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プロローグ その2

 その後警察がやって来て怪我をした私は一旦病院まで行き、治療を受けた。対した怪我ではなかったので手当を受けながら事情聴取をされる。


 助けには来てくれなかったが、私が追われている所を見ていた住民が包丁で襲い掛かって来た女の様子を説明してくれていたので、あまり時間を掛けることなく私は家に帰された。


 鈴木さんはもう帰っているだろうかとも思ったが、あまりにも疲れた私はそのままベッドに直行しすぐさま眠ってしまった。







 次の日、インターホンの音で目を覚ました私は、「鈴木です」と言う声に慌てて寝ぼけた頭を覚醒させた。ちらりと時計を見るともう十時だ。休日でよかったと息を吐きながら、ドア越しに「ちょっと待ってて下さい」と声を掛け、急いで人前に出られる恰好に着替える。




 準備をしながら、昨日は疲れて考えられなかったことを頭に浮かべる。

 彼は、鈴木さんは一体何なのだろうか。



 あんな風に斬られたのに血も出ずに、更に皮膚の奥は堅そうな鉄のようなものに見えた。「人間ではない」と荒唐無稽な言葉を口にした彼だが、それは笑い飛ばせるような発言ではなかった。




 見られる程度に髪を整えてから玄関の扉を開くと、そこにはいつもよりも元気のない鈴木さんが立ち尽くしている。



「お待たせしてすみません」

「いえ、謝るのはこっちです。片桐さん、昨日は本当に申し訳ありませんでした」

「そんな、鈴木さんは悪くありません」



 昨日の女性は少し前から彼をストーカーしていたようで、鈴木さんがきっぱり止めて下さいと言った所、どうやら逆上したらしい。そして彼と一緒に歩いている私を見て彼女と勘違いして包丁を向けてきたと、そういうことだ。


 確かに鈴木さんと全く無関係という訳ではないが、それでも私が怪我をしたことは勿論彼の所為ではない。むしろ今まであの女性に付きまとわれていた彼の気持ちを考えると同情してしまう。




「悪いのはストーカーで、鈴木さんは被害者なんですよ。だから謝る必要はありません」

「ですが怪我を」

「大した怪我ではないですし、一週間も経てば後も残りませんよ。それよりも、寧ろ鈴木さんの方が……」



 言いかけて言葉に詰まる。聞いていい質問なのか分からないのだ。ちらりと彼の腕を確認しても、半袖のシャツから出ている右腕は、昨日とは違い何ともない。


 私の視線に気が付いたのか、彼は腕に手をやって苦笑する。




「……私の所為で怪我をしたあなたには話しておかなければいけませんね」

「えっと鈴木さん、昨日の言葉……」

「少し長くなります。立ち話も何ですから」



 そう言って、彼は私を駅前まで連れ出した。















 部屋で話さなかったのは、恐らく私に気を遣ってくれたのだろう。彼を家に上げるのを全く躊躇わずに出来るかと言えば否である。


 がやがやと騒がしいファミレス。四方八方から声が飛び交う席に腰を下ろすと、彼はまず私にメニューを差し出してきた。



「朝、食べていないでしょう?」

「そうでした……」



 何せインターホンで飛び起きたのだ。時間はどちらかと言うと昼に近く、まして昨日の夜は疲れて何も食べていない体は栄養分を求めていた。私はちょうど注文できる時間が来たランチセットを頼み、鈴木さんは悩みに悩んだ挙句にオムライスを選んだ。







