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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第六章 集合するおばさん編
167/361

あるある166 「意外な経験をしていがち」

朝靄が立ち込める王都マグナカウスの大通りをコトコトと馬の蹄鉄の音が響き渡る。

静寂に包まている王都はひんやり肌寒く朝まで飲んでいた酔っ払い達の姿がちらほら見える。

あと1時間もすれば東の空に太陽が顔を出すだろう。


「こんなに早く出発する意味はあるのか?」

「旅立ちと言えば早朝だろう。早起きは3文の得とも言うしな」

「ふわわわ。私はもう少し眠っていたかったですわ」


大きな欠伸をしながらセリーヌはまだ眠そうな目をこする。


「珍しいな、セリーヌが寝不足だなんて」

「昨夜、珍しくトイプーちゃんのテンションが上がっちゃってなかなか眠ってくれなかったんです。深夜、お散歩に出かけていたおかげで3時間ほどしか眠れませんでしたわ」

「トイプーか。最近、めっきり出番がなかったから拗ねていたのだろう」


今もセリーヌの膝の上で心地よさそうに寝息を立てながらトイプーが眠っている。


犬のくせに人間と同じように寝坊をするなんて番犬としては失格だ。

そもそもトイプーは番犬としては役だっていない。

セリーヌの傍から離れようとはしないし、ただ飯ばかり食らっているし。

たまに機嫌がいいと思えば散歩に連れて行けと煩いし。

犬は飼い主に似るって言うけれどすっかりおばさん化してしまったようだ。

その内、酒でも飲みはじめるかもしれない。


そんなあらぬ妄想を描いていると荷台からエマが話しかけて来た。


「おい、この荷物は何じゃ。食料ばかりではないか」

「それはセリーヌが買って来たんだよ。軽めのものって言っておいたのだけど余計な気を利かせて不要ななものまで買って来た。俺達はピクニックに行くんじゃないんだぞ」


御者台の上から後ろを振り返ると当のセリーヌは小さな寝息を立てている。


荷台の3分の1は食料や水などの荷物で塞がっていてエマ達は隙間に座っている状態だ。

まあ、太ってもいないし小柄だからさほど問題はないだろう。

それよりも問題はこれだけの食料を食べきれるかの方が問題だ。


小麦や米、肉は乾燥してあるから問題はないが野菜や卵、牛乳はそうはいかない。

常温で保存しておけばすぐに腐ってカビが生えて来る。

アンナでもいれば氷の魔法で冷凍保存もできるけれど今はそれが出来ない。

だから腐る前に食べきらないと捨てる羽目になるのだ。


「喉が渇いたのじゃ。酒はあるか?」

「おい、ロリっ子。お前は貧乳なんだから牛乳を飲め」

「お主、口の利き方がわかっていないようじゃな。いっぺん死ぬか?」


俺の心無い暴言を聞いてエマは腰に下げていた銃を抜いて銃口を頭に向ける。

冷たい金属の筒の感触が頭の皮膚から伝わって来て俺の肝っ玉を縮こませる。

冗談とは思えないような冷たい視線を向けて来るエマはさながら本気のようだ。


「わかったよ。俺が悪かった。だから、早くその物騒な物を仕舞え」

「わかればよいのじゃ」


指を引っかけて器用に銃をくるくると回すと腰のケースに銃を仕舞う、エマ。

その姿はさまになっていて手練れのガンマンを思わせるようだった。


「それにしても退屈ね。モンスターでも出てくればいいのに」

「仕方ないですわ。騎士団がモンスター狩りをしているのですから」

「平和が何よりと言うことだ」


退屈そうに大きな欠伸をしながらライレイが流れゆく景色を見つめる。

その隣で相槌をうつカスミも覇気のない顔をしながら伸びあがった。


二人の顔を見ているとこっちまで眠気が襲って来そうだ。

手綱はミゼルが握っているから俺は休んでいても問題ない。

ただ、おばさんに囲まれながら休むのも気が引ける。


「カイト。旅は長いんだから今のうちに休んでおけ」

「眠くもないし、夜眠れないと嫌だから起きてるよ」

「まあ、カイトがそう言うなら無理は言わないが」


手綱を握っているミゼルも退屈そうに大きな欠伸をする。


辺りを見回してもただの草原地帯が広がっていてむき出しの土の道が東へと伸びている。

