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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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報酬要求

「お嬢様、待ち侘びていたご友人からの手紙が来ましたよ」


 ある日、マリーが上機嫌そうに手紙を持って部屋を訪ねてきた。その手には、メフィストからの手紙がある。


「待ち侘びていたって、そんな大袈裟な」


答えつつ、『とうとう来た』と内心では緊張していた。


「でもお嬢様。『手紙が来てないか確認して』と毎日急かしていたじゃないですか」


どこか楽しそうなマリーに、「困った子ね」とため息を吐きつつも、フェリシアは手紙を受け取る。見たところ、いつも通りの封筒だ。


「では下がりますね。お嬢様、ご友人からのお手紙はお一人で読みたがりますから」


「もう、マリーったら!」


冗談めかして笑うマリーを、フェリシアは軽く咎める。くすくすと笑いながら、マリーは下がった。


「ええと……」


 部屋に一人きりになり、封を切りって便箋を取り出す。ふわりと香る文香は、やはりメフィストからの手紙なのだと如実に伝えてきた。緊張しながら、便箋を開く。


『元婚約者の周辺を探るのですね。承知しました。報酬は言い値で買う、とのことですが……』


早速、料金の話をしてくれるらしい。緊張しながら続きを読むと。


『報酬は、あなたが刺繍したハンカチにしてくださいませんか。あなたが手ずから刺繍した、ハンカチが欲しいのです』


「あら。そんなことでいいの?」


意外なことが書かれていた。フェリシアが刺繍したハンカチが欲しい、とはとても変わった対価だ。


『刺繍してくださるなら、ハンカチでなくとも良いです。ですが、ハンカチの方が私は日常的にに使いますので』


ハンカチにしてほしい理由も、軽く書かれていた。


「……そうね。作るならハンカチをメインにして……布や糸が余ったら、他の小物も作ってみようかしら」


フェリシアは呟く。


『金や金目の物より、私にはよっぽど価値があります。私の要求で、あなたが気分を害していなければ良いのですが』


「悪くないわ。ただ、私の刺繍したハンカチでどのくらいの情報をもらえるか分からないのだけれど……」


呟きつつ、続きを読むと


『私が得た、元婚約者の情報は全てお伝えします。代わりに、とっておきの刺繍をしていただけたらと思います』


そんな冗談めいたことまで書いてあった。おそらく、彼なりの気遣いだろう。


『婚約者の情報を得次第、あなたに報告いたします。しばらくお待ちを』


そう、手紙は締めくくられていた。


「(……法外なお金を払わなくてよかった)」


読み終わって第一に抱いた感想は、それだった。別にフェリシアが貧乏なわけでないが、使えるお金には限りがある。そのため一安心した。


「……でも、彼の身分は大まかには分かったわね。……侯爵?」


要するに、『金目の褒賞は要らない』と言っているのだ。伯爵以下の身分の者なら『本来はいくらですが安くしておくので、ついでにハンカチください』くらいは言うはず。

 金額の提示も、料金の要求もしなかった。この善良さは、侯爵だと考えた方が納得がいく。あるいは、金に余裕がある伯爵か。


 フェリシアの知識では、呪猫(フェレス)の方面で侯爵並みに金に余裕がある伯爵は居ない。だから、伯爵を一旦除外してみた。


「マリー。すぐさま、ハンカチとして使える布と刺繍道具を買い集めて。糸と布は無論、良いものを」


すぐさま、マリーに声をかける。


「かしこまりました」


出ていくマリーの背中を見送りながら


「(刺繍する模様は、流行りの柄と守りの紋章にでもしようかしら)」


とこれから行う刺繍について思案した。

 通常、刺繍はその都度流行りがあり、用途もほとんどお守りだからだ。


×


 少しして、糸と布を買い集めたマリーが帰ってくる。


「お嬢様、こちらでよろしいでしょうか?」


「えぇ、十分よ」


集められた布や糸は、フェリシアの指定通りに質が良いものばかりだ。話によると、丁度通鳥(アウィス)の商人が来ていたのだそうだ。運が良かったようだ。


通鳥(アウィス)の商人なら、質が良い物を取り扱っているわよね」


納得の質の良さだ。


「どうしたんですか、これ」


と、ニコラスやウィリアムも様子を見に来た。


「お嬢様が、ご友人に刺繍した物を贈るそうです」


そうマリーが告げれば、


「それは大変ですね」


とニコラスは軽く頷く。


「時間に余裕ができた時にでも、俺達にも、何か刺繍した物ください」


ウィリアムがやや前のめりで言うも、


「そんなことをお嬢様に言ってはいけません。お忙しいんですから」


とニコラスに咎められた。


「彼の髪色や目色が分かれば、もう少しデザインのしようがあるというのに。顔を明かされていない相手にプレゼントって、難しい話ではないかしら?」


布を手に取り、フェリシアは呟く。


「ところで。本当に、刺繍したハンカチを贈るのですか?」


と問うマリー。


「おかしなこと?」


首を傾げるフェリシアに、マリーは頬を膨らませた。


「普通は、軽々しく女性の手作りの品をねだっりはしないです」


「何を言っているの。彼は私の友人よ、手作りの物を贈るのが何だって言うのよ。それに、情報屋の情報を刺繍したハンカチで補えるなら安いものよ」


マリーが力説するも、フェリシアは受け流す。


「そうでなければ、高いお金を払うことになっていたはず」


「……そうですか」


ややマリーは不服そうに首を傾げた。


「あなたは最近、私の恋愛ごとに興味を持っている様ね」


「だって。お嬢様、こんなにもお嬢様を思ってくださる方がいらっしゃるのに……」


「彼らは恋愛的に私を好いているのではないわ。私と協力関係にありたいだけよ。私も、彼らと協力関係にあって不満はない。だから、彼らと協力するのよ」


マリーの言葉に、フェリシアは緩く首を振る。


「そうですか?」


だが、マリーは釈然としていない様子だ。


「……あの元婚約者(クソ野郎)、不能にするかもいだ方がよかったですかね?」マリーが何かを呟く。


「何か言ったかしら?」

「いいえ、お嬢様!」


聞き返すも、マリーは教えてくれなかった。


「私もそう思います」


ニコラスはマリーに同意する。


「ですよね?」

「なにか罰でも当たればよいのに……」


要するに、マリー達は『元婚約者のせいでフェリシアは恋愛や結婚に奥手になっている』と思っているのだった。


 そんなことはつゆ知らず。フェリシアはメフィストへ贈るハンカチの布地と刺繍について思案するのだった。

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