あるある165 「ロリっ子なのに自信がありがち」
その頃、俺達はオーディションの優勝者3人を集めて説明会を催していた。
エミルのビジネスに携わっているアンナと魔王に捕まったエレンは抜きで話を進める。
エマ、カスミ、ライレイの3人は普段の服装に身を包みそれぞれの武器を携えている。
エマは銃使いと言うことで両方の腰に銀色のマグナムを2丁と背中にロングライフル銃を背負っている。
ゴシックロリータを思わせるような可愛らしい服装と対照的な姿に度肝を抜かれてしまう。
ピンク色のツインテールと合わせたらより可愛らしさが強調されてロリっ子冥利に尽きる姿だ。
それとは打って変わって着物と袴がベースのカスミは落ち着いた雰囲気を醸し出している。
白地の生地に大胆に描かれている桜模様は華やかさを感じさせてカスミの魅力と相まって倍増させている。
手に持っている武器は長い棒の先に刀のような刃が取り付けてある長刀だ。
ライレイはセクシー路線で攻めているようで足の付け根までスリットの入ったチャイナドレスを着ている。
真っ赤に彩られた生地には花模様があしらわれていて艶やかさを演出している。
エレンに並ぶHカップの豊満な胸のラインが協調されていて余計にエロい。
手には鋼製のナックルが装備されていて武道家であることを彷彿とさせていた。
俺は3人の姿を眺めながら改めて自己紹介をした。
「俺がカイト軍団のリーダーをやっているカイト・クライムだ。今後はリーダーと呼んでくれ」
「ふん。随分と弱弱しそうなリーダーじゃのう」
さっそく言っているそばからエマがフライングをして俺を馬鹿にして来る。
こう言うタイプの奴は後々つけあがるから最初が肝心だ。
誰がカイト軍団の中で一番の権力を持っているかをわからせることで従順にさせるのだ。
でなければカイト軍団としてまとまらないし、いずれチームはバラバラになってしまうだろう。
俺はエマの頭を撫でながらポンポンと叩いて力の差を見せつける。
「お前は俺よりも年下なのだから俺の言うことを聞け」
「誰が年下なのじゃ」
「お前だよ。お前しかいないだろう」
するとエマはない胸を反らして勝ち誇るように言ってのけた。
「ワシはこう見えても30じゃ。お主のはるか上を行く存在なのじゃ。敬意を払うならお主の方じゃ」
「30だって!嘘をつくな。ロリっ子でおばさんなんてことがある訳ないだろう!どう見たってお前は中坊だ!」
驚愕している俺とは違ってミゼルもセリーヌも落ち着いた表情で見守っている。
はじめからエマがアラサーであることを知っていたかのような落ち着きようだ。
ただ、あり得るものなのか不可思議に思う。
おっぱいが時間と共にたわわに実るならばロリっ子のおばさんなんている訳もない。
ロリっ子と言うブランドは若者だけに与えられた絶対的な権威なのだから。
俺がマジマジとエマのペタンコの胸を見つめているとエマが半目を見開きながら文句を言って来た。
「ワシの体に文句があるようじゃな」
「文句もありありだ。おばさんでロリっ子なんてある訳ないだろう!年齢を査証するな!」
「カイトさん。胸は大きくなる人とならない人がいるものですわ」
「そうだぞ。スケベのカイトなら知っていると思ったんだがな」
ひとりムキになっている俺を諭すようにセリーヌが言葉を添えると確認すようにミゼルが言った。
俺は今の今までおっぱいは時間と共に大きくなるものとばかり思っていた。
それはセリーヌ達がこぞってたわわだったから疑いもかけることもなかった。
ただ、今目の前にしているエマはペタンコの貧乳だ。
齢30でありながら幼児体系でいることはある意味悪だ。
せっかくあるロリっ子のブランドに傷がついてしまうのだから。
「俺は認めないぞ。ロリっ子は若者だけに許されたブランドなのだから」
「さっきっから失礼な奴じゃ。一度死んでみるか」
沸々と怒りを露わにしながらエマはマグナムを手にすると俺の頭にあてた。
おばさんロリっ子のくせに俺に逆らおうなんて甚だしい。
俺はカイト軍団のリーダーで絶対的な権力者なのだ。
誰も俺に逆らうことは許さない。
「誰が何と言おうとおばさんのロリっ子なんて認めないからな」
「カイトさん。そんなにムキにならなくても」