はるか遠くに視線を向ければガシェック山脈が目に映り、粉砂糖をかけたような白銀の雪が見える。

雪が降るにはまだ早いが見ていると体感温度が3度ほど下がったような気がした。


今は季節にして夏の終わりぐらいで秋を感じさせるひんやりした風も時折吹いている。

あと3ヶ月ほどすればこの辺りにも雪が降るが街を染める程度でさほど積もらないそうだ。

ラビトリス王国でも雪は珍しいものだから一度見てみたい気持ちもある。

ただ、そうなるとエジピア王国に長期滞在することになるからダメだ。

シーボルト達も待たせているところだしこれ以上の延長は避けた方がいいだろう。


「で、お前らは今まで何をして来たんだ?」

「ワシらか。ワシは賞金稼ぎだ」

「賞金稼ぎだと!そんななりで?」

「不服のようじゃが本当じゃ。ワシがこれを握ったら鬼に金棒じゃ」


エマは銀色のマグナムを手にとると銃口を見つめながら誇らしげな顔を浮かべる。


知らぬ者が見たらちびっ子が銃をおもちゃにしているように見えて危なっかしい。

ただ、俺の目の前にいるちびっ子は曲がりなりにもアラサーのおばさんなのだ。

危険な銃とロリっ子おばさんの組み合わせなんて破壊力抜群だ。


「へーぇ。そうは全然見えないけどな」

「見た目ばかりに捕らわれるのは素人じゃ。お主もカイト軍団のリーダーを務めるならばもっと思慮深くならんとな」


半目を見開きながら疑るようにぼやくと気が障ったのかエマは逆に説教をして来た。


こういう風に切り返して来るのはさすがはおばさんと言ったところか。

とかく年上になると説教を垂れるのが趣味と言うぐらい垂れて来る。

少しばかり先に生きているからと言って人生の云々を解きたがるのは時期尚早。

たかが100年生きたとしても人間に理解できることなんて一握りぐらいしかないのだから。


「カスミは何をして来たんだ?」

「私は冥福寺で神事に携わっていました」

「巫女か?」

「よくご存じですね。その通り巫女をやってました」


俺が答えに行きつくとカスミの表情は明るくなり口角を引き上げ笑みを零す。


おばさんとは思えないほどしおらしく落ち着いた色気を漂わせる仕草に品がある。

お寺で神事に携わっていたぐらいだから普段から所作に気を配っているのだろう。

アンナ達にも見習わせたいぐらいだ。


「巫女をやっておったのに何でエジピアへ来たんじゃ?」

「それはエレンさんの噂話を聞いたからです。ゴルドランドのコロセウムで黒騎士ガイアと死闘を繰り広げた片乳の剣士エレンがいるって耳にしたものですから」

「変な通り名が広がっているな、エレンのやつ」

「それだけ有名な証拠です」


カスミは目を輝かせながらキャラクターにないような表情を浮かべながら興奮する。

そのリアクションだけ見ていると純粋なおばさんなんだろうと言うことがわかる。

カスミにとってエレンはただの大酒のみでなく立派な剣士像が描かれているのだろうから。

本性を知ったらドン引きするだろうが今は黙っておこう。


「長刀使いって言っていたけど寺で修業でもしていたのか?」

「冥福寺に伝わる刀術なので毎日、鍛錬をこなして来ました」


カスミは荷台に置いてある長刀の柄を手に取り刃に太陽の光を当てる。

その輝きに曇りは一切なく手入れがされている様子が見て取れた。


カスミにとって長刀は命の次に大事なものであるらしく手塩に磨きをかけている。

長刀の刃と柄の境には純白の布が巻きつけてあって長刀に品を醸し出していた。


カスミ曰く、その純白の布は冥福寺に代々受け継がれて来た布で普段から大切に祀られていると言う。

邪鬼を払う神聖な力を持っているらしく大事な行事の時には人目に晒される。

カスミが旅立つことを知ってから冥福寺の住職がカスミの無事を祈って巻いてくれたそうだ。


「じゃあ、実戦ははじめてと言うことか?」

「組手は経験がありますが実戦ははじめてです」

「それは問題だな。大問題だ」


実戦経験もないのにオーディションに応募するなんてある意味無謀だ。

経験豊富なエレンの前では経験もない者では話にならないだろう。

今でこそエレンがいなかったがもしいたらどうしなっただろうか。

エレンに相手にされずに落胆して帰ったかもしれないのだ。


それにこれから挑もうとしているのはダンジョンの探索だ。

