第四話「ないしょの手紙」2
一回り以上年下ながら、遠慮のない物腰で屈託ない会話ができる占術師あかりに、菜奈は大きな親近感を覚えている。
あかりの鑑定部屋は、占術を施す時間は神秘的に灯りを演出して雰囲気を醸すが、照明を全点灯すれば、天井も壁もまったくのオフィスルームである。
「占術にふさわしい壁や照明に取り替えちゃうと、退去する時、原状回復にお金がかかるでしょ?」
サロンでの会話では、そんな裏事情をあっけらかんと明かすのだ。
占術テーブルも、明るい時に見れば、リビング向けの丸テーブルにモスグリーン色の不織布をテーブルクロスがわりにしているだけだ。
不織布を掛けているのは、テーブル上でタロットカードが滑って動かないようにするためで、こちらの理由には合理性があるにしても、在り合わせ感は拭えない。そんなあかりの主婦的な良い加減さにも好感を持つのだ。
今日、菜奈が訪れた時間は、陽も高い午後二時。長男と次女は、長女がみてくれるが、お昼寝の最中だから、手がかかることもほぼない。
占いついでに、世間話や身の上話で少々長居しても大丈夫だろう。
菜奈の訪問に合わせてくれてだろう、丸テーブルには紅茶とクッキーが用意されていたが、今日は対面にもう一人、あかりと並んで、高校生くらいの年頃の少女が座っている。
短い髪に、高価そうなカチューシャをつけ、大人っぽいような子どもっぽいような、不思議な雰囲気をもっている。
この少女の前で、今日の占いごとを話すものなのか気になったが、彼女も女の子。長女より少し年長と見えるし、女の子としての希求に共感をもらえたら奈菜も嬉しい。
長女の自慰の話と心配ごとを伝えている間も、少女は恥ずかしげな様子も見せず、時折、頷きながら、まっすぐ菜奈を見つめてくる。
その視線になにやら圧を感じるものの、あかりが同席させているのには理由があるのだろう。もしかしたら、あかりの内弟子なのかもしれない。
「母親になると、なんでも心配につなげちゃうものなのね」
わかったふうに、あかりはつづける。
「あたしは心配することないと思うわよ。自慰を覚えたら即ホンモノをってわけでもないし、女の子ならみんなしてることじゃない。あたしもそうだし、ヒ……あなただってそうでしょ?」
受けを振られた少女は、私に言わせるの?、と苦笑いして、まあね、とはじめて表情を見せた。
女の子の自慰を、後ろめたい暗黙のものから、みんながそうで、本当は共有の認識なのだと、はっきり示してくれたあかりの気遣いが菜奈には嬉しい。
少女の顔つきは、もう平然に戻っている。十代半ばくらいなら、照れも慌てもするだろうに、気持ちが据わっているのに菜奈は驚かされる。
「まあまずは占ってみましょうよ。嫌なトラブルが近寄ってきていないか」
落ち着いた少女の声に、あかりとは違う、頼もしさをいだいた菜奈である。
あろうことか、あかりのタロット占いは、これからの暗雲を示した。
あかりの眉間が、わかりやすく、険しいものに変わっている。
「できごとの内容はわからないけど、娘さん、トラブルの渦中に入る予兆が見えるわ」
途端に菜奈の顔色が蒼白になる。あかりのタロット占いを信用している菜奈は、一歩大人に近づいたと心和んでいた自分は暢気すぎたのではないか、と思わず唇を噛んでしまう。
「ト……トラブルって、事件とか、ありそうなの?」
心乱れた菜奈は、こう聞くだけで精一杯だ。
あかりの代わりに少女が答える。
「取り返しが利かないことになる前に、引き返すこと。これが最優先です。娘さんが今なにをしているのか、把握してください。トラブルに足を踏み入れようなら、全力で止めてください。それが娘さんの意に反しても。力ずくでも。それが親の責任ですよ」
厳しいことを諭す少女を、菜奈は一欠片も生意気には思えなかった。むしろ、あかりの方が目を丸くしたのが印象的ですらあった。




