趣味仕事
翌日。
休日なのを良いことに、ペンフレンドのメフィストと、魔導書店の客であるフロンスの関係性について考えてみる。
「メフィストは名前で、フロンスさんは姓名だと言っていたわ。……共通点を探してみようかしら?」
フェリシアは、口元に手を充てた。
「同じ、あるいは同じだと思ってしまった箇所は……」
考えて、魔力の香りと色くらいしか見つけていないことに気付く。
「……あと、メフィストは呪猫の出身で、フロンスさんも呪猫の出身だわ」
ついでにフェリシア自身や、アーウェルサと元婚約者もだが。あとは兄のクリストファーと、その友人のジョンも。魔女のラファエラは別の出身だ。
「逆に珍しいわよね、こんなに呪猫の出身者が揃うなんて」
なぜなら呪猫の出身の者は、中々他の地へ出たがらない気質があるからだ。フェリシアのように呪猫から出る者は珍しい。
元婚約者は、フェリシアを追って呪猫から出たのだろう。用事が済めば領地に戻る。
確か、手紙によるとメフィストは王都に居る。おまけにフェリシアの住所の近くだ。
「(……もしかして。本当に、どこかですれ違っているかもしれないわね)」
だとしても、誰がメフィストかなんて分かるわけがない。
「メフィストは、自身が『情報屋』だと言っていた……」
そういえば、フロンスの職業は何なのだろうか。彼は魔導書店を利用するが、だからと言って魔術師とは限らない。
「(……錬金術師、には見えないわね。服装は魔術師じみているし、錬金術の本は購入していないもの)」
考えてもしょうがないので、街を散歩することにした。マリーが「私が付いて行きますっ!」と言っていたが、一人で行くとごり押した。「でも、お嬢様の安全が心配です」と食い下がるので、
「式神を連れて歩くから、大丈夫よ。あなたはちゃんと休んでいて」
そういうと、渋々ながら引き下がってくれた。
「王都に来てから、初めて出すわね……」
呟きつつ、出した式神を見る。
この式神は、フェリシアに似た女性の造形をしている。胸に手を充て、式神は丁寧に礼をした。
「私の護衛をお願い。昼頃にはこの家に戻りますわ」
命令を理解したのか、式神は再度深く礼をする。
×
外の広場に差し掛かったところで。
「おや、珍しいですね。休日ですか?」
噴水の前の段に腰掛ける、フロンスに出会った。
「そうですね。あなたは?」
「こう見えて、仕事中です」
彼の服装はどこか煌びやかで、不思議な雰囲気を持っている。いうなれば、芸人と占い師を混ぜたかのような……。
「……今日は、式神を連れていらっしゃるんですね」
「ええ、あまり出さないのだけれど」
言われて、フェリシアは我に返る。そういえば式神を連れているのだった、とも思い出した。式神はフロンスを有害だと判定していないようで、おとなしくフェリシアに付き従ったままだ。
「あなたによく似て、美しい式神ですね」
「冗談はおよしになってください。ですが、自慢の式神ですわ」
ふふ、とフェリシアは微笑む。式神をほめるのは、主人である者をほめているのと同義だ。軽く受け流しておく。
「あなたも呪猫の貴族なら、式神をお持ちですか?」
「ええ、他にも色々。私は式神より、精霊使いとしての素養があるので」
問うてみると、フロンスは意外な返答をした。
「まぁ、精霊使い? 本当に珍しいですわね」
「仕事に良く利用できるもので」
そう、フロンスは穏やかな声色で答える。
「お仕事……そういえばですが。あなたの職業は、何ですか?」
「私ですか? 吟遊詩人をしております。占術師もね」
見れば、周囲にある道具はすべて占いの道具と楽器類だ。
「……そう、なのですね」
情報屋とは言わなかった。そこまで考えて、メフィストが『他の者には内緒にしている』と言っていたことを思い出す。情報屋、と言う職業は恐らく表で堂々と言えるようなものではないのだろう。
「どうしました? 呪猫当主までとはいきませんが、当たると噂ですよ」
考え込んだフェリシアに、気遣うようにフロンスは告げた。それはどこか冗談めいていて、なんだかおかしく思う。
「占って差し上げましょうか?」
「せっかくです、お願いしますわ。それに、あなたのお仕事の邪魔をしてしまったし、そのお詫びもかねて。一番高いものでも構いませんわよ」
フロンスの提案に、フェリシアは乗った。冗談めかして答えると、どこか安心したように彼は微笑む。
「……では、生年月日と魔力を。できれば住所と端末の番号も教えて頂けたら」
「あら、けっこう聞くのですね」
「精度を上げるためです。どうか、ぜひ」
「仕事以外には利用しませんから」と言われ、契約書まで出してきたものだから『ちゃんと仕事をしているらしい』と感心した。契約書には署名をした。
「片手を出して。手相を見せてください」
言われるがまま、右手を差し出す。彼は手を取り、少し見つめた後に「結構ですよ」と手を下げるよう告げた。
「あなた、悩み事がありますね?」
言われ、「占い師の常套句ですわね」と返すと、フロンスはくすくすと笑う。
「魔導書店の経営のことですよね? あなたの不安は、じきに晴れる。あなたは大丈夫です。安心なさい」
「……ありがとう、ございます」
さらりと不安を当てられ一瞬驚くも、「(だけれど、店の常連ですものね)」と思考する。管理人候補だ、とヨハンにも紹介されていたし容易に分かるだろう。
「ところで、あなたは『精霊達を仕事で使う』とおっしゃっていたけれど」
「ああ。吟遊詩人としての場合、楽器を演奏させることも、見世物に使うこともできるのですよ」
問えば、意外とあっさりとフロンスは答えてくれた。
「なるほど、精霊は式神と違って通常は見えませんもの。不思議に映るでしょうね」
「そうですね……あなたには見えますか?」
「分かりませんわ。でも、最近は目が良くなりましたから」
フェリシアがそう答えると、フロンスは懐から厚い本を取り出し開いた。とたんに、フロンスの肩辺りに小さな獣が姿を現した。
「見えますか?」
「あら、可愛らしいわね」
「狸ですね。あとは猿、虎、蛇などを扱えます」
言いつつ、本を閉じる。それと同時に、肩に現れた獣は姿を消した。
「まぁ、4体も? すごいですわ」
「ふふ、身内にはもっとすごい方がいらっしゃるので。あまり褒められ慣れていないのです。ありがとうございます」
フロンスは実に嬉しそうに笑う。それを見て、なんだかフェリシアは安心した。ほどなくしてフロンスと別れた。
思いがけない出会いはあったものの、フェリシアは穏やかに休日を過ごしたのだ。
実はこの作品、大分甘さ控えめなのです。
よって、糖度マシマシにした続編(R-15程度)でも書いてみようかなと思っています。
要約すると、恋人的接触が多めの話……みたいな。
まだ構想があるだけで書ける状態ではありませんが。
「読んでみたい!」と言う方はぜひともこの作品の下にある☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけたらと思います。
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