モンスター情報を得ているとは言え実戦経験のない者がどこまで食らいつけるか。

1階層のモンスターで根をあげてしまうかもしれない。

そうなった場合は間違いなくカイト軍団への入団を断るつもりだ。


「私ではダメですか?」

「そうは言っていない。ただ結果が見えてるなって思っただけだ」

「それはダメと言っておるようなもんじゃろう」


不安げな顔を浮かべて俺を見つめるカスミに首を横に振って応えるとすぐさまエマがツッコミを入れて来た。


「せっかくここまで来たんです。それに応援してくれている人達もいるんです。挑戦させてください」


カスミはその場に正座をすると頭が床に付きそうなぐらい下げてお願いをして来る。

その丁寧な姿勢に反論する訳もなく、俺は速やかに首を縦に振って了承をした。


「まあ、カスミはオーディションで合格したんだから権利もあるしな。反対はしないよ」

「本当ですか!よかった」


驚きの声を上げながら嬉しさを隠せないカスミは安堵の表情を浮かべながら胸を撫で下ろす。


「よかったね。カスミ」

「ライレイ、ありがとう」


話を横で聞いていたライレイも自分のことのように喜んでカスミを祝福する。

いつの間にかこの2人には切っても切れないような繋がりが出来ていたようだ。


「そう言うライレイは今まで何をして来たんだ?」

「私?聞きたい?」


俺がライレイに話を振ると意味ありげな視線を向けながら挑発するように焦らす、ライレイ。

男心を熟知しているような、その態度からはおばさんの質の悪さが見て取れた。


ライレイはすぐに言葉を口にせずにもったえぶるような仕草をして来る。


「教えてあげてもいいけれど、カイトがお願いしてくれたらにするわ」

「それならいいよ。別に興味ないし」


そんなライレイをスル―するよに話を終わらせようとするとライレイが慌てながら制止して来た。


「あー。ちょっと、冗談よ。私は武者修行の旅に出ていたわ」

「武者修行って?」

「強そうな奴を見つけて1対1の勝負をするの。私が勝ったら賞金をもらう約束でね」


ライレイは拳をつき合わせながら勝ち誇ったような表情を浮かべる。

その様子だけ見ているとよほど勝利を重ねて来たように見えるが実際は――。


「で、勝率はどのくらいなんだ?」

「もちろん100戦100勝よ」

「盛っているだろう?」

「バレた?」


俺の鋭いツッコみに舌を出しながらおどけるライレイはいささかバツが悪そうだ。

すぐに事実を話して来てその場を取り繕った。


「100戦89勝よ。その内の6戦は引き分けだけどね」

「やるな、お主。勝率9割はなかなかできるものではないぞ」

「そう?そうよね。やっぱ私ってスゴー!」


エマに褒められて自画自賛しはじめるライレイは見ていられない。

調子がいいと言うかノリがいいと言うかおだてに弱い奴なのだろう。

まあ、どこまでが本当の話か分からないが素人ではなさそうなので安心した。


「それよりもカイト達のことを聞かせてよ。今までどんな旅をして来たかを詳しく」

「俺達のことは別にいいよ。それよりだ――」


俺がそこまで言いかけた時、ミゼルが馬車を停めて後ろを振り返った。


「カイト。この辺りで野宿をするぞ」

「まだ陽が高いぞ」

「ここから先はハーネイル川流域だ。川を渡るには水嵩が引いている朝方がいい。だから、ここで野宿をするんだ」


エジピア王国の地図を広げて現在地を確かめるとハーネイル側の西にいることがわかった。

ハーネイル川は川幅が1㎞ほどある巨大な運河でエジピア王国を裂くように南北に流れている。

乾期と雨期でも水嵩が変わるが朝になると水嵩が引く特徴を持った川だ。

それは上流にダムがある関係で昼間になるとダムを解放するため水嵩が増すのだ。


「あら、着きましたの?」

「何を寝ぼけているんだ。これから野宿をするから準備をしろ」

「まだ、太陽さんが顔を出していますわ」

「いいからとっとと準備をしろ」


寝ぼけ眼を擦りながら状況を確かめようとしているセリーヌの尻を叩いて動かせる。

トイプーの方は当の昔にお目覚めのようで馬車の周りをせわしなく走り回っていた。


「それじゃあ役割を発表する。俺とエマは薪拾いと火熾し。ミゼルとセリーヌは料理でカスミとライレイはテントの準備だ」

「順当な配分じゃな。異議なしじゃ」


