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わがままを封印した規格外少年の、時空を巡る送り人伝 —Departures—  作者: megane-san
第1章 追放~覚醒

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第1話 異世界追放

俺は今、電車が頭上をガタガタと走る駅の高架下で、はるか未来の時空間警察に捕まっている。


「君は、『時空間法第34条、過去への干渉』に違反した重罪人だ」


「えっ、重罪人?」


「過去を変えて、死んだ者を生き返らせようとしていただろう」


「あっ、でも俺は……」


「あっ、警部補、この方、未認可の量子加速器も使用していますよ」


警部補と呼ばれた男は、俺の刑罰について書かれた公式文書をタブレットに表示させて俺に見せた。


「君は、異世界への転生刑となる」


「異世界?」


「はぁ……こんな連中が多すぎて、俺たちは休日返上で仕事してんだ。さっさと行くぞ」


時空間警察の2人は質問に答えることも無く、夕日がわずかに差し込む薄暗い高架下で俺を拘束すると、その場から俺を連れて消えた……。


 


俺は2758年から『やり直し』をするために過去へ飛んだ未来人だ。


IQ180と診断され、3歳で量子力学を理解し、AIと会話していた俺を――両親は気味悪がった。

 

それでも俺は、両親に嫌われないように、必死で「いい子」でいようとした。

 

だけど寂しくて……一度だけ、俺は勇気を出して、初めての『わがまま』を言った。


「お、お父さん……寿司食べに……行きたい」

 

我ながら、情けない一言だった。でも、それが精一杯だった。


父は驚いていたが、何年かぶりに、俺の顔を見てくれた。


「じゃあ……行こうか」


その帰り道、信号無視の大型トラックが俺たちの車に突っ込んだ――そして、前の座席に座っていた両親は亡くなり、俺だけが生き残った……。




「眩しい……」

 

時空間警察の2人に拘束されて、目が開けられないぐらい眩しくて真っ白な空間に連れてこられた。

 

(もう、あの日をやり直せないなら……俺には生きている価値なんか無い……)


俺の手の拘束が解かれた、と同時に――


「刑を執行します」


突然、足元の白い床が音もなく崩れて、俺は浮遊感を伴いながら、真っ暗な空間を落ちて行った。

  

(もう……どうでもいい……)


『——見つけた』


「えっ……」


『導く者……私の使命を担う者――』


暗闇の中で、誰かが俺に話しかけたような気がしたが……


俺は目を瞑り、考えることを放棄した……。



♢*♢*♢*♢*♢

 

 


「おぎゃぁ、おぎゃ? (ここは、どこ……?) 」


俺は今、丸裸の無防備な姿で、鬱蒼と木が生い茂る森の中に放置されている……。


視界が低い……、地面が、近い?


「お、お、おぎゃ…… (俺の体が……) 」


俺は、自分の手足を見て呆然としていると、どこからか「キェーッ」と獣の声が聞こえた。


(い、移動しなきゃ……)


俺は、全力で『グリングリン』と左右に体を振って、うつ伏せになり、「ふんっ!」と手足を踏ん張ってハイハイの体勢をとった。


「おぎゃ!(よし!) 」


しかし、赤ん坊の歩みは遅かった……。


俺が途方に暮れていると、前方からガサガサと何かが向かってくる音がした。


(何か来る!)


視界の端に、落ち葉の山が見えた。


(あそこだ!)


俺は、全力で落ち葉の山に「ぼふっ」と頭を突っ込んだ。


身を潜めていると、前方から来た足音が俺のすぐそばで止まった。


ガサリッ……

 

「頭隠して尻隠さずか……」


恐る恐る見上げると、そこには山のような大男がいた。


(えっ……ことわざって?……日本人!)

 

「いきなりでっかい魔力を感知したと思ったら、こんな赤子だったとはな」


(この大男……体から黒い霧のようなものが漏れ出している……)


男はゴツい手で俺を掴んで、自分の胸元に無造作に入れた。


(うわ、痛いよ!……でも、あったかい……)


俺は、恐怖心よりも暖かさが勝って、ウトウトと眠ってしまった。





「坊主、起きたか」


「おぎゃ? (ここ、どこ?) 」


「ここはフルーラ辺境伯城だ」


俺は、フカフカのベッドに寝かされていた。


「おぎゃ、おぎゃ?(おじさん、だれ?) 」


「儂か?儂はこのフルーラ辺境伯の当主だ」


俺と辺境伯が、なぜか成り立っている会話をしていると、バタバタと駆けてくる音がして、バン!と勢いよくドアが開いた。


「父上!隠し子とは、どういうことですか!」

「ハン!いつの間に浮気しとったんじゃ!」


後ろから、髪の白くなった執事と思われる男性が、汗を拭きながら2人を追いかけて部屋に入ってきた。


「旦那様、申し訳ありません。説明する前に、お二人が部屋に突入されまして……」

 

ハァ〜とため息をついた辺境伯は、「儂の子ではない。森で拾った」と2人に説明を始めた。




「この赤子は、落ち人でしたか……」


「おぎゃ?(落ち人?)」


「あぁ、落ち人とはな……別の世界から、この世界にやってきた者のことだ。儂も前世で亡くなった後、あの森に落とされた」


「おぎゃ…… (辺境伯もあの森に……) 」


俺が短い腕を組んだつもりで考えていると、2人の視線を感じて上を見上げた。


「この赤子は、わしらの会話が理解出来ているようじゃの〜。それに黒髪に紅目は、ハンと同じ色じゃ」


辺境伯の奥さんだと思われる女性が、俺のほっぺたをツンツンしていると、その息子と思われる男性が、俺に話しかけた。


「赤子殿、私の話していることはわかるか?」


「おぎゃ!(わかるよ!) 」


「「「おぉ〜!」」」


「どうやら理解しているようじゃな」


(なぜか会話は理解できるけど、俺はこれからどうしたら……)