「昨日お話した通り、私は人間ではありません」



 注文したものを待つ間、彼は居住まいを正しとても真剣な表情でそう言った。



「人間じゃないって……じゃあ、何なんですか」

「何か、と言われると難しいのですが。この惑星には私のような生物はいないようですし……そうですね、機械の人形のようなもの。あれが一番近いです」

「ロボットですか?」

「そうそう、ロボット。私の種族は人工的に作られた訳ではないので少々ロボットとは異なりますが、体の構成物質は似ていますね。昨日、片桐さんも私の腕を見たでしょう」




 確かに、昨日見た彼の腕は金属のような物質だった。正直あれを見れば、彼を普通の人間だと思う方が難しい。


 しかし……と私は鈴木さんを観察する。


 いつも通りののほほんとした癒しオーラといい、実に柔らかい表情といい、どこからどう見ても人間そのものである。




「機械人、とでも言っておきましょうか。機械と人間の中間のようなものなので」

「機械人……あの、さっき種族と言いましたけど、鈴木さんの他にも同じような人が?」

「ええ勿論。故郷の惑星には両親も親戚も居ますし」



 何かさらっと言われたが、故郷の惑星って……。



「あの、ちなみに出身は?」

「詳しい名称と座標は惑星間条約で規制されているので言えませんが……ざっくり言うと、宇宙の彼方です」



 ざっくりすぎるわ。そう思ったものの、多分詳しく聞いても分からないだろうと思うのでそれ以上追及しなかった。




「じゃあ、どうして地球に来たんですか?」

「留学です。一年間だけ許可が下りたので……私、日本の文化がすごく好きなんです! だからどうしても来たくて」

「はあ……」



 いきなりテーブルに身を乗り出して、鈴木さんは目を輝かせながらそう言う。言葉だけなら普通の外国人なのに、目の前の人物は人間の皮を被った宇宙人である。







「おまたせしました、ランチセットとオムライスです」

「おおっ」



 運ばれて来たオムライスにキラキラと笑顔を向ける鈴木さん。ウェイトレスの女性が見蕩れているのも気が付かずにわくわくとスプーンを手に取っている。


 オムライスを掬い、何故か一度深呼吸をしてから大きく口を開いて食べる。



「美味い! やっぱり、地球人の食事は最高ですね!」

「あの鈴木さん、もう少し声を小さく……」



 堂々と地球人とか言ったぞこの人。しかしウェイトレスは既に他の客の注文を取っているし子供の泣き声も響いていたので気にしている人は幸運にもいないようだ。




「今更なんですが、食べ物ってそちらの故郷と似たような感じなんですか?」

「いえいえ、全く違います。私達の食事といえば基本的にエネルギーをいかに摂取出来るかに重点を置いていますから、味は二の次なんです。主に灯油などの少しで高エネルギーを取れるものが多いですね」



 灯油は食事なのか。聞けば、地球の灯油とは違いそれなりに飲める味ではあるものの、取り立てて美味しい物ではないらしい。多分私達にとっては水道水を飲んでいるようなものなのだろう。



「地球の灯油は全然味の調整がされていないので正直美味しくないのですが……」

「まあそりゃあされてないでしょうね」

「片桐さんから頂いた雑炊を試しに食べてみたらもう美味しくて美味しくて。あまりエネルギーは摂取出来ませんが、地球の料理に感動しました!」



 彼は私が雑炊を差し出すまで、食事は全て灯油で済ませていたらしい。この間倒れていたのも、外で灯油を飲むわけにもいかずに我慢した結果エネルギーが切れたのだという。


 しかし、試しに食べたと言ったがもし体に合わなかったら大変なことになっていただろう。



「体に影響はないんですか?」

「ええ。体内で燃焼させてエネルギーにする過程は一緒なので」



 話しながらも決して止まることのない手を見ながら私は何となく、多分人間で言う脂肪を燃焼するという意味とは違うんだろうなと漠然と思った。実際に体の中で火を起こして燃やしていそうである。


 私も遅れてランチセットを食べ始める。




「あの、すごく今更ですけどそんな大事なこと、こんな人が多い場所で言っても大丈夫だったんですか」

「これくらい騒がしければ誰も私達の言葉など聞こえませんし、聞こえたとしても信じませんよ。現在半径五メートル内に私達に気を取られている人はいません」

「はあ……」



 何でそんなことが分かるのかは聞かなかった。多分種族の差だろう。機械っぽいと言っていたし、何かセンサーでもあるのかもしれない。



 なんとなくお互い黙々と食べ続け、そして先に食べ終わった鈴木さんはわくわくしながらメニューのデザートのページを見ている。


 私も食べ終わった所で箸を置き、鈴木さんをあまり失礼にならない程度に観察した。




 正直、「今言ったことは全て嘘です」と言われた方が信じられる。常識に縛られた頭では、昨日の出来事自体が夢だったのではないかと思ってしまう。


 しかし実際に私の腕はじくじくと痛みを持っているし、目の前の彼の傷はきれいさっぱり無くなっている。昨日の出来事は現実に起こったことだし、そうでなければ彼とこんな話はしていない。


 得体のしれない生物が何食わぬ顔で隣で暮らしていたのだと思うと、正直怖い。


 ぐるぐると思考が同じ場所を行ったり来たりを繰り返し……そして最終的に、私は思考を停止させた。



 もういいか。鈴木さんは鈴木さんなんだから。


 一種の諦観のようなものを抱く。これ以上私が考えても答えは出ないし、例え目の前に未知の宇宙人が居ようと、チョコレートパフェと苺パフェのどちらを選ぼうかととても真剣に悩んでいる姿を見れば気が抜けてしまう。




「苺も食べてみたい……でもチョコの方がコスト的に……ああ、なんという選択をさせるんですかこの店は!」

「……鈴木さん、私もどっちか頼みますから叫ばないで下さい」



 こんなおかしな鈴木さん――機械人が、私の隣人です。






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