俺の役割分担を聞いて納得したように頷くエマをはじめとする他のみんなも異議はないようだ。

それぞれの役割を聞いてさっそく準備に取り掛かりはじめた。


「よし、ロリっ子。薪を拾いに行くぞ」

「何でお主が指揮しておるのじゃ」

「俺がリーダーだからだよ。ブツブツ文句を言っていないで着いて来い」


この辺り一帯はハーネイル川流域になっていて森林など見当たらない。

薪を拾うにも木がなければ見つからないのでまずは木を見つけることからはじめた。


王都マグナカウスを出るときに予め薪を用意しておけばよかったのだがすっかり忘れていた。

まあ、今まで何も準備していなくても乗り越えて来られたから今度も大丈夫だろう。


そんなことを頭の中で考えている間にエマが先頭に立って木を探しはじめた。


「何をぼーとしておる。早く着いて来い」

「お前が仕切るな。リーダーは俺だぞ」

「リーダーならリーダーらしくせんか。お主を見ていると不安でしかたない」


すっかりリーダー気取りのエマは俺を従えるように命令して来るが、すぐさまツッコミを入れて制するとエマは心の中で思っていた不満を口にした。


確かにアラサーのおばさんであるエマからしたら俺は少しばかり心もとないだろう。

人生経験はエマの半分だし、世の中の神髄を見極めた訳でもない。

ただ、俺にはおばさん達にない「若さ」と言う最高の武器がある。

「若さ」は時に過ちを犯すものだが逆に言えば物怖じしない勇気を持っているのだ。

経験を積めば積むほど慎重になり過ぎて歩み出すことを躊躇ってしまうが俺にはその選択肢はない。

「無謀」と表裏一体の「勇気」だがこれが「若さ」と言うものだ。


「おばさんのお前に言われたかねーよ」

「いちいち引っかかる言動を吐く奴じゃ」


俺とエマは肩をぶつけあいながら急くように薪を探し回った。


木が見つからないので河原に転がっている流木にめどをつける。

河原に転がっている流木は軽くスカスカしているので薪にはもってこいだ。

ハーネイル川を上流にさかのぼるように歩き回り流木を集めて行った。


ものの1時間もしないうちに一晩分の薪を集めることが出来た。


「これだけあれば十分だろう」

「そうじゃな。あとはあそこまで運ぶだけじゃ」


エマは遠く離れているテントに視線を向けて大きなため息をはく。


夢中になって薪を集めていたためすっかりテントから離れてしまった。

距離にして500メートルはあるだろうか運ぶにしても一苦労だ。


俺は集めた薪を両手に抱えるとエマがツッコミを入れて来た。


「お主、それしか持って行かんのか。男なんだからもっと持って行くのじゃ」

「そう言うお前だってそれっぽっちじゃないか。人のこととやかく言う前に自分でやれ」

「ワシはレディーなじゃぞ。力仕事をさせる気か?」


エマは木が抜けたように抱えていた薪を放り出してその場にへたり込む。

非力を訴えかけているかのようなその態度に少し怒りが込み上げて来たので悪態をついた。


「レディーってのはな。もっと胸がデカい女が言うものなんだよ。お前のようにペタンコじゃレディーって言わないんだ。お前なんてロリっ子で十分だ」

「胸のデカさが女の魅力ではないのじゃ。ワシには器量がある。乳のデカい奴には引けはとらん」


ない胸を反らしながら自信ありげに啖呵を切るエマを見て残念な気持ちでいっぱいになった。

負け惜しみであることがありありと窺えて逆に憐れに思えて来て切なくなった。


「そうだな。そう言うことにしておいてやる」

「何じゃ。もう納得したのか?張り合いのない奴じゃ」


俺が素直に認めると拍子抜けしたのかエマは軽くため息を吐いて肩を落とした。


「薪運びは俺がするからお前はそこで休んでいろ」

「気が利くじゃないか。ワシはこの辺を散策しておる」

「あまり遠くへ行くなよ」


ロリっ子のエマを見ているとつい子供のように扱ってしまう。

どこをどう見ても見た目は中坊ぐらいにしか見えないから余計にそうなってしまうのだ。

ただ、中身は立派なおばさんだから混同することはないが、それでもあの風貌は紛らわしい。

いっそうのこと年齢を記した名札を胸の上につけさせておくべきか。


そんなくだらないことを考えながらせっせと薪運びに専念する。

さすがに500メートルの何往復はけっこう体力を奪って行った。


