第三十一話
私が二人に見惚れていると世麗那さんが声を掛けてくる。
「ねぇ、美空さん。こんな物を用意したんですどお使いになります?」
「ふぇ?…あ、アサヒだ!世麗那さん…!良いんですか?!」
二股尻尾の黒猫が肩で固定出来る様にカチューシャの様な物が縦方向にお腹の下に付いている。
肩乗りアサヒを再現出来るって事?嬉しいなぁー!
「えぇ。美空さんが喜ぶかと思って用意した甲斐がありますわ!瑠奈が頑張って下さいましたの。」
「大変でした…デザイナーから縫いぐるみ職人から何から何まで手配して駆け回った三日間でした…」
「なんか…すみません、ありがとうございます。」
世麗那さんの通退学の運転に家事や雑務、茜さんの所で書類整理なんかも熟している合間にこの肩乗りアサヒを発注してくれたってこと?!
そりゃ大変だったろうな…うん、大事にしよう。
「それだけじゃないわよ?じゃ~ん!あーしと初音からプレゼント。配信にはこれを着なさい!」
「ほえっ?!これハルカの服じゃないですか!」
濃紺に桜の模様を象った狩衣に似た衣装。
ゲーム内でフジミヤ家当主ソウジロウさんから宝剣を貰った後、贈られたものだ。
丁度エトワールさん達とバトった直後くらいだったかな。
イベントが終わったら正式にフジミヤ家当主に就任する事になっている。
嬉しくて着たままだったんだよねー。
まぁ装備としての性能も高いし、お気に入りだ。
「いつの間にこんな良い服を用意して下さったんですか?!」
「ハハハ、毬萌は美空さんの大ファンだからね。この衣装を配信で見た瞬間発注していたよ。それこそ、茜に協力を仰いで美空さんのスリーサイズや背丈などの情報を集めてこだわりにこだわった逸品だ。まぁ私は一部資金を出しただけでほぼ毬萌の独断先行だがね。良ければ着てくれないかな?」
「世麗那さん、桃瀬さん、毬萌さん、初音さんもありがとうございます!私、大切にしますね!」
「ほら、朔久耶も渡すものがあるんでしょ?さっさと渡しちゃいなさい?」
「あうッ…あの、美空お姉様。これ、受け取って頂けますか?」
掌サイズの桐箱をおずおずと懐から取り出す朔久耶ちゃん。
何その表情、凄い可愛い。
抱き締めたい…衝動を抑えて朔久耶ちゃんに微笑む。
「朔久耶ちゃん。開けてもいいかな?」
「はい。それ、姉の遺品なんです。そんな物渡してどうするんだって思われるでしょうけど美空お姉様に持っていて欲しくて…」
朔久耶ちゃんがそう告げながら桐箱の中身を取り出す。
淡く白い花を象ったきれいな髪留めだった。
「そんなことないよ。お姉さんと私を重ねたのかは分からないけど、朔久耶ちゃんが私に似合うってくれた物だもん。大事にするね。」
人によっては重く感じる人も居るだろうけど私はそうは思わない。
物なんて使わないと劣化していくだけだし。
それに贈り物はどのような物でさえ嬉しいものだ。
朔久耶ちゃんの気持ちも尊重してあげたいし。
「美空お姉様にその髪留めを贈ったのは亡くなった姉さんと、甘えていた自分との決別なんです。私はもう前に歩き始めました。それは美空お姉様と出会えたからなんです。馬鹿な私は親や周囲に迷惑を掛けてばかりでした。だから変わるんだって…!一人でも歩けるんだって天国の姉さんに伝えたくて」
そんな風に思ってくれてたのか。
朔久耶ちゃんの亡くなったお姉さんか。
どんな人だったんだろうか。
「朔久耶ぁー、ちょっと重くなーい?」
「うるさい、毬萌のくせに生意気だ!」
「まぁまぁ。朔久耶ちゃんの気持ちは嬉しいよ。大事にするね。」
そんなこんなで私の準備も整い、予定の20時に何とか配信が始まった。




