第165話 レイン無双
「女将さん、ものすごく飲んでたけど大丈夫だったかな?」
温泉で月見酒と称してお酒を飲んだ私。
女将さんが出してくれた清酒は穀物の風味が感じられつつ、スッキリとした味わいでとても飲みやすかった。
女将さんは徳利を何十本も空にしていたので、少し心配だ。別に徳利ごと飲んでたわけじゃないし、静かに飲んでたはずなのに消費がものすごく早かったんだよね、不思議。
「あやつは只者ではあるまい。問題なかろう」
「それもそっか。二人は大丈夫?」
昨日はアークもレインも相当女将さんに飲まされていた。
エアも飲みたがったけど、まだ赤ん坊なので我慢してもらった。幻獣とはいっても体に良くないかとしれないからね。
代わりにフルーツを絞ったジュースを出してあげた。
「酒を少し飲んだくらいで、災厄と呼ばれた我がどうにかなるはずがなかろう」
「お酒というものは初めて飲みましたが、料理と一緒にいただくと、より箸が進むのではないかと愚考します」
「全然大丈夫そうだね」
二人を見る限り、二日酔いになっている様子はない。もちろん私は超健康なので何も問題なし。元気いっぱいだ。
「おはよう」
「おはようございます」
朝食に呼ばれて行ってみると、女将さんはけろっとしていた。
お酒も強いらしい。
「今日はどこに行くのかしら?」
女将さんがお茶を飲みながら尋ねる。
「オークションの参加登録に行こうかと」
「そうね。そろそろ登録しておいた方がいいわね。会場に行くなら近くに蚤の市がたってるわ。いろんなものがあって楽しいと思うわよ。あと、そっちにはモンスターレースの会場もあるわ。気が向いたら行ってたら?」
「ありがとうございます。行ってみますね」
女将さんから情報を得た私たちは、オークション会場がある方へと向かった。
「市場とはちょっと雰囲気が違うね」
「なんといいますか。不用品を売っているように見えます」
「そうかもね」
女将さんに教えられた蚤の市は、テレビで見たフリーマーケットみたいなイメージに近いかも。
一定の区画ごとに仕切られていて、その区画を参加者に貸し出し、ゴザを敷いてその上に各々が持ち寄った商品を並べて売っている。
主に自分に不要になったものや、倉庫や蔵などに眠っていた物を売りに出しているみたい。
ゴミみたいに見える物から、めちゃくちゃ高価そうに見える物まで、本当にいろんな物が売られていた。
ただ市場とは違い、呼び込みらしいことはせず、欲しい人から店主に声をかけて値段を交渉するスタイルみたい。
そのおかげか、市場のように人で溢れかえっているという感じなくて、ゆったりと見て回れるだけのゆとりがある。
「何か面白いものはないかな」
こういう場所に限ってなんかとんでもない掘り出し物が混ざっている、というのはお決まりのパターンだ。
「ピィピ?」
「それはただの置物かなぁ」
エアが見つけたのは熊が鮭を捕まえている木彫りの置物。
どう見ても日本で作られた物に見えるけど、なんでこんなところにあるの?
「お嬢さん、その置物に興味があるのかい?」
「はい。どこでこちらを?」
「これは爺さんがどこかから拾ってきた物でな。出所は分かってねぇんだ。倉庫で埃を被ってたから売りに出したわけよ」
「なるほど」
この人もどうやって手に入れたのかは知らないらしい。もしかしたら、同じ日本人の転生者の手がかりがあると思ったけど、残念だなぁ。
「どうだい? 今なら安くしとくよ」
「いえ、やめておきます」
「そうかい。それは残念だ」
懐かしいとは思うけど、欲しいわけじゃない。
先へと進む。
「マスター、あの絵画は名のある作家の絵画だと思われます」
「分かるの?」
レインが一つの絵画を指して呟いた。
「はい。スケール、内容、絵の具の材料、経年による変質などから察するに数百年前の絵画だと推定されます」
「へぇ」
「鑑定を依頼し、オークションに出せば高値で取引されるかと」
「それじゃあ、買っておこうか」
資金が心許なくなっているので、少しでも資金が増えるのなら大歓迎だ。
その商品の販売主と交渉して、言い値で購入した。それなりの値段だったけど、想定販売額から考えると微々たる物だったから問題なし。
「あの装飾品は数百年前の──」
「あの鎧は名のある鍛治師によって──」
「あの剣は魔法が付与された魔剣で──」
それからレインが次々と掘り出し物を発見し、その全てを購入していった。
ふっふっふ、これで資金もゲットできるはず。鑑定してもらって、これも全部オークションに出品しよう。
「マスター、あの古い本から強い力を検出しました。購入をお勧めします」
「どんな本なの?」
「分かりませんが、魔導書の類かと」
「それじゃあ、買っておこうか」
最後に魔導書らしきものを購入し、私たちはオークション会場へ。
「すみません、参加したいのですが」
「誰かのご紹介はございますか?」
「これで大丈夫ですか?」
「……承りました。別室へどうぞ」
受付らしき人にメダルを見せたら、その人は一瞬顔色を変えた後、私たちを奥に案内した。
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