表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

164/172

第164話 裸の付き合い

「ごちそうさま。本当に美味しかったわ」


 食事を終え、女将さんがニッコリと笑ってお礼を言ってくれる。


 やっぱり誰かに感謝されるのは嬉しい。心が温かくなる。


 あっ、そうだ。


「いえいえ、お粗末様でした。もしよければ、レシピもお教えしますが」


 女将さんにはお世話になってばかり。


 何かお礼ができないかと思っていたけど、レシピならちょうどいい。


 女将さんも気に入ってくれたみたいだし、ここに泊まりにくるお客さんに出す料理のレパートリーが増えるのは悪いことじゃないはず。


「いいのかしら? 私も食べたことのない料理ばかりだったのだけど」


 この世界ではレシピはかなり価値の高いもの。女将さんが言いたいことも分かる。


 だけど、女将さんにはそれでも足りないくらいの恩がある。何も問題ない


「はい。美味しい料理はたくさんの人に食べてほしいので、ぜひ広めてください」

「ふふっ、あなたって面白い子ね。普通ならレシピを隠すものでしょうに。なんとなく、これだけ面白い仲間たちが集まってくるのも分かる気がするわ」

「そうですか? ありがとうございます」


 ちょっと呆れられているような気がしないでもないけど、良しとしよう。


「後片付けはうちの道具たちがやっておくから大丈夫よ」

「分かりました」


 食事を終えた私たちは、今日も地下の鍾乳洞温泉を堪能する。


 疲れていないはずなのに、疲れが温泉に溶けだしているような気がするのは不思議な感覚。いつまでも入っていたい気分になる。


「失礼するわね」


 ぼんやりと浸かっていると、女将さんの声が聞こえてきた。


「あれ、女将さんもここを使っているんですか?」

「えぇ。お客さんなんてほとんど来ないから」

「そうなんで――」


 女将さんを視界に入れた瞬間、言葉を失った。


 服を着ている時とはまた雰囲気が違う。濡れ羽色の髪を下ろし、その豊満の体を惜しげもなく晒していた。


 なんていったらいいんだろう? サキュバス? もう全身から色香が溢れ出しているんだよね。エリアやカリヤさんみたいに大きな果実を二つぶら下げている。


 男の人が見たら、一瞬で虜にされそう。


「お邪魔だったかしら?」

「い、いえ、そんなことありませんよ」


 まさか女将さんの体に見惚れていました、なんて言えない。


「それじゃあ、ご一緒させてもらうわね」

「私に断る必要なんてないですよ。女将さんはここの主ですからね」

「ふふっ、それもそうかしら?」


 女将さんが掛け湯をして、温泉に足から入る。


 その仕草一つ一つが大人の色香を感じさせた。私も成長したら、あんな風な色香を出せるようになるんだろうか。


 別に出したいわけじゃないけど、少し憧れてしまった。


「お風呂と言ったら、やっぱりこれよね」


 女将さんがパチンと指を鳴らすと、生きた道具によって木桶に入った徳利とお猪口が運ばれてくる。


 コミカルな動きが可愛らしい。


 いや、そんなことよりも――


「そ、それってもしかして日本酒ですか?」


 私は女将さんに詰め寄る。


 徳利とお猪口といえば、それしかない。


「え? 日本酒? い、いえ、清酒よ?」

「清酒!!」


 そっか、日本酒は日本があるからそう呼ばれるのであって、本来は清酒か。


 お米があるから日本酒もあると思っていたけど、今まで見つけられなかった。料理酒を白ワインなどで代用して来たけど、そんな日とはもうおさらばだ。


「えっと……飲みたいの?」


 ジッと見ていたせいで勘違いさせてしまった。


「いえ、料理に使えるので!!」

「ああ、そういうことね」

「もし、できたら買えるところを教えてもらえないでしょうか」

「構わないわ」

「ありがとうございます!!」


 これでまた一つ新しい食材のある場所を突き止めた。


「それはそれとして、一緒に飲まない?」

「いえ、お酒は……」


 私はまだ未成年。お酒を飲む年じゃない。


「嫌いだった?」

「いえ、まだお酒を飲める歳じゃなくて……」

「え、あなた何歳なの?」

「多分十六です」

「何言ってるの? もう飲める歳じゃない」


 女将さんが呆れるように言った。


「え、あれ、あっ、そっか。それもそうですね」


 そういえば、こっちの世界の成人は十五歳。前世の記憶のせいで勘違いしてしまった。


「どう? せっかくだから月見酒としゃれこもうじゃない」

「月見酒? ここは屋内ですけど……」

「これで問題ないわ」


 女将さんが指を鳴らした瞬間、景色ががらりと変わる。


 温泉の外には、崖上から見下ろしたような良い眺めが広がっていた。


 転移? 幻覚?


 よくわからないけど、一瞬にして周りの風景が変わった。


 本当に女将さんはなんでもありだね。


 女将さんが湯船に浸かってお猪口を持つ。


「おつぎします」

「あらっ、ありがとう」


 自分でつがせるのもなんだったので、私がお猪口にお酒を注いだ。


「ほらっ、一緒に乾杯しましょう」

「本当にいいんですか?」


 やっぱり前世の倫理観が邪魔をする。


「いいのよ、ほらっ、持って持って」

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせていただきます」


 女将さんに促されてお猪口を持った。今度は女将さんが私にお酒をついでくれた。


「それじゃあ、この出会いに――」

「この出会いに――」

『乾杯』


 ――チンッ


 辺りに小気味いい音が響いた。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