後日譚話
後日。
「フェリシア。あなたに、親類を紹介します。いつかはしなければならないので、早い方が良いでしょう」
と、メフィストに言われる。
フェリシアは今、引っ越しの準備の最中だった。借りていた家から、マリーやニコラス、ウィリアムと共にメフィストの別荘に移るためだ。
「親類、とは?」
「従兄弟です」
訊き返せば、端的に返される。
「従兄弟、ですか……?」
「それは今必要なのかしら?」と問い返せば、
「正直に申しますと、恐らく本日が好機なので、今日を逃す手はありません」
そうメフィストは告げた。どこか焦っている様子なので、それはきっと本当なのだろう。
「お嬢様、ここは私達に任せてください!」
とマリーが元気に返し、ニコラスやウィリアムも同意の様子だった。そのため、マリー達に後を任せる事にして、フェリシアはメフィストと共に従兄弟に会いに行くことになった。
フェリシアとメフィストは、フォーマルな格好に着替える。
「これは……呪猫式ね」
「そうですね。呪猫の方に会いますから」
×
「ねぇ、あなたの従兄弟ってどのような方なの?」
馬車での移動がてら、フェリシアはメフィストに問うた。周囲の景色がゆっくりと過ぎてゆく。
「彼は……ええと。やや気難しい方ですよ。真面目な方なので、ノリが悪いです」
彼はそんなことを答える。そう言われてみると、メフィストはノリが良い方なのだろうか? 考えてみれば、くじ引きでくじを引いていたり、ややムキになっていたりと、比較的ノリは良い方なのかも? フェリシアは内心で首を傾げた。
それに、メフィストは表の仕事では占術師と吟遊詩人をしている。それなら、ノリは良い方なのだろう。そう、フェリシアは結論付けた。
「他に言うことは……そうですね、『会ってのお楽しみ』ですかね」
「丸投げじゃないの。まあいいわ、変な人ではないのよね?」
「ええと……大分変な方です。夫婦ともに」
「えっ?」
フォローはなかった。
×
「着きました。こちらへどうぞ」
着いた場所は、高級料理店だった。ここで従兄弟と待ち合わせをしているそうだ。
どんな人なのだろう、と緊張していたら。
「あれ? どうしたの?」
聞き覚えのある声に、フェリシアは振り返る。
そこに居たのは、ラファエラとフォラクスだった。二人共に呪猫式のフォーマルな格好をしている。
「従兄弟夫婦です」
「まぁ!」「えっ? そうなの?!」
メフィストの紹介に、驚くフェリシアとラファエラ。
「どうりで、メフィストとフォラクスさんがどこか似ていると……」
思わずフェリシアが呟くと、
「似てます?」
「こんなものとですか?」
互いに首を傾げるメフィストとフォラクス。二人共に心外だ、と言う顔をしていた。
「失礼じゃない? お互いに」
冷静に突っ込むラファエラ。
「それで、紹介してどうするおつもりです?」
「もう一人の従兄弟に会いに行こうと思いまして。せっかくですから、弟君もご一緒にどうですか?」
フェリシアが問うと、メフィストは答える。そして、フォラクスに意味ありげな目線を向けた。
「……やはり、そのつもりでしたか」
フォラクスは心底嫌そうな顔をする。
「もしかして、今から会いに行くもう1人の従兄弟って……」
「ええ、彼の兄。呪猫大公爵様に、です」
フェリシアがメフィストを見ると、彼は頷いた。
×
食事のあと、4人は呪猫に向かう。
そして、流れるように呪猫当主の屋敷に案内された。移動は全て、メフィストが用意した魔術式によって行われた。
「屋敷に入る前に、顔に打ち覆ひ……ではなく雑面を、付けてください」
そうメフィストに言われ、フェリシアとラファエラは生成りの白い布を顔にかけた。フォラクスはいつの間にか黒いものを顔にかけており、顔が完全に見えない状態になっていた。フェリシアとラファエラの二人が着けたのを確認した後、メフィストも純白の布を顔にかける。
呪猫の大公爵の屋敷は、あらゆる箇所に魔術の結界と魔術による感覚を狂わせる術、防御結界などがかけられており、良く見える『目』を持つフェリシアは少し酔ってしまった。
「すみません、フェリシア。あなたには刺激が強かったですね」
申し訳なさそうにするメフィストに、フェリシアは首を振る。声が出せなかったからだ。
「ふん、軟弱ですな」
対して、フォラクスはそう呟く。「こら」とラファエラがフォラクスを窘める声が聞こえた。
×
それから少し歩き、目的の場所に着いたようだ。
着いた広い部屋は板張りで、奥の方が少し高くなっている。その高くなっている箇所には木枠と布、簾で囲われた場所があった。正面の簾が半分程度上げられており、その中に一人、霞色の髪の男性がいる。その傍には黒紅色の髪の女性が侍っていた。
そこに居たのは呪猫当主とその伴侶だ。
全員に座るように当主は告げ、合わせて椅子が4脚現れた。それに全員が腰掛ける。
「ふむ。どうやら、占いの通りになったようだな」
「えぇ。些か長かったようですが」
「それはお前が能動しなかったからだろう。他責をするな」
「手厳しいですね」
張りのある声は、呪猫当主のものだ。それに、メフィストが臆すことなく返した。
「まあいいだろう。其方がニュクテレウテス家のフェリシアだな」
「はい」
当主が、フェリシアに意識を向ける。途端に、スポットライトが当てられたかとフェリシアは思った。そのくらい、強い圧が急にかかる。
「其奴は素直に見えて素直でないからな。困ったことがあれば来ると良い。可能ならば助けてやれる」
「ありがたき言葉です」
どうにか、フェリシアは言葉を返した。それから、呪猫当主やその伴侶から言葉をかけられ、軽くやり取りをする。
×
「緊張しましたわ……」
呪猫当主の屋敷を出、フェリシアは胸をなでおろした。
「彼、いつも対面者に魔力で圧かけますからね。目に映る者すべてを調伏したいのでは」
「そうなのですか?」
メフィストは苦笑し、それにフェリシアは目を瞬かせる。あの圧力は魔力だったのだろうか。
「奇跡の加護が圧力に感じられるだけでございます。魔力では有りませぬ」
ふん、とフォラクスが吐き捨てる。
「奇跡も魔力も同じでしょう」
「……そう思うならば、それで宜しいが」
「あなたも兄に似て秘密が多いですね」
「…………似ては居らぬわ」
メフィストの言葉に、フォラクスはやや苛立った様子で返す。そこに
「喧嘩しないのー」
とラファエラが声を挟んだ。
「私からすれば、メフィストも秘密が多いわよ」
フェリシアも声を挟む。
「そうですか?」
「ペンフレンドだったことと、お仕事と、身分と……たくさんあるわ」
「すべて明かしましたが」
メフィストは首を傾げるが、フェリシアは腕を組んだままだ。実はまだ、何か隠している情報があるかもしれないと疑っているところだ。
「ね、相手が従兄弟同士だったなんて、びっくりだね」
にこにこと笑顔で、ラファエラが声をかけた。
「そうですわね」
「これからもよろしくね!」
「ええ、よろしくお願いします」
こうして、フェリシアとメフィストの親類への顔合わせは終わったのだった。
メフィスト曰く、「当主に認められれば、根回しはほとんど終わったようなものです」だそうだ。




