Spring has come.
「あの」
キャディが声を掛けたのは、陽菜がドライバーを手に取ってティーイングエリアに入ろうとした瞬間だった。
陽菜は激昂しそうになるのを堪えた。キャディの手にはAwazon超お急ぎ便の箱があった。
「Awazon超お急ぎ便は何よりも優先して」とキャディに頼んでいたのは、陽菜自身だ。
開封する。中には「あなたが10秒後に欲しいと思う商品をお送りします」という書面と共に、ゴルフのルールブックが入っていた。陽菜はそれを力任せに地面に叩きつけた。今更、確認することなど何も無い。
観衆がどよめく。陽菜がここまで荒れることは初めてだった。
9H時点で+3と、優勝争いから遠ざかりつつあった。負けられない試合。そう思えば思うほど、どうしても余計な力が入った。
陽菜はキャディと観衆に深々と頭を下げた。
深呼吸する。焦燥感はどうしても拭えなかった。もう一度ドライバーを握り、前を見据える。
480ヤード、パー5。バーディが最低条件だ。なるべく、遠くに飛ばしたい。陽菜は体を捻り、ドライバーを振り下ろした。
「ああっ!」
思わず、声が出た。ボールが、大きく左に曲がってOBエリアに向かっていく。陽菜は歯噛みした。これ以上、失敗出来ない場面だった。
「……ん?」
陽菜は足元にふらつきを感じた。いや、地震だった。地響きが腹の底に響く。選手にも観客にも動揺が広がる。
ふと、弾けるような音がした。陽菜は目を疑う。コースから、間欠泉が噴き出していた。
間欠泉は、陽菜のゴルフボールを遙か高く、雲の上まで飛ばした。
全員が、現状を理解出来ていなかった。視線は、一様に陽菜の打ったボールを追いかけていた。
10秒ほど経っただろうか。ボールは天から舞い降り、グリーンに落ち、2回跳ねてカップに入った。観衆も他のプレイヤーも呆気に取られていた。
陽菜はルールブックを拾った。




