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第1話

「まただ……」


 どうして何度も何度も間違えるんだろう。

 彼らはこんなに違って。


「こんなに魅力的なのに……」


 --------------------------------------------------------------------------------


「ん……あ、れ……?」


 目が覚めると見たことのない景色が目の前に広がっていた。いや、正確には――。


「この背景、見たことあるような……」


 何度も見た記憶がある。なんだったっけ。喉元まできてるのに、あともうちょっとが出てこない。こんな感じの背景の作品、いっぱいあるから……。


「って、作品? ……夢?」


 右頬を軽くつねってみる。案の定痛かった。夢じゃないなら、もしかして。


「異世界転生ってやつ? え、私死んだ?」


 目を開ける前の記憶をどうにか辿ってみるが、何も思い出せそうにない。唯一脳裏に浮かぶのは、遊んできた数々のゲームの場面だけ。多分、その数々のゲームの中のひとつに飛ばされてしまったのだろう。我ながら飲みこみが早くてオタクであることを再認識する。


「鏡……は、ないから、窓ガラス……」


 似たような世界観や背景はいくつもあるけど、キャラクターの顔を見ればどの作品か絞れるはず。

 何故か目覚めたのが道端のベンチだったので、近くの何かのお店の窓ガラスを覗いて映る顔を確認する。


「え、誰……?」


 だいだいの作品はスチルをコンプリートするまでやり込んでいたはず。だけど、今、窓ガラスに映っているキャラクターに見覚えはなかった。

 乙女ゲームは、最近では本数も減ってしまったから発売されたものは全部プレイしている。同人作品にまでは手を出していないから、それだったら知らないのもうなずける。でも。


「背景は確実に知ってるんだよね……」


 それに、このキャラクターの描き方は私の大好きな桜ヶ丘(さくらがおか)先生のものだ。

 桜ヶ丘先生はいろいろなジャンルでキャラクターデザインやカードイラストなどを描いていて、乙女ゲーム界隈以外でも名をはせている。

 この世界観に、桜ヶ丘先生。何作品か候補がある。もっと決定打になるものがあれば、すぐに分かるんだけど……。例えば、キャラクターとか――。


「大丈夫?」

「え? ……あっ!」


 顎に手を当ててうんうんとうなりながら考えていたら、突然声をかけられてしまった。顔を上げると、そこには推しが立っていた。ちゃんと二人一緒に。


「ア……」

「あ?」

「アースクライン兄弟だぁ……!」

「あれ、どこかで会ったことあったかな……」


 僕と自分のことを呼ぶ男性が確認するかのように私の顔を覗きこむ。か、顔がいい……!

 アースクライン兄弟は『空色のエンパシー』、通称そらえんという乙女ゲームに出てくる双子のキャラである。兄はエイデン、弟はアルバートという名前で、エイデンは活発なキャラなのに対しアルバートは寡黙で少しかげのある性格をしている。


「あそこにいらっしゃるの、アースクライン様たちじゃ……?」

「本当だわ! 今日も見目麗しくいらっしゃるわ……」

「それに、この国でも一二を争う貴族の名家のご子息……わたくしのところに縁談とか来ないかしら……」

「あら、貴女はどちらがお好みなの?」

「どちらでも構わないわ! 全く同じお顔をしてらっしゃるもの!」


 いつの間にか周りに人だかりができていて、そこそこ身分が高いだろう淑女の会話が聞こえてきた。

 ……何も分かっていない。アースクライン兄弟は確かに一卵性の双子だから、キャラデザはほとんど一緒。そのせいで、彼らは制作陣にすらたくさん間違えられた。

 元々、『空色のエンパシー』はバグが多いゲームとして乙女ゲーム界隈では有名だった。とある選択肢を選ぶと進行不能になるバグだったり、確実にひとつのルートを選んでたはずなのに別ルートにいつの間にか行っていたり……。アースクライン兄弟のそれぞれのルートには致命的なバグはなかったが、キャラクターの立ち絵と名前の表記の間違いがそこかしこにあった。唯一救いだったのはスチルだけは間違っていなかったこと。制作陣は彼らのことを全く見分けられていなかった。


「……い、おーい、大丈夫ー?」

「あ、え、は、はい!」

「具合悪い? 僕が医者を呼ぼうか?」

「……あの」

「ん?」


 さっきから不思議だった。どうして、僕って言っているんだろう。だって、あなたは――。


「アルバート、ですよね?」

「何言って――」

「私が間違えるわけないから。どうして逆になっているんですか」

「……」


 私、神橋凛かみはしりんは双子過激派のオタクだから、絶対に間違えることはない。寡黙なアルバートは無理に笑っているせいで少しだけ口の端がプルプルしているし、明るいエイデンも静かにするのが限界なのかそわそわが見てとれる。


「あの笑っていらっしゃるのがアルバート様ですって? あの人は何を仰っているのかしら?」

「本当ですわね! しかもアルバート様を呼び捨てにするなんて……!」


 綺麗に着飾ったお嬢様方がざわざわとし始める。私に痛い視線が突き刺さる。

 でも、彼らのことを何も分かっていない人たちの言葉なんて戯言だ。


「……アルバート」


 近くにいた私とエイデンのフリをしているアルバートにだけ聞こえるようにエイデンが呟いた。


「君、ちょっと僕たちの屋敷についてきてくれる?」

「え」

「ふふ! アースクライン様方に無礼を働いたからですわ!」

「さすがに処刑はされないでしょうけど、何かしらの罰は与えられるかもしれませんね……」

「え、え?」

「ほら、こっちの馬車に乗って」


 何が何だか分からないで混乱したまま、エイデンのフリをしたアルバ―トに腕を引っ張られ彼らの家専用の馬車に無理矢理乗せられた。

 え、私、罰せられるの?

 ……と、とりあえず、転生先のモブキャラちゃん、ごめんね……?


11月25日(いい双子の日)に間に合わせればよかったと今さら気付きました……。



全5話で金曜日まで毎日投稿します。


もしよろしければ、評価やブクマなど頂けたら嬉しいです!

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