「多様性を受け入れろ」
ひとりいきり立つ俺を宥めるようにセリーヌとミゼルが諭して来る。
だが、その言葉を素直に受け入れることは出来ずに俺は頑なに拒んだ。
「あの、お取込み中もなんですが、自己紹介の続きをしませんか?」
「おう、そうだったな。俺としたことが」
畏まりながらカスミが恐る恐る言って来たので俺は我に返って自分を取り戻す。
おばさんでロリっ子と言うあり得ない組み合わせについ動揺してしまった。
これは時間がもたらしたバグと言うことで片づけておこう。
それよりも自己紹介をして親睦を深めることが大切だ。
「私はカイト軍団で弓使いをしているミゼルだ。よろしくな」
ミゼルは一歩前に踏み出してエマ達に手を差し伸べ握手を交わす。
「私はカイト軍団でプリ―ストをしているセリーヌです。カイトさんとはお付き合いしていますので余計なちょっかいは出さないでくださいね」
セリーヌはさも恋人気取りでエマ達に牽制をしながら線引きを計る。
後で慌てている俺など目にも入っておらず強引に恋人宣言をした。
「おい、何を言っているんだ、セリーヌ。俺達は付き合っていないだろう。勝手に恋人になるな」
「何じゃ、お主。年増好みか?」
半目を見開きながらじとーっとした眼差しを向けて来るエマの口元がうっすら歪んでいる。
まるで俺を小馬鹿にしているような顔を浮かべてマウントをとったかのようだ。
セリーヌがあっちこっちで恋人と謳っているからすっかり俺が年増好みになってしまっている。
あくまでおばさん達の気を惹きつけるのは特殊能力のせいであって俺の意志ではない。
誰が自分の倍も生きているであろうおばさんに恋心を抱くものか。
普通に考えてもあり得ないだろう。
おばさん達はもっと現実を見るべきだ。
「誰が好き好んでおばさんを選ぶんだ。あり得ないだろう、普通」
「お主はわかっておらんな。女は30からが旬なのじゃ」
「アンナみたいなことを言っているんじゃねえ。30はすでにおばさんだ」
自信ありげに啖呵を切って来るエマに軽くツッコミを入れながらおばさん達を否定する。
おばさん達はいつまでも自分が主人公だと思ているから何歳になっても今が旬。
どんな果物でも旬を過ぎて熟しきったら腐って土に帰るのが自然の摂理だ。
その摂理すら覆すようかのように今が旬と謳っているおばさんは癌と同じだ。
質が悪い。
すると、話を聞いていたカスミとライレイの顔が曇り出して冷ややかな視線を向けて来た。
「カイトさんはおばさんが嫌いですか?」
「嫌いも嫌い。おばさんといっしょにいたら精気を吸われるだけだからな。そのうち干からびてしまうよ」
「……」
俺の心無い言葉に傷ついたカスミは何も答えられず肩を竦めて小さくなった。
「私達、お邪魔のようですね」
「そのようね。ここまで嫌われたんじゃ仲間になってもしょうがないわ」
「じゃな。リーダーがこんなのでは先が思いやられる。ワシらは帰らせてもらう」
エマ、カスミ、ライレイの3人は踵を返して部屋から出て行こうとする。
「おい、カイト。本来の目的を忘れるな。私達はエレンの代わりを見つけるためにオーディションをしたのだぞ」
俺の胸ぐらを掴みあげて詰め寄って来るミゼルの言葉を聞いてエマ達の足が止まる。
そして振り返りざまツカツカと歩いて来ると俺の目の前に着てエマが問い正して来た。
「エレンの代わりを見つけるとはどう言うことじゃ?」
エマの探るような視線を受けて俺とミゼルはお互いの顔を見合わせる。
ミゼルは無言のまま首を縦に振って俺の口から真実を語るようにサインを送る。
その様子を見ていたカスミとライレイも疑いの眼差しを俺に向けて来た。
どうせこの場でエレンのことは伝えようと思っていたし話しても問題ない。
ただ、エマ達が真実を知ったらどう反応を返して来るかが問題だ。
エレンとの挑戦権を得るためにオーディションに参加したのだから、それがなくなれば諦めるかもしれない。
俺達の狙い通り仲間になってくれるかわからない状況では告白はある意味賭けみたいなものだ。
俺が言葉に詰まっているとセリーヌが一歩前に出て口を開く。
「私から話しますわ」
「いや、それは俺の仕事だ」
先走ろうとするセリーヌを制して後ろに下がらせるとエマ達と向き合った。
