犬の心獣 誕生
ーーーダンッ!
扉の間に座り込むコレットとそれを守ろうとする女性を背にソラが見つめる部屋の先に地面を強く踏み込み、立ち上がるスコーピオンを強く睨みつけた。
「……おい、デルタ=Ⅳ。貴様……我らを裏切るのか?」
「裏切る?最初から味方でなかった。
そして……敵となっただけの話だ」
「……そうか。ならば仕方ないな……」
スコーピオンは立ち上がり、ソラをじっと見つめると懐に手を突っ込み、何かを探す。
「……!」
「ああひょっとして、通信機を探しているんですか?
あなたの通信機なら、いつも左胸に締まっていたのを知っていたので、壊しておきましたよ」
「……ふっ」
ソラの言葉にスコーピオンは不適に笑いながら、懐にしまっていた折れて内部の部品が飛び出てコードが切れてしまっている通信機を取り出して強く握りしめて壊した。
「なかなか……やってくれるじゃないか」
「それほどでもありませんよ。
それより……少し失望ですね」
「なに?」
「自分たちが最強とほざいているに……あっさりと仲間を頼るなんてな」
「ッ」
「これならば、単細胞でありながら腕自慢で、正々堂々と戦うタウロス様の方が明らかに脅威となりますね〜。
そう思いませんか? 自称最強のスコーピオンさん」
「ッ! 人形風情が、調子に乗るなぁぁぁあ!!!」
ソラの挑発の言葉にプライドの高いスコーピオンは苛立ち、自分が侮辱されたことに腹を立て、床を強く蹴って大きく飛び跳ねて襲いかかった。
天井に届くほどのジャンプをし、天井を蹴り、長い爪をはやした手を真っ直ぐに伸ばしながら、隕石のような速度で一気に襲いかかってくる。
だが、『牛鬼』を使用し、現在ソラが持つ中で最もバランスの取れた力を体に纏っているため、そんな単調な攻撃を体を晒し、軽々と回避することができた。
しかし、スコーピオンもそれを読んでいたようで、自身が持つ長い尻尾をソラが避けた方に曲げてそのまま速度で尻尾のトゲを体に突き刺そうとした。
「『二人羽織』!」
その名前を口にすると体から溢れ出ていた魔力が消え、背中に鮮やかな羽織が纏われ、右手に突如現れた虹色の刀を強く握りしめ、尻尾のトゲ目掛けて刃を放ち、トゲを突き刺し、尻尾を貫いた!
「なに!?」
「はぁぁぁあ、たぁぁぁあ!!!」
自身の尻尾が貫かれたことにスコーピオンは驚きの声を漏らし、ソラが刀を尻尾に突き刺したまま剣を大きく振り上げ、そのまま勢いよく振り下ろし、長い尻尾を切り落とした。
ソラが刀を突き刺し、刀身を振り下ろしたことで勢いを失われ高谷より、地面に叩きつけられ、さらに尻尾を切り落とされたことにより、スコーピオンが持つ大半の力が失われた。
その上、ソラが突き刺したのは『二人羽織』によって現れた虹色の刀……。
スコーピオンの不安は続く。
「クッ……!? どういう、ことだ……。
力が……失われていく……」
二人羽織の最大の力は『相手の所有権の剥奪し、自分ものにすること』。
その力に限界は発見させていない。
「ッ! 思った以上にどす黒いな……」
力が失われていくスコーピオンの体が体そのものを構成する魔力がどんどんと抜け出ていき……、その魔力が次々とソラの体の中に取り込まれていく。
その魔力のどす黒い感覚に顔を顰めるソラ。
『これだけの魔力があれば充分だ』
そんなソラの中にいるソルガがその魔力に自身の光を放ってどす黒さを浄化させ、純粋なソラの魔力に変換させる。
だがその魔力は自ら新たな姿へと形を変え始めた。
それは以前、トロイが馬の形として体の外に現れた時と同じ。
そんな一瞬の戦闘を眺めていたコレットを守るように経っている女性はなぜ彼らが戦っているのか理解できず、ただ呆然と見ていることしか出来なかった。
そんな時、荷物の中に入っていたなにが突如として暴れ始めた。
驚いた女性はすぐになにが暴れているのかを確認するため、荷物を開く。
すると、荷物の中から一枚の小さなプレートが飛び出てきた。
なにも描かれていた透明なプレートは自らの意思でソラの方に飛んでいき、ソラの周りを漂い始めた。
ソラは目の前に浮かんでいるプレートに目が奪われていると、そのプレートがソラの体に突き刺さった!
「カハっ!?」
自身にプレートが突き刺さったことにより、苦しみの声を漏らすソラ。プレートはそのままソラの体が力を読み取っているのか……透明なプレートが真っ黒に染まり、プレートの中央には真っ白で三日月のような絵が描かれ始めた。
ーーーワオ〜〜〜〜〜〜ンッ!!
ソラの力として変換され、自ら形を変え始めた魔力が大きな遠吠えを上げた。
「!? 来い……『フィル』!」
トロイと同じであるならばと、ソラは響き渡った遠吠えをヒントに名前をつけて呼ぶ。
その呼び声に応えるように体に突き刺さった真っ黒なプレートが突然抜き出ると、プレートを中心に真っ黒な、影のような狼が姿を現した。
『グルルルっ!』
狼が姿を表すとスコーピオンの方を見つめる威嚇声をあげる。
「心獣!? あの子供が!?」
女性は心獣の狼の登場に驚き、子供の姿を思わず見つめてしまう。
「……いくぞ、フィル」
『ワンッ!』
ソラの声に応えるように狼のフィルが吠えると、その場で思いっきり飛び跳ね、ぐるぐると回り始める。その速度はどんどんと上がっていき、体が強く光り輝くと、ぐるぐると回っていた狼が巨大な大鎌へと姿を変えた。
回りながら降りてきた大鎌を手に取って鎌の刃を背後へ引きながら、武器を構えた。
「……なるほど……こう扱うのか」
鎌を構えながら、その鎌の力を理解するソラ。
鎌に自身の魔力を流し込むと大鎌の刃が真っ黒に染まり始める。
「力を失った貴様に、もはや反撃の手段はない。
この一撃で沈め。皇王と女王、二人の仇だ!」
アッシュとマリーを指した言葉を口にしたソラに背後から眺めていたコレットがぴくりと反応する。
「や、やめろ!」
「永遠の無の闇に落ちろ! 『冥界斬首』!」
慌てて止めようとするスコーピオンの声を聞かず、ソラは握りしめた真っ黒な大鎌を力一杯振り下ろした。
スコーピオンの体は真っ二つに引き裂かれる。そして引き裂かれた中央から斬撃の跡が現れ、亀裂となり空間に大きな穴を開く。開いた空間の先は暗黒で、引き裂かれたスコーピオンの体は吸い込まれるように開いた空間の中へと消えていった。
スコーピオンの体が空間の中に吸い込まれ消えてしまうと、その空間は自ら亀裂を閉じ、なにもなかったかのように消えていった。
その姿を最後まで見届けると、ソラは大鎌を支えにその場に膝をついた。
「……仇は……取りましたよ。アッシュさん……マリーさん……」
そんな呟きを漏らしながら涙を流す姿を、その光景を見ていた二人はただ静かに見つめることしかできなかった……。
誠に勝手ながら次回からの投稿は不定期にさせていただきます。
ここまで読んでいただいた方には申し訳ございせん。
可能であるならば、週に1度、投稿させていただきます。
これからも『空っぽの武装魔道士δ』をお楽しみください。




