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葬式未遂

 和寿の目に、涙は流れなかった。


 悲しくないわけでは無い。信じられないという気持ちの方が大きかった。




 祖父は、好奇心が人の形をしているような人間だった。年単位で興味の対象が大きく変わっていた。


 昨年はエレキギターばかり弾いていて、一昨年はひたすらフランス料理を作っていた。そして今年は、70歳という年齢でありながら船舶免許を取得し、ほぼ毎週海釣りに出ていた。そんな生命力の塊たる祖父が、こんなに呆気なく死ぬなんて思いもしてなかった。ただ、死因が、自分で捌いたフグに当たったというのは、なんとなく祖父らしいと和寿は思った。




 葬儀会場は200を超える人で埋め尽くされていた。明らかに、親戚筋ではない人間も多い。


 あちこちで咽び泣く声が聞こえる。和寿の涙は出ない。体を小さく揺らす。初めて着る喪服は固く、いつまでも体に馴染まなかった。


 僧の説教が、終わりに差し掛かっていた。和寿は遺影を見つめた。いつもと変わらない、屈託のない笑顔の祖父がこちらを見ていた。祖父との思い出が、頭に駆け巡る。急に涙がこみ上げてきて、和寿はうつむいた。膝上に、見知らぬ小包があった。Awazon超お急ぎ便。そう書いてあった。




 音がしないようにゆっくりと開ける。祖父が大好きだったビールが2本あった。




「みなさま、最後に、故人の傍らに花を添えてあげてください」




 司会が、落ち着き払った声で言う。


 まず親類が、祖父の棺桶の周りに集まる。和寿は、祖父の顔を覗き込む。




「じいちゃん」




 振り絞るように、言った。


 祖父は、死んでるようには見えなかった。今にも、快活な声をあげて起き出しそうに思えた。


 渡された花が、掌の中で潰れていた。涙。込み上げて、祖父の顔に落ちた。




 祖父が、むくりと起きた。




「……ん?」




 会場の時間が、2秒ほど止まる。


 祖母が、悲鳴を上げた。それを口火に、あちこちで悲鳴が上がる。たちまち、騒乱は会場中に伝播した。




「なあ和寿、これは何の集まりだ」




 祖父は、なんともない風で言った。


 和寿はビールの栓を開けて、祖父に渡した。




「なんでもない集まりだよ」


「そうか、なんでもない集まりか」




 祖父は高らかに笑い、缶を高々と上げた。


 和寿も大いに笑った。流れる涙もそのままに、声を出して笑い、缶を掲げた。




「なんでもない集まり、乾杯!」




 一気に嚥下した。ただただ、苦味だけが口に広がって和寿は咳き込んだ。

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