「もったいぶっていないで話すのじゃ」
「エレンは今はいない」
「いないとはどう言うことじゃ。買い物にでも行っておるのか?」
「そうじゃない。エレンは魔王に連れ去られてしまったんだ」
俺の告白を聞くとエマ達の顔が驚愕に変わりお互いの顔を見合わせて確認し合う。
そして俺に視線を戻すと話の先を知りたいと言うような顔をして関心を向けて来た。
「エレンはの居場所はわかっておるのか?」
「いや、全くわからない。エレンがどうなってるのかもわからない」
魔王のことだからエレンを実験台にしてアンデッド化を図るだろう。
エレンのアンデッド化に成功すれば最強の戦士が造れるのだから。
次に俺達が魔王と合う時はエレンが敵に回っているかもしれない。
だからこそ、エレンに代わる戦士が必要なのだ。
「なるほどな。それで私達に白羽の矢が立ったと言うわけか」
「私達はエレンさんの代わりなのですね。正直、複雑な気持ちです」
「カスミは考え過ぎよ。エレンと再会出来ればエレンと戦える訳だから問題ないわ」
複雑な面持ちを向けて来るカスミをよそにライレイは前向きな発言をする。
「そうじゃな。ライレイの言う通りじゃ。お主の望み通りカイト軍団に入団するのじゃ」
「いいのか?」
「あたり前じゃ。ワシらはエレンと戦うためにここへ来たのじゃからな」
エマは口角を上げるとない胸を反らしながら同意を示す。
それに呼応するようにライレイも頷いてから右手を差し出して来た。
「私はライレイ・スーよ。武道家をやっているわ」
「近接戦闘タイプか。歓迎する」
俺はライレイの手をとり固く握手を交わして入団を了承する。
すると、エマも右手を差し出して来て握手を求めて来た。
「ワシの名は知っておるだろうが改めて言う。エマ・ラミネスじゃ。銃使いをしている」
「お前が加われば戦術の幅は広がりそうだからな。期待しているよ」
それに習うようにカスミも右手を差し出して来たが浮かない顔をしている。
ある意味、俺達がカスミ達を騙してオーディションを行ったのだから無理もない。
責めるならばオーディションを企画したアンナを責めるべきだ。
「カスミ・サオトメです。長刀使いをしています」
「気持ちは察するけど、その決断を感謝する。カイト軍団の主力になってくれ」
「期待に添えるように頑張りますわ」
俺の言葉を受けてカスミの表情から曇りが消えると前向きな発言をして来た。
「あと、カイト軍団の主力にアンナってやつがいるんだけど今はビジネスで忙しいから不在だ」
「オーディションの主催者か。ぜひ、真意を問いただしたいと思っていたがまた今度じゃな」
少しいきり立ちながら言葉を発するエマの瞳の奥は燃え盛っている。
騙されていたことに腹を立てているようでアンナを問い正そうとしていたのだ。
矛先がアンナに向かったことでホッと胸を撫で下ろした俺は話を前に進める。
「俺達、カイト軍団に入団してくれたことを感謝する。これで戦術の幅が大きく広がった。俺達は魔王との再戦を果たすべく冒険をするのだが、まずはお前達の実力が見たい」
「ワシ達と勝負するつもりか?」
「いや、モンスターを討伐して実力を図ろうかと思っている」
「じゃが、エジピア王国にはモンスターがおらんじゃろう」
俺の提案にすぐさま反応したエマは最もな疑問を投げかけて来る。
エジピア王国では定期的に騎士団がモンスター狩りをしているのでモンスターがいない。
全くいないわけではないが出会う確率はかなり低くい。
だから、エジピア王国には冒険者が少なくギルドも閑散としている。
もっぱら冒険者達はダンジョン攻略をして小遣いを稼いでいるのが現状だ。
俺もダンジョン攻略をしてエマ達の実力を図ろうと思っている。
「ダンジョンにはモンスターがいる。王都マグナカウスから南東に言った場所にラナナコールと言う地下ダンジョンがある。そこを目指すことにする」
「ラナナコールと言えばすでに攻略されているはずだが」
「だからいいんだよ。腕試しをするにはちょうどいい」
疑問を呈して来たミゼルの言葉を上書きしてラナナコールダンジョンを目指すことを示唆する。
ちょうど壁にはエジピア王国の地図が張られてありラナナコールダンジョンのポイントにピンを刺した。
