第21話 モーリーのループ
俺たちが帰宅すると、オウルが玄関口で俺たちを待ち構えていた。
「先ほど、王弟殿下がお越しになりまして、応接室でお待ちです」
「えっ、先生が?」
俺たちが急いで応接室に入ると、先生は長い脚を組んでサイドテーブルに置いてあった『魔の森の歴史』の本を読んでいた。
「おっ、早かったね」
「先生、どうしたんですか?」
「君たちに、少しガイについて話をしておこうと思ってね……。あっ、あの後、みんなで話したかい?」
(ガイの話……?)
「少しだけ話しました。とりあえず、みんなの名前を呼び捨てで呼び合うことになったんですけど……。先生、昨日は俺たちに、アルには気を付けろって言ってたのに、何で今日は俺たちを関わらせようとしたんですか?」
(さすがモーリー。俺もそれは、気になった)
「昨日までは、そう思ってたんだけどね……。今日の4人を見てたら、もしかするかもなって、思ったんだよ。君たちが、アルジェントの思想を変えられるんじゃないかってね」
「そういうことですか……。あいつ、思ったより頑固に固まってる感じじゃなさそうだし、いけるかもしれないな……」
「それに、お前たち、意外に気が合いそうだしな」
(気が合いそうかなぁ……)
「あっ、先生、ガイについての話って?」
「……ガイが、今まで闇魔法を使わなかった理由だ」
「竜人は、火と闇の魔力を持ってるんですよね?闇の魔力だけ使わなかったっていうのは……?」
「彼は竜人の父親と、火の魔力を持つ人族の母親の両方の血が入っている。彼は、父親を恨んでいる。だから今まで、竜人が持つ闇の魔力を使わなかった……」
(恨んでる……?プライベートなことだから、これ以上は聞かないほうがいいかな……)
「えっ、何で恨んでたの?」
(モーリー!そこ、聞くの!?)
「竜人族は『番』に執着する。ガイの父親は、人族の番に婚約者がいたにもかかわらず、権力を使って攫うように自分の城に連れ帰った。そして、無理やり婚姻を結んだ……」
(……それって……)
「そしてその番……、ガイの母親は、彼を出産した後に自害した」
「……マジか……」
(酷い……。番っていう感覚は、人族にはわからないから……)
「……先生、彼はガーラ国の王族の血を引くのに、何でダリオン国に住んでいたんですか?」
先生は、大きくため息をつくと、俺たちに彼の父親について話してくれた。
「ガイの父親、セイランは、俺と兄の異母兄弟で、親父と竜人族長の娘の子だ。親父は竜人族長の娘と魔の森で出会った。彼らは番同士だったんだ……。そして、親父は番を城に連れ帰ったが、俺たちの母親である王妃の嫉妬から酷い嫌がらせを受けて、……そして、親父の強い執着で離宮に監禁され、その番は、息子を産むと、……すぐに自害した……」
(監禁……自害……)
「そしてその子、セイランは、秘密裏にダリオン国の辺境伯夫妻に預けられたんだ……」
「それは……、竜人の血、恨むかもな……」
「兄には子がいないが、側妃は娶らないと宣言している。王族に後継者がいないという事情もあって、兄はガイに、養子にならないかと打診しているんだ……。まだ彼からは答えを貰えていないが……」
先生が帰った後、俺たちは応接室のソファに寝転がって、今後の彼らへの対応をどうしていくか話し合っていた。
「アルは、ノクタリア国の王太子からどんな指令を受けてるんだろう……」
「前回のフルーラ辺境伯城の襲撃は、間違いなくお前の力の覚醒が目的だろうな……。アルに与えられた指令は……、覚醒したルキリアをノクタリアに連れてこいってことだと、俺は思う」
「そうだね……。ノクタリア国の王太子は、俺を新体制に改革した国の、象徴にしたいらしいしね……」
「あぁ。強制的に連れていくんじゃなくて、お前の意思で来させようとしてると思うけど……。あっ、ルキリア!洗脳に気をつけろよ」
「洗脳?」
「ヴァンパイア族は、魅了や精神干渉する魔法が得意だからな。それに、精神を操る魔道具も開発してるらしい」
