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無色の勇者と七色の約束  作者: 白猫サクラ
第13章 ダンジョンの謎と覚醒
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第72話 魔欠の少年の謎

 数日後、レイン先生の孤児院。


 孤児院の庭は、木々のすきまから朝の光が差し込み、柔らかな影を地面に落としていた。


 その光景は、ついこの前まで命の危機にいた自分には、どこか別世界のように思えた。

 久しぶりに聞く子どもたちの笑い声が、胸の奥をじんわりと温める。


 レイン先生が僕の体の傷を確かめながら、静かに言葉を落とした。


 「……大分よくなりましたね。」


 その声音は淡々としているのに、どこか安堵が混じっているように聞こえた。


 体の傷はほとんど治っていた。

 包帯も外れ、動かすたびに走っていた痛みも、もうない。


 そんな僕の顔を見て、レイン先生がふと怪訝そうに眉を寄せた。


 「……命を落としかけたわりには、ずいぶん嬉しそうですね」


 ―――ドキッ。


 アミリアに再会できたことを思い返していたせいで、どうやら表情に出てしまっていたらしい。


 胸の奥が一瞬で熱くなる。慌てて視線をそらしたけれど、


 「君が元気なら、それにこしたことはありませんが」


 レイン先生の目は、すでにすべてを見透かしているようだった。


 その静かな視線の奥に、わずかな驚きと、理解しきれない何かが揺れている。


 「それにして、君が虚影獣を倒すとは思いませんでした」


 淡々とした声なのに、そこには確かな“事実”としての重みがあった。


 ミール先生やリオナから、魔獣を倒したのは僕だと後から聞かされた。


 だけど──そんな記憶はない。


 あの女魔導師にいたぶられて、意識が遠のいていく中で、ただ、ぼんやりとした“温かい光”を感じたことだけは覚えている。


 それが何だったのか。どうして自分が生きているのか。どうやって虚影獣を倒したのか。

 僕は理解できなかった。


 「……でも、僕、本当にそんな覚えがないんです。見えない魔獣になぶられて、あの女魔導士には手も足も出なくて……」


 言いながら、胸の奥がざわつく。


 あの時の冷たい声、肌を刺すような魔力の感触──思い出すだけで、背筋が震えた。


 レイン先生は、そんな僕をじっと見つめ、わずかに目を細めて言った。


 「ヴォイド・ストーカーは、君がかつて戦ったデス・ベリアルを凌ぐ危険な魔獣です。それを三体も倒すなど……正直、今の君にできる芸当ではないと、私も思っています」


 淡々とした声なのに、その言葉は重く、逃げ場がなかった。


 そして──レイン先生は、ほんのかすかな声でつぶやいた。


 「……そうなると、別の力の干渉を受けたとしか考えられない……」


 「え……?」


 思わず聞き返すと、レイン先生はすぐに表情を戻し、首を振った。


 「いえ。なんでもありません」


 その一言が、逆に胸の奥にひっかかった。


 レイン先生は、何かを振り払うように小さく息をつき、顔を上げた。


 「君は……恐怖と死のはざまで、強大な敵と対峙しました。大分、成長しましたね」


 その声は静かだが、どこか遠くを見ているようだった。


 「聖浄院が動き出すなど、情勢も大分きな臭くなってきました。これから、いつ同じような輩と出会うとも限らない……」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の脳裏に、あの恐ろしい女魔導士の顔が浮かんだ。

 冷たい笑み、肌を刺す魔力、あの声、背筋がぞくりと凍りつく。


 レイン先生は続けた。


 「怪我も癒えたことですし、これからは“それ”を見据えた稽古をしていきましょう。……ただし、今までのように優しくはありませんよ」


 今まではあれで優しかったの……?


 喉がひくりと鳴る。


 でも──アミリアの隣に立つためには、僕はもっと強くならなければならない。

 逃げるわけにはいかない。僕は心を決めて言った。


 「……お願いします」


 その言葉は震えていたけれど、確かに、自分の意志で口にしたものだった。


 ――――――


 孤児院の礼拝堂の地下

 

 ロキが孤児院を去ったあと、レインは一冊の古びた書物に目を通していた。

 

 表紙は擦り切れ、角は欠け、まるで何世代も前から受け継がれてきたような、

 そんな重みをまとった本だった。

 

 レインは丁寧にページをめくる。紙は乾き、指先にざらりとした感触が残る。


 そして、誰に聞かせるでもなく、レインはそっとつぶやいた。


 「……ダンジョンでの“覚醒”。……"時"の魔力……」


 古びた書庫の空気が、その一言を吸い込むように静まり返る。


 その静けさを破ったのは──


 「にゃー」


 リリーナの子猫のミミーだった。


 ミミーは、どこか遠くの揺らぎに引き寄せられたように、レインに頭をこすりつけた。


 レインは目を伏せ、ミミーの頭をそっと撫でた。


 外から聞こえる子供たちの笑い声だけが、この部屋の重苦しさと対照的に響いていた。


 ――――


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