辺境伯は、大きな手で俺の頭を撫でてから、柔らかい布で包んで抱き上げた。


「安心しろ。お前は儂の孫としてこの城で囲ってやる。お前を国に渡したら、いいように使い潰されるだけだろうからな」

 

「おぎゃ!(孫!) 」

「「「孫!」」」


「ルーク、この赤子は遠縁から養子を取ったことにして届出を出せ。お前は後妻を貰うことはしないと言っておったから、近々どこからか養子を貰う予定だった。これも何かの縁と思って、この子をお前の息子として育てろ」


「俺の息子……」


「ルーク、名前をつけてやれ」


「……では、ルキリアと」


辺境伯は、真面目な顔をして俺の顔を覗き込んだ。

 

「ルキリア、今日からお前は儂らの家族となる。それでいいか?」


(えっ……家族……)


辺境伯は、大柄で顔には刀傷があって強面だけど、俺の前世の両親より……優しい目をしてる……。


俺は辺境伯の目を見て、小さくコクリとうなずいた。



♢*♢*♢*♢*♢



フルーラ辺境伯領は、ガーラ国南端の半島にあり、四方を海と山で囲まれた孤立した領地である。そして、この世界には、なんと『魔力』があった。


「ルキリア、あの的を目掛けて、お前のでかい魔力を打ち込んでみろ!」


「うーーーん!『ぷぅ〜……』」


「ルキリア!力み過ぎだ!尻からガスしか出ておらん!」


辺境伯当主のじいちゃんは国最強の闇魔法使い。俺に魔力の使い方を教えてくれている。 


ばあちゃんは光の魔力を持つ凄腕の治癒師。


俺が魔力過多で、頻繁に熱を出して寝込んでいると、いつも付きっきりで看病してくれた。


俺の手を握ってくれる、ばあちゃんの手がとっても優しい……嬉しくて涙が出そうになるけど、俺はさりげなく手の甲で目を擦って誤魔化している。


父上は火魔法使いの騎士団長だ。じいちゃんとばあちゃんは、俺に過保護だけど、父上は違う……。


この間、父上の背中にガッチリとおんぶ紐で括り付けられて馬に乗り、そのまま魔獣討伐に連れて行かれた……。


俺は、死ぬかと思った……。


各自、教育方針が違うようだ。

 


この家の家族は、俺を変な目で見ずに『普通の子供』のように育ててくれた。


だけど俺は、必死に魔力コントロールを覚えて、この家族の役に立とうとした……無意識に、そう振る舞っていた。


 

そして――

気づけば、魔法と前世の知識を使って、魔道具作りに没頭する日々を送っていた。


ドガァァァァァーン!


「ルキー!また作業部屋を爆破させたのかえ!」


「ちょっと、魔道具に魔力を注ぎ過ぎちゃった……」 


俺の今の魔力量はじいちゃんと同じくらいあるらしく、魔力測定器を壊した俺を、ばあちゃんは呆れた顔で見た。

 

俺はこれから成長と共に、もっと魔力量が増えるらしい……。

 


そんな日々を過ごし、俺が3歳になった頃――

 

父上がブルーマウンテンに増えてきた魔獣の討伐に向かうため、騎士団を従えて早朝から出発の準備をしていた。


「ちちうえ!」


「おっ!ルキリア、今日は早起きだな!」


父上は俺を抱き上げると、頭をグリグリと撫でくりまわした。


「これ、おまもりでしゅ」


「ん?これは?」


俺は、まわりにいた団員たちに聞こえないように、父上の耳元で、こしょこしょと小さな声で説明した。

 

「簡易結界の魔道具でしゅ。この魔道具から30メートルの範囲に結界を張れましゅ。野営をするときに、ちゅかってくだしゃい」


「ルキリア、ありがとう。お前、本当に凄いな!これがあれば、安心して野営ができる。大事に使うよ」


「ちちうえ、お気をちゅけて」


「ルキリア……、お前、もっと俺にわがまま言ってみろ……。いい子なんかじゃなくていいんだぞ、俺の息子なんだからな」


3年経っても、俺は父上に甘えることができなかった。


父上は、俺の顔を覗くと頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「あっ……」


俺は、海辺で父親に肩車されて嬉しそうに笑っていた子の姿を思い出した。


「あの……ちちうえ……帰ってきたら、いっしょに……」


言いかけて、俺は口を閉じた。


(ダメだ……わがままなんて……。

俺の『わがまま』で……前世の両親は、死んだんだから……)


「なんでもないでしゅ……」



その日は、じいちゃんとばあちゃんと一緒に、大きく手を振って、父上が率いる騎士団の見送りをした。


「ちちうえ、いってらっしゃい!」


「おう!行ってくる!」


そう言って笑った父の背中を、俺は、笑顔で手を振って見送った。


しかし、その時――


俺の作業部屋の隅に置いてあった『試作品の魔獣探知機』が、赤く点滅を繰り返していた……。


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