「これで終わりだ。ぶはーっ」

「カイトさん、凄いです。こんなにも集めて来るなんて」

「これだけあれば明日の朝まで十分もつな」


俺が河原から運んで来た薪の山を見てセリーヌとミゼルは手を休め満足そうに感心を示す。


調理台には細かくカットした野菜が切りそろえられ脇に干し肉の塊が置いてある。

その具材から予想するに今夜の晩御飯は野菜たっぷりの肉スープであることが窺えた。

スープ系の料理はセリーヌの得意とするジャンルだから今夜のメニューもそうしたのだ。


このところ飲食店の料理しか食べて来なかったからセリーヌの手料理は新鮮に感じる。

懐かしい母の手料理を想わせるような懐かしい味付けであることに不思議さを覚える。

セリーヌはセレスティア王国出身でラビトリス王国の料理を知っているはずもないからだ。

ただ、セリーヌはいいところのお嬢さまだから嗜みとして世界各国の料理を習ったのかもしれない。


肩で大きく息を尽きながら休憩をとっているとさっそくミゼルの注文が入った。


「休んでいるところ悪いが、火熾しを頼む」

「まだ働かせる気かよ」

「火がなければ料理は出来ないからな」

「仕方ないな。ちょっくらやるか」


俺は重い腰を上げて火打石を取り出すと火種にする乾燥した草を軽く丸める。

そして火打石を弾きながら火花を散らして火種の草に火を点けた。


この作業も手慣れたもので冒険をはじめてからすっかり板についた。

火熾しは俺の役割になっていたから当たり前のように身に着いて、最初は30分もかかっていた作業が今では3分で済むまでに成長した。

俺の中では剣術よりも成長の伸びがいい技のひとつになっている。

失敗を繰り返しながら反復練習をして来た賜物だ。


火種に着いた火の粉に小さく息を吹きかけて成長させて行く。

すると、白い煙が立ち上りはじめて一瞬でぼわっと火が燃え上がる。


「よし、うまく行った」


火種を薪の下にくべてから、さらにその上から乾燥した草や細い枝をくべる。

火種の火は乾燥した草や細かい枝に飛び移り火を大きくさせて行く。

そしてものの5分ほどで薪に燃え移り立派な焚火となった。


「出来たぞ」

「さすがはカイトだな。手慣れたものだ」

「これで料理が出来ますわ。カイトさん、ありがとうございます」


さっそくセリーヌは水を張った鍋にカットした野菜と干し肉を入れて火にかける。

ついでにお米を入れた飯盒を2つほど吊るし並べた。


「あとはご飯が炊くのを待つだけですわ」

「ここは私達に任せておけ」

「なら、俺はそれまで休ませもらう」


焚き火から少し距離をとって腰を下ろすとトイプーがじゃれて来た。


「おい、トイプー。あっちへ行ってろ。俺は休むんだ」

「ワンワン」


邪魔者を追い払うようにトイプーを遠ざけると何を考えたのか体をこすりつけておねだりをはじ目て来た。


王都マグナカウスを出てからは散歩らしいことをしていなかったのでストレスが溜まっているようだ。

ただ、今はトイプーの相手をしていられる余裕が俺にはない。

薪集めと火熾しと長旅ですっかり疲れてしまったからだ。


じゃれついて来るトイプーを押しのけて体を横にするとカスミが近づいて来てトイプーを抱きかかえた。


「散歩は私がして来ますからカイトさんは休んでいてください」

「いいのか?」

「テントは張り終えましたし料理が出来るまで時間がありそうですから」

「なら、私も行くわ。気分転換もしたいしね」


トイプーを優しく撫でているカスミの横でライレイも立ち上がり散歩を志願して来る。

人懐っこい性格が災いしてかトイプーは全く嫌がることもなく尻尾を振って喜んでいた。


「それじゃあ散歩はお前達に任せたぞ」


正式にカスミとライレイに散歩を命じると河原を散策していたエマが息を切らせながら走って戻って来た。


「カイト。凄い発見をしたのじゃ!」

「何だよ、そんなに慌てて」


エマは苦しそうに前かがみになりながら大きく肩で息をしている。

その様子から察するに思いもかけないものを発見したようだ。


ぜえぜえ息を切らせながら呼吸を整えるとエマは見つけたものの名を告げた。


「天然の温泉を見つけたのじゃ!」


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