ラナナコールのダンジョンまでは王都マグナカウスから馬車で3日の距離だ。
途中にあるガジェック山脈は通り抜け出来ないのでイスタトールを目指して進むことになる。
なので実際にかかる時間はプラス1日を見た方がいい。
俺は用意していたラナナコールダンジョンの断面図をテーブルの上に広げる。
「これがラナナコールダンジョンの断面図だ。断面図の通りダンジョンは5階層で構成されている。俺達は裏ルートを通りラナナコールダンジョンの最下部に、この玉を置いて来る。お前達はひとりずつ正規ルートを通って最下部にあるこの玉を持って来るんだ」
「そんな造作もないことわざわざせんでもいいじゃろう。ワシらの実力は折り紙つきじゃ」
「口では何とでも言える。俺は実際にお前達の実力が見たいんだ」
エマ達を見る限りではそれなりの腕の持ち主であることが窺えるがあくまで俺の見立てだ。
実際にダンジョンを攻めてみて攻略出来ないようであれば仲間としては認められない。
ダンジョン攻略は実技だけでなく知略も問われるから実力を計るにはちょうどいいのだ。
「面白そうじゃない。私の実力を見せつけてあげるわ」
「ライレイ。いいのか?こんなしょうもないことでワシらの実力を図ろうとしておるのじゃぞ」
俺の提案に乗って来るライレイの顔からは自信しか窺えない。
ただ、エマはあまり乗り気じゃないようで呆れ顔を浮かべながらライレイに問いかけた。
「エマは自信がないの?」
「そんなことは言っておらん。この程度のお遊びごとで実力を出すまでもないじゃろうと言ってておるのじゃ」
「嫌なら止めてもいいんだぞ。その場合はカイト軍団を退団してもらうからな」
あくまで参加するかしなかはエマ達の判断次第だ。
強制ではないから止めたいのならば止めてもいい。
ただ、その場合はカイト軍団への正式な入団は認められない。
これから戦術を考える上でもエマ達の実力を知っておく必要があるのだ。
「私は参加します。でないとずっとエレンさんとは戦えませんから」
話を聞いていたカスミが口を開くと賛成の意志を示して来た。
これでカスミとライレイの参加が決定となった訳だがエマはまだ渋っている。
俺に実力を図られることを良いことだと思っていないらしく頑なに拒んでいた。
まあ、自分よりも実力の低い者から言われたら疑いを持つのはあたり前だ。
エマは苦虫を噛み潰したような顔をしながら2人を見やると俺に視線を戻した。
「わかったのじゃ。ワシも参加する。その代りこれだけじゃぞ」
「ああ。一度、見れれば十分だ」
エマが同意を示したことでラナナコールダンジョンへ向かうことは決定した。
「それじゃあ出発は明日だ。それまでに準備をしておけよ」
俺達は説明会を閉会させてそれぞれの準備に取り掛かった。
俺はさっそくギルドへ行ってクエストの登録作業をすませる。
ラナナコールダンジョンは既に攻略されているからモンスター討伐のクエストを中心に集めて行く。
ラナナコールダンジョンに出没するモンスターは岩砕土竜、シルバーゴーレム、バオバオ、骸骨騎士、碧小竜だ。
どれもそれぞれの階層に生息していて侵入者の手からダンジョンを守っている。
報酬は1匹あたり銀貨1枚でそれなりに強いモンスターであることがわかる。
まあ、モンスター討伐が今回の目的ではないから登録はあくまで仮のものだ。
「岩砕土竜とシルバーゴーレム、バオバオ、骸骨騎士、碧竜の登録をお願いしたい」
「あなたひとりでモンスターを討伐するつもりですか?」
「んな訳ないだろう。他に仲間がいるんだ」
ギルドの受付嬢の思わぬ言葉に軽くツッコミを入れながら登録用紙にサインをする。
それでも疑るような視線を向けて来る受付嬢は俺の後ろを確認しながら仲間の姿を探す。
「仲間は旅の準備をしているんだ。とっとと登録をしてくれ」
「まあ、いいですけれどね。登録するだけなら誰でも出来ますから」
あからさまに俺を小馬鹿にしながら受付嬢は登録作業をすませる。
そして登録カードを差し出すと念を押すように注意を促して来た。
「エジピア王国が定期的にモンスター狩りをしているのでダンジョンに逃げ込んだモンスターは独自の進化をして来ました。なのでダンジョンに出没するモンスターのレベルは高くなっています。ダンジョンは既に攻略されているので迷うことはありませんが、危険を感じたら迷わず裏ルートから逃げてください」
