん、でしはどこにいるのぉ」

「うん?

 ここにはいないぞ」

「え~、リリスでしにあいたい!」


 それはおっさんにとって、まさかの要望だった。


「で、弟子にか!?」

「うん!

 でしにね、おとさんはどお~ってね、きくの!」

「き、聞くのか!?」


 それはとんでもないプレッシャーだ。

 もしリルムが、リリスに「師匠は糞」とか「教え方下手過ぎ」とか言ったらどうしよう。

 そうなればきっと、自分の父親のダメっぷりにリリスは傷付いてしまう。


「ねえねえおとさん!

 いつでしにあえるのぉ?」

「そ、そう……だな。

 今度聞いておくな」

「うん!

 リリスね、でしにあうのね、たのしみっ!!」」


 こいつはやべ~ことになった。と、冷や汗をかくおっさんだった。




         ※




 そしておっさんは今日も仕事に行く。


「リリス、家から絶対に出ちゃダメだぞ。

 お父さんと約束な」

「うん! やくそく~!」


 指切りする。

 ばっちり約束し、おっさんは家を出た。

 だが昨日のようにまた魔物が襲ってくる可能性はゼロではない。


「カティ、この家を守れるような魔法はないか?」


 おっさんは真面目な顔でカティに尋ねた。

 彼は娘のことで冗談は言わない。

 カティもそれを理解している。


「……そうですね。

 魔除けの結界と防御壁を張っておきます。

 少々お待ちを!」


 そして妖精は持てる魔力を注ぎ込み結界を張った。

 魔力がないものにはわからないが、光の壁がおっさんの家を包囲していた。


「これで大丈夫です!」

「本当に大丈夫だろうな?」

「ご安心ください!

 ドラゴンのブレスだって防ぎきれますから!」


 大袈裟に聞こえるかもしれないが、カティの発言は決して嘘ではない。

 この妖精は攻撃魔法はてんでダメだが、それ以外の魔法に非常に長けているのだ。


「……だが、確かにすごい魔力を感じるな」

「おお!

 勇者様もそれがわかりますか!

 レベルアップしてる証拠ですね!」

「そうなのか?」


 今まではそれほど感じなかったが、魔力の波動のようなものをおっさんは感じられるようになっていた。

 気付いていないが彼の職業レベルは20。

 昨晩、大きくレベルアップしたのだから。


「おっと、遅れてしまうな。

 カティ、行くぞ」

「はい!」


 カティはおっさんの肩に乗る。

 そして二人は町に向かった。




       ※




 おっさんは悩みながら町まで向かっていた。

 悩みの内容はリルムにどう樵の作業を教えるかだ。

 いい加減に教えていては、もしリリスとリルムが本当に顔を合わせることになってしまった時、とんでもないことを言われるかもしれない。

 娘に嫌われたくない、そして失望されたくないおっさんはマジになっていた。


「あ、アンクルししょう! お疲れさまです!」


 待ち合わせ場所には既にリルムが待機していた。

 弟子らしく先に待っているのは、非常にやる気が窺える。


「じゃあ、これから山に行くから付いてこい。

 仕事に付いては着いてから教える」

「はい!」


 こうして樵勇者きこりゆうしゃとその弟子は仕事場に向かった。

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『フライパン無双~とある呪いを解く為に、冒険者になりました~』
もしよろしければ、ご一読ください。
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