(精神干渉……)
「モーリー、俺、ちょっと工房に籠るから、オウルに夕食はいらないって言っといて!」
「えっ?……急に、何を作るんだ?」
俺は、その日のうちに魔道具を完成させた。そして気がつくと、窓から朝日がさしていた。
俺は学院に向かう馬車の中で、昨晩作った魔道具のブレスレットをモーリーに渡した。
「これは?」
「精神干渉の魔法を弾く魔道具。念のため、モーリーの分も作った。俺……、作ってる途中で気づいたんだことがある」
「何を、気づいたんだ?」
「俺、道具に頼り過ぎだ……」
モーリーは、「今更何をいってんだ?」って感じで、呆れた顔をした。
「あぁ、俺もそう思ってたよ。お前、魔力無限なのに、なんで道具に頼るのかなって」
「……楽なんだよね、道具を使う方が……。でも怖いのは、道具の力は俺の力じゃないのに、道具を使って強くなれたような錯覚になること……」
モーリーは、「ん〜」と腕を組んで座席の背もたれに寄りかかった。
「道具は力を拡張して、強くなったような錯覚も生む。地の力を上げることは重要だけどさ、両方を意識的に使い分けるやつが一番強いんじゃないのか?」
「……使い分け」
「お前は、魔道具に依存したいんじゃなくて、魔道具を作るのが好きなんだろ?いいじゃん、好きなことやれよ。魔法の技術上げも、魔道具作りも、両方やれよ」
両方を手に取るという選択があるという言葉が、ストンと俺の中に落ちた。
「……あのさぁ、モーリーって、人生何周目かなっていうぐらい、的確に人を見るよね……、人の気持ちの動き方っていうか?」
モーリーは、俺の言葉に、一瞬、視線を泳がせた。
「……族長にも親にも言ってねぇけど……」
(んっ?)
「今回は、初めて『ルキリア』に出会ったからな……」
モーリーは、ブツブツとうつむいて呟いていたが、「言っといた方がいいか……」と言って、馬車内に防音の結界を張った。
そしてモーリーは、大きく深呼吸をして俺の目を見た。
「ルキリア、俺はお前に内緒にしてたことがある」
モーリーの真剣な表情に、俺も馬車の座席にしっかりと座り直して、モーリーの目を見た。
「いいよ。なんでも言って」
モーリーは、大きく深呼吸をした。
「俺はこの世界……、この、『モーリー』としての人生を繰り返してる。今回は、5回目だ……」
(えっ……、繰り返しって、ループ……?)
「ループ、だね……。原因はわかってるの?」
「……わからない。毎回、俺が親父から族長を継いですぐに、地下都市が襲撃されて、終わる……」
「誰に襲撃されたかは覚えてる?」
「はっきりとは、わからないんだ……。だけど毎回、最後に、俺の前に聖女が立ってた……」
(聖女……?聖エリス国……!? 救いの象徴のはずの彼女が、なぜ地下都市を?)
「でも今回は……、今までとは違う展開になってる。ルキリアと出会って、じいちゃんも外の世界へ旅に出た……」
「モーリー、詳しく話して。過去4回繰り返してる、モーリーの人生を分析する。モーリーが、族長を父親から継ぐまでにはまだ時間があるから、ループを繰り返す原因と、地下都市を守る策を考えよう」
モーリーは、俺の顔を見て、緊張していた表情を緩めた。
「……お前となら、ループの原因を解明できそうな気がする。あのブルーマウンテンで、お前と知り合ったのも、なんか偶然じゃない気がしてきたよ」
(時空間警察に捕まった俺が、時空のループに巻き込まれているモーリーに出会った……これはたぶん、偶然じゃない……)
「あっ、そういえば……、地底族って、なんで魔の森からブルーマウンテンに引越してきたのかな?」
モーリーが、目を大きく見開いて、俺を指差した。
「……あっ!ルキリア、それかもしれない……」
♢*♢*♢*♢*♢
その頃……
「アチっ!砂が……あ、熱い!」
「ラクダに初めて乗りましたが、なかなか乗り心地がいいですね〜」
「族長、私もラクダに……」
「んっ?向こうに何か『光る物』が……」
「えっ!族長、待って、置いてかないで〜!」