「わかってるよ」
「本当ですか?」
「俺に喧嘩を売っているのか」
しつこく注意を促して来る受付嬢に半ギレになると受付嬢は素知らぬ顔をして閉めた。
「では、ご武運を祈っております」
「なんか鼻につく奴だな」
一回殴ろうかと思ったが我慢をして登録カードを受け取り肩を怒らせながらギルドを後にした。
一方、食料の調達に出掛けたセリーヌは市場にいた。
総勢6人の往復8日分の食料を確保するのでそれなりの量が必要になるからだ。
市場は店舗で買うよりも安く手に入るので冒険者達には人気の場所だ。
「カイトさんは軽めのものでいいと言っていましたけれどあまり品祖なものではすぐに飽きてしまいますわ」
吊るされている干し肉の塊を試食をしながら商品を選んで行く、セリーヌ。
人気があるのは牛肉や羊肉だけどお手軽な鶏肉も最近は人気が上がって来ている。
脂身が少なくさっぱりしているのでスープなどによく使われるのだ。
「姉さん。買って行くかい?」
「とりあえず3羽分頂こうかしら。それと牛と羊を3キロずつお願い」
「毎度」
市場のおじさんが鶏肉3羽分と牛と羊を3キロ分の肉の塊を台車に乗せて行く。
セリーヌは懐から財布を取り出すと市場のおじさんにお金を払った。
「これから冒険かい?」
「ちょっとラナナコールダンジョンまでね」
「ラナナコールと言えば、この前、ラナナコールに行った冒険者がダンジョンで白龍を見たと言っていたぞ」
「白龍ってあの伝説の?」
セリーヌが驚いて聞き返すと市場のおじさんは顎鬚を撫でながらひと唸りする。
白龍は幻獣のひとつでかつて天と地を支配していたと言われる伝説の龍だ。
紅龍、青龍、碧龍、白龍が存在していて四天王とも呼ばれている。
手足は短く、蛇を彷彿とさせる姿をしていて背に巨大な翼を持っている。
空を自由に飛び回り、大地を自在に駆る姿はまさに最強の名が相応しい。
「まあ、そいつが白龍を見たって言っているだけで本当か定かではないがな。自分にハクをつけるためにホラを吹いているかもしれないしな」
「いずれにせよ注意した方がいいですわね」
「姉さんは大所帯で行くようだから問題はないさ」
台車に積み上げられた食料の山を見て市場のおじさんは安心したような顔を見せる。
すると、そこへ馬車をレンタルして来たミゼルが馬車を引いてやって来た。
「セリーヌ。買い物はすんだのか?」
「とりあえずカイトさんが注文した分の食料は調達できました」
台車の上の山になった食料を指し示めすとミゼルは目を丸くして驚きの表情を浮かべる。
セリーヌが調達した食料は干し肉、野菜、米、小麦、酒、水、卵、牛乳、香辛料など想定よりもたくさんの種類があったからだ。
これから商売でもはじめられるくらい食材が揃っていてカイトのオーダーを無視した形になっている。
「おい、セリーヌ。買い過ぎじゃないのか?」
「毎日、同じものでは飽きてしまいますからね。それに大所帯になったのですし、これくらいは必要ですわ」
「とは言ってもな……」
ミゼルはガックリと肩を落としながら呆れたように大きなため息を吐いた。
「カイトがこれを見たらどう思うか心配だ」
「料理は私がしますから何も問題はありませんわ」
市場のおじさんの手を借りて調達した食料を馬車に積み込むとミゼルを連れて市場を後にする。
「エマさん達の準備は整ったのですか?」
「エマ達はそれぞれ準備があるようで街に繰り出したぞ」
「そうですか。なら、私達の方が早そうですね」
セリーヌは御者台から空を仰ぎ見て大きく深呼吸をする。
太陽は天頂から離れて西の地平線に近づいている。
西の空は茜色に染まりはじめ東の空から夜がやって来ていた。
あと数時間もすればすっかりと夜の帳が降りはじめるだろう。
街行く人の足も速くなりはじめ家路に急ぐ子供達の姿も見える。
歓楽街の酒場の看板に火が灯り賑やかな喧騒が聞えはじめていた。
「あとは宿屋に戻ってカイトさん達と合流するだけですね」
「明日は早そうだから今日は早めに休んどいた方がいいだろうな」
セリーヌ達は馬に鞭を入れてカイトの待つ宿屋へと足早に帰って行った。




