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最後の旅の案内人 〜やり直しの世界へ〜  作者: megane-san


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第1話 異世界追放

 「『時空間法第34条、過去への干渉』に違反した重罪人として——君を“異世界への永久追放”とする」


「……は?」


「帰還は不可能」


「時空間警察?時空間法なんて規則、いつ……?」


「3020年に、タイムトリップが合法化されてから制定された。過去を荒らす者が、増えてきたからな」


「あっ、警部補。この方、未認可の量子加速器も使用しています」


「はぁ、こんな連中が多すぎて、俺たちは休日返上で仕事してんだ。早く終わらせて帰るぞ」

 


 

俺は、俺のたった一言で両親を殺した『あの日』をやり直すために――タイムマシンを作った。



俺は、3歳で量子力学を理解し、AIと会話していた。


――気づいた時には、両親は俺と目を合わせなくなっていた。


IQ180。


診断が出た日から、俺は”息子”じゃなくなった。


それからは、俺の世話は、家政婦のおばさんがするようになった。おばさんは優しかったけど、俺が欲しかったのはそれじゃなかった。


ある日、俺は勇気を出して、父に言った。


『お父さん……俺……一緒に寿司、食べたい』


我ながら、情けない一言だった。でも、それが精一杯だった。


父は笑ってくれた。「じゃあ行こうか」と言ってくれた。


――その帰り道で、事故は起きた。


 


「あんなことを……俺が言わなければ……」

 

俺は、あの日の俺を止めるため、タイムマシンの研究に没頭した。


ようやく完成したタイムマシンを試運転させて過去に到着したが、『2758年から来た未来人』と称して過去に干渉しすぎてしまい……、そして時空間警察に捕まった……。


 

彼らは俺に、『異世界追放』と告げた。

 

 

俺は、彼らに拘束されて、真っ白な空間に連れてこられた。

 

「……もう、いい。あの日をやり直せないなら、意味なんてない……」


そして、足元に真っ暗な闇の空間が広がると、俺は浮遊感を伴いながら、その中に落ちて行った。

 



『——見つけた』


「えっ……」


『お前は、また同じ過ちを繰り返すのか?それとも――』


その暗闇の中で、誰かが俺に話しかけてきたような気がした……。


『――今度こそ、救うか?――お前は、この力をどう使う?』


……気のせいだ。


俺は目を瞑り、何もかも、考えることを放棄して、それを無視した……。



♢*♢*♢*♢*♢

 

 


「おぎゃぁ、おぎゃ? (ここは、どこ……?) 」


今、丸裸の無防備な姿で、鬱蒼と木が生い茂る森の中に、俺は放置されている……。


湿った土と、嗅いだこともない獣の臭い……。28世紀のクリーンな都市部じゃ、ありえない環境だ。


視界が低い……、地面が、近い?


「お、お、おぎゃ…… (俺の体が……) 」


俺は、自分の短い手足を見て、しばらく呆然とした……。


だんだんと日が陰っていく森の中、とにかくここから動かねばと、グリングリンと左右に体を振って勢いをつけ、仰向けの状態からうつ伏せに寝返り、「ふんっ!」と手足を踏ん張ってハイハイの体勢をとった。


「おぎゃ!(よし!) 」


しかし、気持ちだけは前に進んでいるのだが、赤ん坊の歩みは遅かった……。


「おぎゃぁ…… (まったく前に進まない……。陽が落ちる前に何とかしないと)」


俺が途方に暮れていると、前方からガサガサと何かが向かってくる音がした。


(何か来る!逃げ場がない——)


視界の端に、落ち葉の山が見えた。


(……あそこしかない!)


俺は、まわりを見回して、こんもりした落ち葉の山を見つけると、それに向かって全力で「ぼふっ」と頭を突っ込んだ。


前方から来た足音が、俺のすぐそばで止まった。


「頭隠して尻隠さずか……」


(諺って……日本人?)


ガサッ、と巨大な影が差した。恐る恐る見上げると、そこには山のような大男がいた。

 

(デカい……。それに、体から黒い霧のようなものが漏れ出している)

 

「いきなりでっかい魔力を感知したと思ったら、こんな赤子だったとはな」


そう言うと、デカい男はゴツい手で俺を掴んで、胸元に無造作に入れた。


(痛いよ!……でもあったかい……)


俺はデカい男の胸元に入ると、暖かさに負けてウトウトと眠ってしまった。





「坊主、起きたか」


「おぎゃ? (ここ、どこ?) 」


「ここはフルーラ辺境伯城だ」


俺は、フカフカのベッドに寝かされていた。


ベッドに寝転がったまま、見える範囲でまわりを見回すと、結構ゴージャスな部屋にいることがわかった。


「おぎゃ、おぎゃ?(オジさん、だれ?) 」


「儂か?儂はこのフルーラ辺境伯の当主だ」


「おぎゃ〜 (当主!オジさん偉い人なんだね〜) 」


俺とオジさんが、何故か成り立っている会話をしていると、バタバタと駆けてくる音がして、バン!と勢いよくドアが開いた。


「父上!隠し子とは、どういうことですか!」

「ハン!いつの間に浮気しとったんじゃ!」


後ろから、髪の白くなった執事と思われる男性が、汗を拭きながら2人を追いかけて部屋に入ってきた。


「旦那様、申し訳ありません。説明する前に、お二人が部屋に突入されまして……」

 

ハァ〜とため息をついたオジさんは、「儂の子ではない。森で拾った」と2人に説明を始めた。




「この赤子は、落ち人でしたか……」


「いきなりでっかい魔力を感知して、急いでその場所へ向かったら、こいつが俺の目から隠れようと、自分で落ち葉に頭を突っ込んでおった。それに、儂もあの森に落とされたからな……。親父に拾ってもらえていなかったら、儂は此処にはいない」


