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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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後日譚話

 後日。


「フェリシア。あなたに、親類を紹介します。いつかはしなければならないので、早い方が良いでしょう」


と、メフィストに言われる。

 フェリシアは今、引っ越しの準備の最中だった。借りていた家から、マリーやニコラス、ウィリアムと共にメフィストの別荘に移るためだ。


「親類、とは?」


「従兄弟です」


訊き返せば、端的に返される。


「従兄弟、ですか……?」


「それは今必要なのかしら?」と問い返せば、


「正直に申しますと、恐らく本日が好機なので、今日を逃す手はありません」


そうメフィストは告げた。どこか焦っている様子なので、それはきっと本当なのだろう。


「お嬢様、ここは私達に任せてください!」


とマリーが元気に返し、ニコラスやウィリアムも同意の様子だった。そのため、マリー達に後を任せる事にして、フェリシアはメフィストと共に従兄弟に会いに行くことになった。


 フェリシアとメフィストは、フォーマルな格好に着替える。


「これは……呪猫(フェレス)式ね」


「そうですね。呪猫(フェレス)の方に会いますから」


×


「ねぇ、あなたの従兄弟ってどのような方なの?」


 馬車での移動がてら、フェリシアはメフィストに問うた。周囲の景色がゆっくりと過ぎてゆく。


「彼は……ええと。やや気難しい方ですよ。真面目な方なので、ノリが悪いです」


彼はそんなことを答える。そう言われてみると、メフィストはノリが良い方なのだろうか? 考えてみれば、くじ引きでくじを引いていたり、ややムキになっていたりと、比較的ノリは良い方なのかも? フェリシアは内心で首を傾げた。


 それに、メフィストは表の仕事では占術師と吟遊詩人をしている。それなら、ノリは良い方なのだろう。そう、フェリシアは結論付けた。


「他に言うことは……そうですね、『会ってのお楽しみ』ですかね」


「丸投げじゃないの。まあいいわ、変な人ではないのよね?」


「ええと……大分変な方です。夫婦ともに」


「えっ?」


フォローはなかった。


×


「着きました。こちらへどうぞ」


 着いた場所は、高級料理店だった。ここで従兄弟と待ち合わせをしているそうだ。


 どんな人なのだろう、と緊張していたら。


「あれ? どうしたの?」


聞き覚えのある声に、フェリシアは振り返る。


 そこに居たのは、ラファエラとフォラクスだった。二人共に呪猫(フェレス)式のフォーマルな(きちんとした)格好をしている。


「従兄弟夫婦です」


「まぁ!」「えっ? そうなの?!」


メフィストの紹介に、驚くフェリシアとラファエラ。


「どうりで、メフィストとフォラクスさんがどこか似ていると……」


思わずフェリシアが呟くと、


「似てます?」

「こんなものとですか?」


互いに首を傾げるメフィストとフォラクス。二人共に心外だ、と言う顔をしていた。


「失礼じゃない? お互いに」


冷静に突っ込むラファエラ。


「それで、紹介してどうするおつもりです?」


「もう一人の従兄弟に会いに行こうと思いまして。せっかくですから、弟君もご一緒にどうですか?」


フェリシアが問うと、メフィストは答える。そして、フォラクスに意味ありげな目線を向けた。


「……やはり、そのつもりでしたか」


フォラクスは心底嫌そうな顔をする。


「もしかして、今から会いに行くもう1人の従兄弟って……」


「ええ、彼の兄。呪猫(フェレス)大公爵様に、です」


フェリシアがメフィストを見ると、彼は頷いた。


×


 食事のあと、4人は呪猫(フェレス)に向かう。


 そして、流れるように呪猫(フェレス)当主の屋敷に案内された。移動は全て、メフィストが用意した魔術式によって行われた。


「屋敷に入る前に、顔に打ち覆ひ……ではなく雑面を、付けてください」


そうメフィストに言われ、フェリシアとラファエラは生成(きな)りの白い布を顔にかけた。フォラクスはいつの間にか黒いものを顔にかけており、顔が完全に見えない状態になっていた。フェリシアとラファエラの二人が着けたのを確認した後、メフィストも純白の布を顔にかける。


 呪猫(フェレス)の大公爵の屋敷は、あらゆる箇所に魔術の結界と魔術による感覚を狂わせる術、防御結界などがかけられており、良く見える『目』を持つフェリシアは少し酔ってしまった。


「すみません、フェリシア。あなたには刺激が強かったですね」


申し訳なさそうにするメフィストに、フェリシアは首を振る。声が出せなかったからだ。


「ふん、軟弱ですな」


対して、フォラクスはそう呟く。「こら」とラファエラがフォラクスを窘める声が聞こえた。


×


 それから少し歩き、目的の場所に着いたようだ。

 着いた広い部屋は板張りで、奥の方が少し高くなっている。その高くなっている箇所には木枠と布、(すだれ)で囲われた場所があった。正面の簾が半分程度上げられており、その中に一人、霞色の髪の男性がいる。その傍には黒紅色の髪の女性が(はべ)っていた。

 そこに居たのは呪猫(フェレス)当主とその伴侶だ。


 全員に座るように当主は告げ、合わせて椅子が4脚現れた。それに全員が腰掛ける。


「ふむ。どうやら、占いの通りになったようだな」


「えぇ。些か長かったようですが」


「それはお前が能動しなかったからだろう。他責をするな」


「手厳しいですね」


 張りのある声は、呪猫(フェレス)当主のものだ。それに、メフィストが臆すことなく返した。


「まあいいだろう。其方がニュクテレウテス家のフェリシアだな」


「はい」


 当主が、フェリシアに意識を向ける。途端に、スポットライトが当てられたかとフェリシアは思った。そのくらい、強い圧が急にかかる。


「其奴は素直に見えて素直でないからな。困ったことがあれば来ると良い。可能ならば助けてやれる」


「ありがたき言葉です」


どうにか、フェリシアは言葉を返した。それから、呪猫(フェレス)当主やその伴侶から言葉をかけられ、軽くやり取りをする。


×


「緊張しましたわ……」


 呪猫(フェレス)当主の屋敷を出、フェリシアは胸をなでおろした。


「彼、いつも対面者に魔力で圧かけますからね。目に映る者すべてを調伏したいのでは」


「そうなのですか?」


メフィストは苦笑し、それにフェリシアは目を瞬かせる。あの圧力は魔力だったのだろうか。


「奇跡の加護が圧力に感じられるだけでございます。魔力では有りませぬ」


ふん、とフォラクスが吐き捨てる。


「奇跡も魔力も同じでしょう」


「……そう思うならば、それで宜しいが」


「あなたも兄に似て秘密が多いですね」


「…………似ては居らぬわ」


メフィストの言葉に、フォラクスはやや苛立った様子で返す。そこに


「喧嘩しないのー」


とラファエラが声を挟んだ。


「私からすれば、メフィストも秘密が多いわよ」


 フェリシアも声を挟む。


「そうですか?」


「ペンフレンドだったことと、お仕事と、身分と……たくさんあるわ」


「すべて明かしましたが」


メフィストは首を傾げるが、フェリシアは腕を組んだままだ。実はまだ、何か隠している情報があるかもしれないと疑っているところだ。


「ね、相手が従兄弟同士だったなんて、びっくりだね」


にこにこと笑顔で、ラファエラが声をかけた。


「そうですわね」


「これからもよろしくね!」


「ええ、よろしくお願いします」


こうして、フェリシアとメフィストの親類への顔合わせは終わったのだった。

 メフィスト曰く、「当主に認められれば、根回しはほとんど終わったようなものです」だそうだ。

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