「おぎゃ…… (オジさんもあの森に?俺と同じ追放者なのか?) 」


俺が腕を組んで(組んでるつもり)考えていると、2人の視線を感じて上を見上げた。


「この赤子は、わしらの会話が理解出来ているようじゃの〜」


オジさんの奥さんだと思われる女性が、俺のほっぺたをツンツンした。そして、その息子と思われる男性が、俺に話しかけた。


「赤子殿、私の話していることはわかるか?」


「おぎゃ!(わかるよ!) 」


「「「おぉ〜!」」」


「どうやら理解しているようじゃな」


(なぜか言葉も会話も理解出来るけど、俺はこれからどうしたら……)


俺の顔を見たオジさんは、俺の頭を撫でてから柔らかい布で俺を包んで抱き上げた。


「安心しろ。お前は儂の孫としてこの城で囲ってやる。お前を国に渡したら、いいように使い潰されるだけだろうからな」

 

「おぎゃ!(孫!) 」

「「「孫!」」」


「ルーク、この赤子は遠縁から養子を取ったことにして届出を出せ。お前は後妻を貰うことはしないと言っておったから、近々どこからか養子を貰う予定だった。これも何かの縁と思って、この子をお前の息子として育てろ」


「俺の息子……」


「ルーク、名前をつけてやれ」


「……では、ルキリアと」


ルキリアという名前を聞いた時、オジさんの奥さんは目を細めて目尻を拭った。

 

「ルキリアか……嫁の名前を入れたんじゃの。いい名じゃ」


オジさんは、真面目な顔をして俺の顔を覗き込んだ。

 

「ルキリア、今日からお前は儂らの家族となる。それでいいか?」


「おぎゃ、おぎゃおぎゃ!(ありがとうございます、よろしくお願いします!) 」



♢*♢*♢*♢*♢




フルーラ辺境伯領は、ガーラ国南端の半島にあり、四方を海と山で囲まれた孤立した領地で、

――そしてこの世界には、『魔法』があった。


俺を拾ったフルーラ辺境伯家の家族は、常識外れの力を持つ者たちだった。


じいちゃんは、国一番の闇魔法使い

ばあちゃんは、国随一の治癒師

父上は、騎士団を率いる火魔法の使い手

 


俺はこの世界の家族に大事にされた。


俺はヤギ小屋の裏手にある草原に座って、のんびりしたこの世界の景色を見ながら、前世の偉人の言葉を思い出していた。


『どんなに悔いても過去は変わらない。

どれほど心配したところで未来もどうなるものでもない。

いま、現在に最善を尽くすことである』


俺は前の世界で、何がしたかったんだろう……?もういい、考えるのはやめよう……。


そして俺は、もう過ぎ去った過去なんかどうでもいいと、前世での思いに蓋をした。


 


「おばあしゃま!たくさん絞れまちた!」

 

「ルキ!山羊の乳で全身ベタベタじゃ!ミルクより、風呂が先じゃ!」

 


俺はこの家で『普通の子供』のように育った。


そして――気づけば、魔法と前世の知識を使って、魔道具作りに没頭する日々になっていた。



 

 

3歳になった頃、父上がブルーマウンテンに増えてきた魔獣の討伐に向かうため、騎士団を従えて早朝から出発の準備をしていた。


「ちちうえ!」


「おっ!ルキリア、今日は早起きだな!」


ルークはルキリアを抱き上げると、頭をグリグリと撫でくりまわした。


「これ、おまもりでしゅ」


「ん?これは?」


俺は、まわりにいた団員たちに聞こえないように、父上の耳元で、こしょこしょと小さな声で説明した。

 

「簡易結界の魔道具でしゅ。この魔道具から30メートルの範囲に結界を張れましゅ。野営をするときに、ちゅかってくだしゃい」


身の安全を守るため、俺が持っている知識や技術はごく限られた者にしか明かされていない。


膨大な魔力と前世での技術を持っていることがバレたら他国からも俺を攫いに来るだろう。


落ち人は大きな魔力を持っている事が稀にあるらしいが、ばあちゃんは魔力測定器を壊した俺を呆れた顔で見ていた。


「ルキリア、ありがとう。お前、本当に凄いな!これがあれば、安心して野営ができる。大事に使うよ」


「ちちうえ、お気をちゅけて」


3年経っても、いまだに他人行儀な俺を、父上はいつも本当の親子のように俺を気遣ってくれた。


「ルキリア……、お前、もっと俺にわがまま言ってみろ……。いい子なんかじゃなくていいんだぞ、俺の息子なんだからな」


父上はそう言うと、おれの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「あっ……」


俺は、先日見た、波打ち際で父親に肩車された子が嬉しそうに笑っている風景が、頭に過ぎった。俺はそれがとてもうらやましかった……。


「あの……ちちうえ……帰ってきたら、いっしょに……」


言いかけて、俺は口を閉じた。


(ダメだ……わがままなんて……。俺は、『わがまま』を言って、前世の両親……殺したから……)


「なんでもないでしゅ……」




その日は、じいちゃんとばあちゃんと一緒に、大きく手を振って、父上が率いる騎士団の見送りをした。


「ちちうえ、いってらっしゃい!」


「おう!行ってくる!」


そう言って笑った父の背中を、俺は、笑顔で手を振って見送った。


その時の俺は、まだ知らなかった――再び、自分が大切なものを失うことになると。



そして、その頃――


父上たちが向かったブルーマウンテンの――その先では、黒煙が上がり、通常ではあり得ない”異常種”の魔獣が出現していた……。


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